プロローグ9
運命を変えられた?
そのサヤの言葉に、俺は眉をひそめた。
電車では、こういう運命になったって言ってなかったか?
「うん。そうだよ。だから、正確には『まだ変わってない』んだよ」
意味が分からない。
「本来の運命だと、夜衣斗はあの場所で骸骨犬が『喰い殺される運命』なんだ」
……はぁ!?なんだそりゃ!
「でも、その運命を変えられる選択があなたの中にあるの……この場所で、夜衣斗は渡されたんだよ」
渡された?何を?誰に?
「だから、選択して」
無視すんな!
「ここで人生を終えるか」
……冗談じゃない。そんな運命、絶対に認めない。
「もう一つは」
また、悲しそうなそれでいて優しい笑みを浮かべ、俺の前に両手を差し出す。
その手の中には、白銀色のミニチュアがあった。
これは!なんで!いや、夢の中だったらあり得るか?
驚く俺に、ほほ笑むサヤ。
それは、俺が子供の頃から考えている『空想の物語に登場する主人公ロボット』だった。
「この子を受け入れて、『過酷な運命』を歩むか」
受け入れてって?……それに、過酷な運命?
「ここで死んだ方がよかったと思えるほどの過酷な運命」
……なんだよ、それ。
「どうする夜衣斗?」
どうするも何も……俺は死にたくない。わけのわからないまま喰い殺されるなんて、絶対に嫌だ。
過酷な運命と言われても……正直、俺にはピンとこない。平凡な、場合によっては平凡以下の人生を歩んできた俺だが……今までに感じた事がない不安を感じる。
……だが、死ぬよりはましだ。
俺がそう決意した瞬間、サヤの姿が消え、ロボットのミニチュアが中に浮き、光に包まれた。
光は急速に大きくなり、二メートルぐらいの大きさになって、消えた。
光が消えたその場所には、騎士の甲冑を鋭角的にした様な姿をした主人公ロボットが、実寸大(?)になってこちらを見ていた。
主人公ロボットは、まるで本物の騎士がやるように片膝を地面につけて、頭を俺に対して下げた。
「名前を呼んで上げて、この子の名前を」
どこからともなくサヤの声が聞こえてきた。
……こいつの名前は……
物語の中で、主人公ロボットが、登場人物に呼ばれるシーンを俺は思い出した。
「王の機械にして王の騎士、『オウキ』!」