間章その一『星波学園の人々』15
★飛矢折★
それまであたしの後を微妙な距離で付いて来ていた彼が、不意にあたしの前を移動し、視界を遮った。
それで気付いた。
また、自分の感情が外に漏れている事に………。
……これで三度目、彼に感情が漏れている瞬間を見られたのは。
あたしは湧き上がる自分自身では理解出来ない、制御出来ない感情の渦に、身体が震えた。
このままじゃ、また……傷付けてしまう。美幸の様に……今度はあったばかりの彼を……美幸の様に優しい武霊使いを………。
あたしは自分を抑える為に、少し早歩きでこの場を後にした。
彼は無言で、それに文句を言わず、付いてきてくれる。
後は……生徒会室に彼を連れて行くだけ……それで、もう、関わらずに済む。
そんな風に、同じクラスなのだからありえない考えが反射的に浮かび、あたしはその逃げの思考に、あたし自身をまた恥じた。
……どんどん駄目になって行く。あの事件から、あたしは……あたしは…
★夜衣斗★
なんだかよく分からないが、不意に美羽さん達は喧嘩を止め、飛矢折さんは無言で歩き出した。
俺は黙って少し早歩きになった飛矢折さんの後を付いて行く。
……考えてみれば、あの二人は、一昨日引っ越してきたばかりの俺より彼女の事を知っているはず……それを考えれば……こっちを見ていたような気もするし、あの二人が不意に喧嘩を止めたのには頷ける。
……それにしても、犯罪武霊使いによる犯罪に巻き込まれた彼女の心は、少ししか彼女に触れていない俺にでも分かるぐらいに傷ついている様だ。全く関係無い武霊を見ても、恐怖を覚える程に……。
他人事ではあるが、彼女はこれからどうするのだろうか?ここは武霊が最もいる星波学園……て事らしいから、今の彼女にとって、ここにいるだけで非常に強いストレスを感じる場所になってるはず。
……もし、俺が彼女と同じ状況になったら………俺は学校に来ることなんてできないだろう。
彼女の何がそうさせるのか……高いプライドを持ってるのか、俺なんかとは比べ物にならないぐらい強い心を持ってるのか………まあ、少なくとも、彼女は俺より強い女性なのだろう……だからこそ、強く苦しんでいる……そう思えた。