プロローグ8
砂場に、ブランコに、滑り台に、僅かばかりの木々。
簡素な小さな公園。
どこかで……見覚えのある公園で、俺はぼけと突っ立ていた。
先ほどまで、俺は炎を全身から吹き出す骸骨犬に追われ、命を奪われようとしていた。はずなのだが……気が付くと、俺はここにいた。
前後の記憶が全くない。
あまりにも唐突過ぎて、さっぱりわけがわからない。と言うか、さっきから何も分かってないんだが……それにしても、どこかで見覚えがある公園だな……考えてみると、幼い頃、俺の両親は仕事の関係で引っ越しばかりしていた。その引っ越し先にあった公園なのだろうか?……いやいや、俺は星波町にいたはずだろ?
「そんなに混乱しなくても、夜衣斗はまだ星波町にいるわよ」
唐突に背後から声がした。
聞き覚えがある声だった。
……それもそのはず、さっき電車で唐突に現れ、唐突に消えた女性の声なのだから……。
「はぁ〜い。夜衣斗」
振り返ると、やっぱりその女性だった。
「ひどいな、私にはちゃんと『サヤ』って名前があるんだよ」
……初めてあった女性の名前なんか知るか。
「夜衣斗が付くてくれた名前なのになぁ……しょうがないか。憶えてないんだもんね」
なんだそりゃ………って、俺、一言も喋ってない。
「別に喋らなくても、考えている事は全部、私に伝わるわよ。だって、私は、あなたの『心の中に住んでる』んだもん」
……取り憑かれているのか俺。
「失礼ね。私、幽霊じゃないわよ」
……同じだろ。
「もう!違うったら」
じゃあ、何なんだよ?
「……教えてあげない」
………はぁ、悪い夢でも見ているんだろうか?
「うん。夢だよ」
はぁあ?……あんな状況で、寝てるってか。
「寝てるって言うより、私が夜衣斗の精神世界に引き込んだと言ったほうがいいかな?だから、ここは夜衣斗の心の中、記憶の中にある場所」
不意に、それまでからかう様な表情から一変して、悲しそうなそれでいて優しい笑みを浮かべる女性。
「夜衣斗の、『運命が変えられた場所』よ」