間章その一『星波学園の人々』2
★美羽★
「お母さん。いってきまーす」
「はい、いってらっしゃい」
お母さんといつものあいさつをしてから、夜衣斗さんの方向を見ると、春子さんがチューの姿勢になっていて、無言で夜衣斗さんは春子さんの頭にチョップしていた。
昨日から、夜衣斗さんの中での春子さんの評価はダダ滑りだろうなぁ………自業自得だから仕方ないけど。
夜衣斗さんは「いたぁ〜い」って言って頬を膨らました春子さんにため息を吐いてリビングから出ようとした。
その背中に、困った子ねっと言いたい感じの笑みを浮かべてお母さんが、
「夜衣斗君。いってらっしゃい」
そう優しく言った。
夜衣斗さんはびっくりしてから、ゆっくりと振り返って、前髪で見えないけど、多分、目を瞬かせてお母さんを見ている。
少しの沈黙の後、
「………いってきます」
夜衣斗さんはなんだか恥ずかしそうあいさつして、私と一緒にリビングを出た。
「初登校ですね」
家から出て星波学園に向かう途中、私がそう話しけると、夜衣斗さんはぎこちなく頷いた。
緊張しているのがまる分かり………ちょっと可笑しい。
あ!そうだ。学校に近付く前に、これを言っておかないと……危うく『大変な事』になる所だった。
「夜衣斗さん。部活はどこに入るつもりですか?」
私のその問いに、夜衣斗さんはちょっと考えて首を横に振った。
ふむふむ。帰宅部ですか………これはチャンス!
「じゃあ、夜衣斗さん。私と一緒のぶ」
部活に入りませんか?と言い切る前に、私の星電が震えた。
何だか嫌な予感がしたので星電を見ると、案の定、掛かってきた相手は今一番掛ってきて欲しくない相手からだった。
「ごめんなさい。夜衣斗さん」
一言謝ってから、私は星電にむすっと出た。
「おはようございますですわ。赤井さん」
聞くだけで頭にくる声が星電から聞えてきた。
「ええ、おはようございます。殊更さん」
「だ!誰が殊更よ!!ぶっころしますわよ!!」
あだ名を言ってやったら激怒する琴野。
彼女は星波学園全体の生徒会である星波学園統合生徒会の生徒会長であり、星波学園理事長・琴野 優香の孫娘・琴野 沙羅。要するに星波学園で最も偉い生徒なんだけど……どう言うわけか、よく私に喧嘩を売ってくる。
星波学園で彼女と私で一二を争う武霊使いって言われているせいか、あまり統合生徒会と仲が良くない自警団……星波学園の武霊使いのほとんどが町の外から来る武霊使いだから仲が悪いみたい。と言っても、はっきりと対立しているわけじゃないけどね……の要請を私がよく受けているせいか、兎に角仲がよくない。会う度に火花を散らしてるし、毎回毎回武霊を使った喧嘩に発展してる。
そんな仲が悪い琴野が私に電話を掛けてきた理由は……。
「まったく!あなたと会話を交わすと不愉快で堪りませんわ!!」
「私もよ」
「………ですから!用件だけ言いますわ。分かってると思いますけど、監視から連絡がありましたの。あなたが『条約』を破りそうだと」
やっぱり……相変わらず素早い対応……もっと早くに言っとけばよかったかな?もう手遅れだけど。
「わかってますわね。例え学園の外であろうと、あなたは仮にも我学園の代表たる生徒の一人なのですのよ。ですから、ルールはルールとして守っていただかなくては……よろしくて!」
「はいはい。わかりました」
「分かればよろしい」
そう言って挨拶も無しに琴野は通話を切った。
……ほっんとに腹立つ奴!!
いらいらしながら星電を仕舞う。
……それにしても……どうしよう。これで、夜衣斗さんは、『明日から大変な目に遭う事が決定』しちゃった………とりあえず、
「ごめんなさい夜衣斗さん」
そう謝る私に、何で謝られているのか分からない夜衣斗さんは首を傾げた。