第一章『武霊のある町』47(終)
★美羽★
とぼとぼと歩きながら、私はちらちらと夜衣斗さんの方を見ていた。
夜衣斗さんは無言で、私の歩調に合わせて歩いていてくれている。
私がどうしてあの家の前で立ち尽くしていたのか、夜衣斗さんは何も聞いてこなかった。
今の私にはそれはとてもありがたい事だけど……でも、言うべき事なんだと思う。
だって、夜衣斗さんは麗華に襲われた。だから、彼女がどうなったかを知る権利があると思うから………でも、高神姉弟の事を話したら、亮お兄ちゃんの事を話さなくちゃいけなくなる……私の口から、亮お兄ちゃんの事を、夜衣斗さんに言いたくなかった。
理由は……よく分からなかった……何だか、胸がもやもやしてて……私は、つい、ため息を吐いてしまった。
★夜衣斗★
……それにしても……何だったんだろう?あの自称最後の敵。
色々と納得できない別れ際、あいつは、
「「高神姉弟の事だが、安心してくれていい。君のほぼ思惑通り、警察に捕まっているからな………二度と君が襲われる事はないだろう」」
そう言ってどこかへ帰って行った。
少し気になる言い回しだったが、あの女に二度と襲われる事がないのは、美羽さんが無事な事からして間違いないんだろう……まあ、もっとも、最後の敵の言葉が正しければ、これから俺は今回の事の様な目にまた会う事になるんだろうな………死んだほうがよかったと思える過酷な運命ね………。
………どうして俺がこんな目に遭わなくちゃいけないんだ?
そう思って、つい、ため息が漏れてしまう。
★???★
同時に吐いたため息に、夜衣斗と美羽は驚いて互いの顔を見合わせてしまう。
あまりにもいいタイミングだったので、互いに目を瞬かせて沈黙。
ほどなくして、どちらからともなく笑い出してしまう。
夜なので互いに声を押し殺して笑う二人。
ひとしきり笑った後、どちらからともなく笑うのを止め、ちょっと気まずそうな顔に互いがなった時、美羽の携帯が震え出した。
美羽の母親からのメールで、
<夜衣斗君の歓迎会の準備、とっくに終わってるから、早く帰っておいで>
っと言う内容だった。
色々あって、すっかり歓迎会の事を忘れていた美羽は、慌てて夜衣斗の手を取った。
いきなりの美羽の行動に、驚く夜衣斗。
「急いで帰りましょう。夜衣斗さん」
わけも説明せず、やや強引に夜衣斗を引っ張って美羽は駆け出す。
夜衣斗は何が何だか分からないまま、半ば引きずられる形で走り出し、苦笑と共に再びため息を吐いた。
第一章『武霊のある町』終了
これで武装守護霊の第一章『武霊のある町』は終了です。
次は第二章。っと言うわけではなく、その間の話『間章その一』になります。
タイトルは『星波学園の人々』です。
第一章に引き続きこちらも読んで頂けると幸いです。