第一章『武霊のある町』46
★美羽★
大原。
そう表札が掲げられている家の前で、私は立ち尽くしていた。
夜なのに、その家には光は灯っていない。
それもそのはず、今、この家には誰もいないのだから……。
亮兄さんは春休みに起こした事件以来、人前から姿を消しているし………亮兄さんのお父さんは早くから病気で亡くなっているし、お母さんは仕事で世界中を飛び回ってて中々帰ってこれない。だから、この家は、今は無人。
それでも、つい、この家に来てしてしまった……。
高神姉弟は病院に搬送されて、目覚めるまで警察の監視下の下に入院させる事になった。
予定とは違うけど、これで星波町が抱えていた問題の一つが解決できた……けど……亮兄さんが何のつもりで武霊の能力を集めているか分かってないから……自警団の人達は口にはしないけど、不安そうな顔をしていた。
でも、捕まる様な武霊犯罪行為は一切していないから、警察も自警団の人達も亮兄さんを捕まえるわけにもいかなくて……やっぱり、あの時、無理をしてでも、私が亮兄さんを止めるべきだったのかな?……でも、あれ以上、戦ってたら……。
自分の思考がどんどん暗い方に落ち始めていた時、ふっと人の気配がしたので、気配のした方向を見てみると、先に家に帰っていたはずの夜衣斗さんがそこにいた。
★夜衣斗★
俺はちょっと思い違いをしていた。
美羽さんには暗い所がない人だと、笑顔を絶やさない人だと思ってた。
……だけど、あの自称最後の敵と別れて春子さんの家に帰っている途中、電気の点いていない家の前で見かけた美羽さんは、まるで別人かと思うほど暗い顔をしていた。
俺の気配に気付いて、俺の姿を確認した途端、笑顔に戻ったが、やっぱりどこか影がある。
多分、影を落としている原因であろう家の表札を見ると、大原っと書いてあった。
……色々と考えは付くが、深い詮索をするのは得策じゃないな……それに、美羽さんにとっても触れて欲しくない事かもしれないし……って、だったら、気付かれない様に別の道を探すんだったな……やっぱり俺は配慮が足りない。こんなんだから、女性に好かれないんだろう………とにかく、ここで突っ立てるわけにもいかないので、
「帰りましょう。美羽さん」
そう俺が言うと、美羽さんは少し驚いた様な顔をして……頷いた。