第一章『武霊のある町』45
★夜衣斗★
……あんたの言う人の宿命の悪意。確かにそれが俺に関わったのは分かったが……さっきあんたは言ったよな?俺が死ぬべき所で死ななかったから、あんたの運命と交差したって……つまり、同じ運命を背負っているって事だろ?なら、俺の過酷な運命ってやつを、あんたがどうにか出来るんじゃないのか?……正直、昨日今日みたいな事が毎回起こるなら、俺はそれに生き残る自信は全くない。
「「……なんとかしてやりたいのは山々だが……無理だな」」
無理って……何でだ?
「「確かに君の運命と僕の運命は交差している。だが、だからと言って、君の運命と僕の運命が重なっているわけではない」」
……要するに、大河(運命)の中をそれぞれ離れた場所で泳いでいるって事か?
「「そう言う事だ……本来なら、今回の事に僕は一切関与しなくてもよかった。だが、放って置くと、僕の運命の決着が、予想していた時間以上に掛る事を予知した。だから、君の手助けをした」」
つまり、俺の行動次第で、あんたの運命も変わり、俺が死ぬ事で、あんたの望む未来に辿り着けにくくなると?………俺はあんたの風除けかよ。
「「まあ、そう言っても過言ではないな」」
………………あんた………一体、何者なんだ?………もしかして、俺に運命を変えられる選択ってのをくれた奴なのか?
「「そんな力を持っているなら、とっくに自分で使っているよ」」
………まあ、そうだろうな。
「「だが、君にその選択を与えた人を、多分、僕は知っている………もっとも、それに確証はない。だが、そんな事を出来る人を、僕は一人しか知らない」」
誰なんだ?
「「知った所で、今の君には意味のない事だと思うが?」」
……そりゃそうだが……
「「そもそも選択を与えられているなら、その時にあの人と会っているんじゃないのか?」」
………覚えてない。
「「……そうか………そろそろ時間だな」」
時間?
「「言っただろ?僕には僕の運命があり、君と同様にその運命と戦っている」」
……なるほど。
「「心配しなくても、可能な限りだが、君の手助けをするつもりでいる」」
それはありがたいが………何にせよ。逃れようがないわけだ。逃げても、忘却現象で逃げた理由を忘れるだろうし、親に説明すら出来ない……か………嘘を吐くのも苦手だしな……ってか、今気付いたが、いや、さっきから気付いていたが………名乗れよな。俺の名前は知ってんだから。
「「すまないが、今の君には教える事が出来ない」」
なんだそりゃ?
「「代わりに、これだけは教えよう………君と僕との運命が本来重なり合うのは、君が『全ての運命を乗り越えた先』にある」」
?………ん?なんだか、それって………
「「そう。僕は………君の、『最後の敵』だ」」