第一章『武霊のある町』41
★???★
彼は世界に失望してた。
毎日毎日決まった道で学校に行き、塾へ行き、誰もいない家に帰り、冷たいご飯を食べて、歯を磨き、お風呂に入って、寝る。
毎日毎日。
少しだけ良い容姿に、周りが騒ぎ、羨み、妬んでいたが、彼はどうでもよかった。
何かしたいわけでもない。
将来に希望が持てるわけもない。
どうせ大人になった所で、大して変わるわけでもない。
同じ様に会社に行き、残業をし、誰もいない家に帰り、冷たいご飯を食べて、歯を磨き、お風呂に入って、寝る。
何も変わらない毎日。
そんな未来に、そんな仕組みの世界に、彼は失望していた。
だからと言って、他の生き方に今更なる気はないし、何か楽しみにしている事もない。
彼は、どうでもよかった。
………だから、彼は自分が誘拐されても、どうでもよかった。
例え、自分を誘拐したのが、地下売春組織だとしても、どうでもよかった。
日々繰り返される残虐で、屈辱的で、人として終わった行為。
同じ様に誘拐された子供達は必死に抵抗して壊されていく中、彼だけは一切の抵抗もしなかった。
環境が変わっただけで、状況が変わったわけでもない。
そう思ってたからだ。
昨日と同じ様に、同じ事が毎日繰り返されるだけ、だから、彼は失望していた。
そんな中、彼を買った客の一人の気紛れで、彼に姉があてがわれた。
勿論、本当の姉弟にしたいわけでもなく、地下売春組織らしい腐った理由で。
最初は、それすらどうでもよかった。
だけど、彼は、そんな環境の中でも、つたないが、まるで本当の弟の様に接してくれるその姉に、心を初めて動かされた。
人としてどこかおかしい。まるで、ずっとこの場所に閉じ込められていたかのようなその姉は、本当の家族にすら向けられた事がない、不器用で、乱暴で、穢れた優しさを彼に向け続けた。
同じ事を繰り返す日々に、単調で残酷な白黒の世界に、色が付いた。
そして、いつしか彼は、彼女に恋をした。
本当の恋なのかは、彼には分らなかったが、彼は生れて初めて芽生えたその気持のままに、姉の望むままに、本当の弟の様に接する様になった。