第一章『武霊のある町』40
★???★
日々繰り返されるのは、他人の欲望のはけ口とされる堕落した行為。
望む、望まないにも関わらず、その行為を彼女は受け続け、
目が腫れるほど涙を流しても、
声を枯れるほど叫んでも、
手が腫れるほどドアを叩いても、
その行為は強要され続ける。
彼女に許されるのは、欲し続ける事だけ。
ベット以外に唯一あるテレビ。
そこから得られる外の情報。
彼女はただただ欲し続けた。
欲しい。
欲しい。
全部欲しい。
この世の全てが欲しい。
おれも欲しい。
これも欲しい。
それも欲しい。
でも、手に入らない。
何故なら、彼女は弱い人間。
昨日も、今日も、明日も、奪われ続けるだけの弱い人間。
★夜衣斗★
謎の電動車椅子の男は、喉の傷のせいで本当に喋れないらしく、電動車椅子に付けられているノートパソコンに言葉を打ち込んで、自身の代わりに喋らせている様だった。
人工音声なのだろうが、機械らしさは僅かしか感じさせない。
かなり興味をそそられるが、今はそんな事を気にしている場合じゃないな……。
俺が今いる場所は、春子さんの家の近くにある小さな公園。
滑り台の柱に背を預け、正面にいる電動車椅子の男と対峙していた。
「「まずは、おめでとうとでも言うべきかな?」」
……そりゃどうも。
「「これで君はまた一つ過酷な運命を乗り越える事が出来たわけだ」」
……まるで俺の運命を知ってるみたいな言い様だな。
「「知ってるさ。僕はある程度、予知が出来るからね」」
予知?……超能力者?
「「まあ、言い様によってはそうだな。もっとも、予知出来るとは言っても、『断片的』な上に、『自分に関連する事』以外、見る事が出来ない」」
……つまり、俺の『過酷な運命』ってやつに、『あんたが組み込まれている』って事か?
「「正確には、『本来昨日死ぬべき君が生き残った事で、僕の運命と交差してしまった』、だ」」
?
「「今は理解できなくてもいい。だが、これだけは理解して欲しい。僕と君の過酷な運命は、『人の宿命の悪意、もしくはその結果と相対しなくてはいけない運命』だと言う事を」」
人の宿命の悪意?その結果?
「「そうだ。人は、常に宿命の様に悪意をその身に宿し、常に相対しながら歴史を刻み、重ね続けている、そして、人は、その宿命の悪意に打ち勝って、文明・文化を作り、社会を構築し、国を築き上げた。だか、打ち勝ったからと言って、宿命の悪意が消えたわけでもなく、今も人の中で人を呑み込む勢いで肥大化している。意図的に、無意識に」」
……………それで……今回のどこ部分に、その宿命の悪意が関わっているって言うんだ?
「「………高神姉弟は、星波町に来る前、『地下売春組織によって売春を強要されていた』」」
……………はあ!!?