第一章『武霊のある町』39
★美羽★
高神姉弟が乗せられている救急車の発車音を聞きながら、私は膝に顔を埋めてグランドの隅に座っていた。
「大丈夫か?美羽」
心配そうに声を掛けてくれる美春さんに、「はい」っと言って笑みを返したけど……美春さんは困った顔をして廃校舎の調査に戻って行った。多分、上手く笑えなかったんだと思う。
救急車に乗っていた医療系の武霊使いの話によると、高神姉弟の二人は、意識を失っているだけだった。ただし、『武霊を失って』。
昨日の田村さんの様に、一度死んで、はぐれ化したなら、その暴走で周囲は壊れてるし、その音とかで麓の人達が気付いて自警団に連絡が来ているはず。それに、高神姉弟を一度殺してわざわざ生き返らせる事が出来る武霊使いの人を私は知らない………夜衣斗さんなら出来るかもしれないけど、人殺しなんて絶対にしそうにない人だし、そんな余力は残って無かったと思う。
……だから、こんな事を出来る武霊使いは、私は一人しかいなかった。
麗華の武霊以外に、『もう一体だけ他人の武霊を奪う事が出来る武霊』がいる。
それは、大原亮の武霊ブルースター。
麗華の武霊とは違って、『武霊使いを殺さずに喰らって、武霊を奪い、その能力を手に入れる能力』だけど、喰われた武霊使いは、『はぐれ化から生き返った武霊使い同様に一ヶ月以上意識を失ったままになる』。
状況から考えて、間違いなく大原亮の仕業………だと思う。
だけど……そうだとしたら……今、大原亮は、私では『想像出来ない様な悪夢に襲われている』はず。
何故なら、ブルースターの武霊を奪う能力を使うと、生きている人から無理矢理奪って取り込むせいか、『その武霊を形作っているイメージの記憶を、追体験してしまうデメリット』があって……だから、奪った武霊のイメージの記憶が、明るいものだったらいいけど……もし、そのイメージが想像を絶する酷い記憶だったら……人の心が壊れてしまうほどの記憶だったら……。
……どうして……どうして。こんな事を続けるんだろう?
『一ヶ月前の、春休み中に彼が起こした事件』から、私は彼の……『幼馴染であり、お兄ちゃんと慕ってた人』の考えが分からなかった。