第一章『武霊のある町』38
★???★
自警団が星降り山に集まるより前、夜衣斗が源さんに出会うより前、高神姉弟は廃校のグランドに降り立っていた。
意識を失っている麗華を抱え、キゾウの背中から飛び降りた礼治は、ふらふらになりながらも廃校舎に向かって歩き出す。
その瞬間、地面から槍の様に鋭い木の根が飛び出し、キゾウを串刺しにした。
キゾウの断末の叫びに驚き振り返った礼治の目の前で、キゾウは消える。
そして、キゾウが消えた先、廃校の校門に一人の青年が立っていた。
礼治はその青年に見覚えがあった。
「大原……亮!」
その青年・『大原 亮』の背後には、『青い人型のドラゴン』が立っており、そのドラゴンが上げていた片手を下ろすと、キゾウを串刺しにした木の根が消える。
「くそぉ!!」
礼治は必死に廃校舎に向かって走り出す。
だが、向かった廃校舎から見覚えのある少女が現れたのを確認して、礼治は足を止めざる得なかった。
その少女の右腕には、小さな龍が巻きついており、竜の頭と共に右手が礼治に向けられている。
礼治は反射的に腰に差していた自動拳銃に手を掛けるが、そんな物は武霊を具現化している武霊使いに、特にこの二人には意味がない事を思い出し、銃を構える代わりに麗華を強く抱いた。
「喰らえ、ブルースター」
亮がそう命令すると、人型のドラゴン『ブルースター』はゆっくりと礼治達に近付き、二人を丸飲み出来るほどに口を大きく開けた。
「守れなくて、ごめん。麗華」
そう言って、礼治はさらに麗華に強く抱き付いた。
その時、意識を失っていた麗華が、少しだけ意識を取り戻し、その礼治の思いに応える様に抱き付き返す。
礼治が泣きそうな顔で微笑みを麗華に向けると同時に、麗華と礼治はブルースターに喰われた。
「お前達の業は、俺が引き受ける」
亮がそうつぶやくと同時に、亮は辛そうな表情になり、意識を失った。
意識を失う事を予想していたのか、少女が亮に駆け寄り、倒れる寸前の身体を体で受け止められる。
亮が意識を失った事により、彼の武霊であるブルースターが消え、無傷だが意識を失っている麗華と礼治がグランドに落ちた。
「亮」
少女は亮の顔を見ながら名前を呼ぶが、苦しそうに意識を失っている亮は答えるはずもなく、少女は辛そうに亮を強く抱くしかなかった。