第一章『武霊のある町』36
★美羽★
「すまない美羽」
そう言って頭を下げる美春さん。
「いえ。私も決着を付けたい相手でしたから……普通は信じられませんよね。昨日、武霊使いになったばかりの人が、あの高神麗華の武霊を全て倒しているなんって」
私はそう言って苦笑した。
私が今いる場所は、夜衣斗さんと言った星波山とは反対方向にある星降り山山道前。
この山の中腹に、廃校があって、そこを高神姉弟が不法占拠している。
弱った二人が星波町内で唯一逃げ込めるのが、そこしかないから、自警団の人達はここにいるんだけど……私と美春さんを合わせても、十人しかいない。それも、美春さんを含めた八人の身体のどこかに怪我をしていて……。
一応、八人全員が自警団の中でも古株の人達で、武霊使いの中でもトップクラスの人達なんだけど、今までの高神姉弟を捕縛しようとした時に比べて明らかに少ない。今日が日曜日なのがいけないと思うだけど……多い時は五十人ぐらいいたんだけどなぁ……でも、今の状態の高神姉弟なら、十人だけでも大丈夫かな?……唯一武霊を出せる状態だった礼治も、私との戦いで意志力を限界まで使ってるだろうし……。
「それにしても、本当なんだろうね?」
そうへらへらしながら問い掛けてきたのは、十人の中で私以外に怪我をしていない星波町警察の刑事・東山 賢治さん。
星波町警察の中で、最も強い武霊を持っている武霊使い……なんだけど、常にへらへらしているから、私はあまり好きな人じゃない。
「麗華が武霊を出せない状態にあるってのが、嘘だったら、俺達死んじゃうよ?美羽ちゃん」
「何体か倒している所を見ていますから、嘘じゃないと思います」
「へ〜ぇ?昨日会ったばかりの男なのに、やけに信用しているねぇ?」
私の答えに、どこかへらへら度を上げる東山さん。
「私、人を見る目はあるつもりですから」
私がつい、むっとして言葉を言い返すと、東山さんは急に真剣な顔になって、
「惚れちゃった?」
とか言い出した。
「っな!っな!」
驚きのあまりに言葉が出なくなった。
いきなり何を言い出すんだこの人は!
「惚れちゃったんだぁ」
再びへらへら顔に戻る東山さん。
っこ、この人はぁ〜!!
「東山。美羽をあまりからかわないでくれるか?」
「へいへい」
美春さんの言葉を軽く受け流す東山さん。
ため息を吐いた美春さんは、この場にいる全員を見て、
「召集連絡の時にも言ったが、高神麗華が武霊を出せなくなっているのは、私も確認している。黒樹夜衣斗の証言が、嘘か、嘘でないかにもかかわらず、今が千偶一隅のチャンスである事には変わりない………殺された人達の仇を討つ」
そう言った。
その言葉に、私も含めた八人の瞳に力が宿る。
「殺しちゃ駄目だからねぇ〜」
「……分かってる」
気楽に水を差した東山さんに、全員の白い目線が集まった。