第一章『武霊のある町』33
★夜衣斗★
美羽さんは、遠慮なしに、躊躇いなく、こっちのテリトリーに入ってくる。
緊急事態でもないのに、こんな根暗な俺の手を躊躇わず取るし、純粋でまぶしいぐらいの笑顔を向けてくる。
「ようこそ、星波町へ」
そう言って向けられた笑顔に、俺の心臓は高鳴り、多分、顔が物凄く赤くなったんじゃないんだろうか?
夕方なので、バレてはいないだろうが………これには、密かに狼狽するしかない。
明るく、真っ直ぐな女の子。他人を助ける為に、人を殺す覚悟が出来るほど意志の強い女の子。
今まで俺の周りに、こんな女の子はいなかった。
……今、ハッキリと分かった。
俺は彼女に惹かれている。
多分、昨日、コウリュウの背中であの笑顔を向けられた瞬間に、俺は美羽さんに『一目惚れ』してしまったんだと思う。
…………今まで、そんな経験はなかったから、その瞬間に気付けなかった。ってか、そんな事に気付けるほど余裕のある状況じゃなかったな。
……それにしても、俺って美羽さんみたいなタイプは、苦手なはずだったんだけどな……いわゆる恋の力って奴か?………うわ。何考えてんだ俺?
……何にせよ。『進展しない一方的な恋』になるだろうな………。
そう思った俺は、思わずため息を吐いてしまった。
森林公園から家に帰る途中の事で、隣を歩いていた美羽さんが不思議そうな顔で俺を見る。
ため息の理由を説明するわけにもいかないので、俺は美羽さんの視線に気付かない振りをする事にした。
……それにしても、昨日今日で俺の心臓はかなり酷使されただろうなぁ……今だって、こんな近い距離に美羽さんがいるってだけで、心臓がうるさいぐらい高鳴ってる……まあ、美羽さんだけのせいじゃないが…………チキンハートめ……
今度は小さく美羽さんに気付かれように溜め息を吐いた。
いつもそうなのだが、俺は誰かを好きになっても積極的にアプローチが出来ない。内向的な性格だからっと言う理由もあるが、何より人とコミュニケーションを取るのが苦手だし、それに輪を掛けて、俺の見た目と性格が、女性に嫌われやすい事を自覚しているからだ。
目を前髪で隠し、全体的に暗い男が好きだって言う女性は滅多にいないと思う。思春期真っ直中の女の子なら、特にだ………その根拠に、俺の記憶の中に、女の子に嫌われた記憶があっても、好かれた記憶はない。
今日の町の案内だって、美羽さんにしてみれば、星波町民の義務みたいなもののようだし……俺に向けられた笑顔は、彼女の本質的な優しさから出ているんだろう。
……まあ、当り前の話だな。昨日会ったばかりの男に、好意の入った笑顔を向けてくるはずがない……勘違いしちゃいけないな。下手な勘違いは、自分も、相手も傷付ける……そう、傷付けるんだ。