第一章『武霊のある町』32
★美羽★
「ここが私が最後に案内したかった場所です」
私がそう言って振り返ると、夜衣斗さんは両手を膝に付けて、肩で息をしていた。
考えて見れば、ここって星波山の中腹なんだよね……見るかにインドア系の夜衣斗さんには、結構きつかったみたい。
私達が今いる場所は、星波森林公園……だった場所。なんでだった場所かって言うと、この付近が現在『武霊使い以外が接近する事を禁じられている区画』だから。
実は、はぐれが発生するポイントは二つあって、一つは星波海岸一帯。そしてもう一つが、ここ星波山山頂一帯。どちらから出るかはほとんどランダム。
だから、万が一のはぐれ発生に対応できる武霊使い以外の接近は禁止されてる。でも、接近が許されている武霊使いだって、わざわざ危険だと分かってる場所に近付きたくないし、無理して近寄る必要性のない場所だから、公園は自然封鎖されちゃったわけ。
そんな訳で、ここは普段、誰もいない。
それでも私はここを、星波町で一番気に入っている。
森の雰囲気は好きだし、春になれば数多く植えられている桜の樹が視界一面に花を咲かせ、何より気に入っているのが、
「夜衣斗さん」
呼吸が整ってきた夜衣斗さんに、私は手を差し出す。
困惑している雰囲気がはっきりと見えるけど、私は構わずにしゃがんで夜衣斗さんの片手を取って、立ち上がらせる。
「こっちです」
そして、そのままされるがままの夜衣斗さんを引っ張って、目的の場所・星波町全体を見渡せる高台に移動した。
丁度、空が茜色に染まる頃だったので、町全体が印象的な光景になってる。
横にいる夜衣斗さんを見ると、夜衣斗さんはその光景に目を奪われている様だった。
その様子に、私は自然と笑みがこぼれた。
ここに案内してよかった。
そう思ったから。
今まで町の案内をしてきた人は、当然だけど、全員武霊使いじゃなかった。だから、このとっておきの場所を案内できなくって、いつも何だか消化不良な感じで……だから、昨日の夜、夜衣斗さんを案内するルートを決めていた時、ここを案内できるって気付いた時、とっても嬉しくて………あ!そうだ。ここを案内出来たら、『これ』もやりたかったんだけ。
「夜衣斗さん」
私は繋いでいた手を離して、夕焼けに染まる星波町をバックに夜衣斗さんの正面に立った。
「ようこそ、星波町へ」
夕陽のせいか、夜衣斗さんの顔が真っ赤になっていた。