第一章『武霊のある町』31
★夜衣斗★
俺の前を歩く美羽さんが、妙にこちらをチラチラとこちらを見ている。
自警団の団長・幸野美晴さんと言うらしい、と別れ、俺は、美羽さんが最後に見せたいと言うお気に入りの場所に案内されていた。
……個人的には、既に肉体も精神もボロボロに近くて、とっとと春子さんの家に帰って休みたいんだが……まあ、そんな空気じゃないな……にしても、元気だな美羽さん。流石、星波町でトップレベルの武霊使い……ってか、本当に何なんだろう?チラチラチラチラと視線が気になる……俺、何かしたか?……チャックが開いてるとか?……開いてないな……ん〜〜〜ん?
視線の意味が分からず、悩みながら美羽さんの跡を付いて言ってると、不意に俺の横を小さな何かが走り抜けた。
反射的に視線をその走り抜けた何かに向けると、『ねじり鉢巻きをした小さなひげもじゃおっさんが、自分の体より大きなハンマーを担いで走っていた』。
思わず凝視していると、美羽さんがそれに気付き、苦笑した。
「あれ。私達の間では、『源さん』って呼ばれてます」
……まあ、確かに源さんって感じだな。
「はぐれの一種なんですけど。普通のはぐれと違って、『人を襲わないで武霊に壊された建物とかを、壊される前の状態に戻してくれる』んです」
……はぁ?
「見に行きます?」
考えてみれば、いくらはぐれが建物内の人を襲わないからと言って、その戦いや武霊使い同士の激突で、町が壊れないはずはない。と言うか、昨日、その現場を実際に見てるしな……あんな事がしょっちゅう起きているのであれば、普通、町はボロボロになってるだろうし、仮に壊した所から直しているなら、町の財政状況はとっくに破綻して、町民に破産者が続出してるはずだ。けど、今日案内された町の様子からしても、そんな気配は全くない。
っで、その理由が、今、目の前で起こっていた。
剛鬼丸が消滅させて開いたクレーターの前で、源さんと呼ばれるはぐれがハンマーを振るう。
その瞬間、目の前で信じられない現象が起きた。
ハンマーが降られる度に、地面や、塀や、家が、っぱっぱっと擬音を付けたくなる様な感じで次々と元に戻る。
全てが元に戻ると、源さんは、ふーやれやれと言った感じで肩を叩き、ハンマーを肩に担いですうっと消えた。
恐る恐る家の方を確認してみると、ポストの中に無理やり詰め込まれていた新聞やら手紙やらも元に戻っている。
武霊ってのは、こんな事も出来るんだな……それにしても、何であのはぐれは、こんな事をするんだ?
「……元々、あの源さんは、武霊発生当時に武霊使いになった人の武霊だったそうです」
俺の疑問の視線に気付いたのか説明してくれる美羽さん。
「詳細は当時の混乱のせいでよく分かっていないんですが、その人は町を蹂躙していた『大型のはぐれ』と戦って、まるのみされてしまったんだそうです」
……まるのみって……ってか、人を呑み込めるほどの大型のはぐれも出てくるのか………勘弁願いたいね。
「そのまるのみしたはぐれは、結局倒されることはなく、自然消滅しちゃったみたいなんですけど……」
自然消滅ね……そう言えば、はぐれは宿り主がいないから、存在を維持する為に人を襲い、意志力を奪うって言ってたな。だから、人を食べれなければ、はぐれは自然消滅する末路……うへぇ。ここはサバンナか?
「っで、どう言うわけか、その後、あの源さんが、町が武霊に壊される度に出るようになったんです……多分ですけど、はぐれを発生させている『何か』に、はぐれにまるのみされた事で取り込まれてしまったんじゃないか。って言われてます」
……………
「あ!一様はぐれですから、他のはぐれ同様に『一度倒すと二度と出てこない可能性』があるんで、くれぐれも間違って倒さないようにしてくださいね。今の所、あの源さんと同じ様な能力を持った武霊はいませんから」
……なるほど。
とりあえず、俺は頷いた。
それにしても嫌な話を聞いた。
はぐれにのみこまれると、『何か』に取り込まれるね……俺ものみこまれると、オウキが出てくるようになるんだろうか?……まあ、喰われたくはないが。