第一章『武霊のある町』29
★夜衣斗★
あっと言う間だった。
突然、機械象が麗華の隣に現れ、同時に現れた少年が高神を抱え、機械象に飛び乗った。
「キゾウを消せ、コロ丸」
団長の命令に、犬の武霊・コロ丸は機械象に飛び掛かろうとするが、その瞬間に機械象の口から大量に出てきた小型機械象に阻まれる。
……そう言えば、そんな機能があったな。あのアニメのロボットには……。
などと思っていると、機械象が耳を広げ、空へと飛び去ってしまった。
その直後に、体毛を刃に変化させて全ての小型機械象を倒したコロ丸。すかさず機械象を追おうとするが、
「もういい。コロ丸待て」
と団長に言われ、急停止。もっとも、その顔はどんどん小さくなる機械象に向けられ、悔しそうに唸っている。
団長は苦笑して、そのコロ丸の頭に無言で手を置き撫でた。
その団長達の隣に、コウリュウがゆっくりと降り立ち、腕に抱いていた美羽さんを下ろした。
「怪我は大丈夫なんですか美春さん」
「死ぬほどの怪我じゃない。気にするな」
……と言うか。なんで男言葉?……結構美人なのに……いや、逆にありか?
などと今の状況に全く関係ない事を考えていると、美羽さんは周囲を確認して、どこか困惑した表情になっていた。
「美春さん……だけですか?」
「ああ」
「そうですか……」
……よく分からないが、どうやら美羽さんは自警団に応援を頼んだんだろう。っで、団長しか来なかった。
まあ、誰だって殺人鬼、しかも無数の武霊を同時に使える武霊使いに会いたくないだろう。俺だって、不可抗力じゃなければ、一生会いたくなかった。
「大丈夫ですか?夜衣斗さん」
さっきからずっと仰向けに倒れている俺に、ようやく美羽さんが声を掛けてくれた。
まだ動く気になれないので、とりあえず頷く。
「君の話は美羽から聞いている」
団長はそう言うと、まだオーバードライブモードのダメージから回復していないオウキを見た。
「……話通り、強力な武霊を持っている様だな」
ふっと思ったが、この人、たった一人で応援に来て、どうするつもりだったんだろうか?……まあ、深く考えるのは止めよう。と言うか、今はなんも考えたくないな。
「まさか、高神麗華に狙われて生き残るどころか、武霊も出せなくなるまで消耗させてるとは、思いもしなかった」
……そう言われて、ふっと思い付いた。
「今」
俺が唐突に声を出したので、ちょっと驚いた様に俺を見る美羽さん。
……考えてみれば、朝に一言二言喋ったきり、喋ってないな俺。
団長も俺を見たので、俺は続きを口にした。
「高神麗華の保有している武霊はゼロになってます」