第一章『武霊のある町』28
★夜衣斗★
意識が落ち掛け、視界が暗くなる。
その瞬間、急に首絞めから解放され、上に乗られている荷重を感じなくなった。
咳き込み、足りなくなった酸素を思いっきり吸う。
意識が少し回復したので、何が起こったか確認しようと周囲を見回すと、俺の隣に『巨大な白い犬』がいた。
あり得ない大きさなのからして、これも武霊なのだろう。
「大丈夫か、少年」
そう言われた方向を見ると、眼帯をし、右手にギブスをはめているポニーテールの女性がいた。
その腕には、星波町自警団団長と書かれた腕章がある。
自警団の団長?女性が?……まあ、何にせよ。助かった。
★美羽★
突然現れ、夜衣斗さんの首を絞めていた麗華を突き飛ばした武霊に、私は見覚えがあった。
星波町自警団団長・幸野 美春さんの武霊コロ丸。
と言う事は、美春さんが助けに来てくれた!?……って、美春さんって、治療系の武霊使い待ちで、昨日から怪我をしたままなんじゃ……あの人、普段団長なんてやる気無いってよく言うくせに……義務感が強いと言うか……。
私は少し苦笑をしながら、夜衣斗さんの近くに降りようとして、気付いた。
コロ丸に突き飛ばされ、道路に倒れている麗華の隣に、レベル1になったキゾウが現れたのに。
★???★
嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ。
麗華は心の中で絶叫していた。
意志力の消費し過ぎと、コロ丸の体当たりによるダメージで、麗華は指一本動かせなくなっていた。
更に『今の今まで精神を安定させていた奪った武霊達』を失った事により、急速に精神が崩壊し始めている。
嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ……。
「麗華お姉ちゃん」
気が付くと、麗華は弟礼治に抱き抱えられて、弟の武霊に乗っていた。
麗華の瞳に礼治が映った途端、自然と涙が流れ、『最後に残された自分の物』を確める為に手を動かそうとするが、僅かしか動かない。
麗華の動き気付いた礼治はその手を握り、ゆっくりと口付けを交わす。
それで安心したのか、麗華は穏やかな顔になって意識を失った。