第四章『それぞれの裏、さまざまな真実』74
★???★
緑川響。
武霊研究部の問題児にして、武霊バトル馬鹿でアホ。
それが彼に対する周囲からのイメージだったが、一部の者からは、勿体無い人物と思われていた。
身に付いている筋肉は見せかけではない為、運動能力は非常に高く、運動部の顧問からは武霊研究部にいる事を才能の無駄遣いと思われ、気の短さや意思の弱さから武霊を最大限使えていないと部内から嘆息されている。
本人とその武霊は個別では高スペックなのだが、何故かセットになると互いに弱くなると言うある意味非常に武霊使いとしては珍しいタイプだと言えた。
その顕著な例が、イフリートの最大最強の技である『フレイムワールド』。
この技は、イフリートの周囲に炎の柱に似た結界を作り出し、任意の対象を燃やし尽くすイフリート最大最強の技。
ただし、響はこの技を使いこなす事が出来ない為、封印している。
武霊の技なども武霊の一部である為、使う為には武霊具現化同様に武霊使いの強いイメージが必要になる。そして、それは規模が大きく、威力が高ければ高いほど必要だった。
それ故に、気が短く、意思の弱い響には、フレイムワールドを安定させる事も、維持する事も難しく、使う度に周囲を危険に巻き込み、武霊研究部にいた頃の琴野沙羅の武霊ヒノカを燃やした事があった。
だからこそ、自身の武霊を完全に制御する為に、強い武霊使いに武霊バトルを挑み、鍛えようとしているのだが、今の所それはうまくいっている様子はない。
★夜衣斗★
………つまり、
「………三島忠人によって意思を支配された事により、不安定だった情動と意思が安定化し、フレイムワールドを使える様になったと?」
「まあ………そう言う事だろうな………」
俺の予想に、同意して溜め息を吐く村雲。
村雲とは星波駅へと撤退中に合流し、イフリート対策の為に緑川の事を聞いたんだが………対策が思い付かない。
フレイムワールドはただ任意の範囲に入って来た対象を燃やすと言うある意味単純明快でシンプルな能力だが、シンプルな分、小細工などで崩せる隙が生じ難い。
強力な武霊能力だった青葉さんの武霊能力が効かなかった俺なら………もしかしたら、効かない可能性もあるが………俺だけ効かなくてもな………俺個人に戦闘能力があればいいんだが、それらは一朝一夕で身に付くものじゃないし………どうする?
幸いなのか何なのか、フレイムワールドが発動してから、三島忠人に支配されている武霊使い達はフレイムワールド内に引き上げているので、考える時間はあると言えばあるが…………炎さえ燃やすと言うのがかなりのネックだった。
ただの炎ならサラマンダーさんや火結さん達に頼む事も出来るだが………仮にサラマンダーさんを炎に紛れ込ませてフレイムワールド内に侵入させても、見付かってしまうと………焼死させられかねない。
何か………緑川を大きく隙を作る『何か』があれば………
そう思った時、早見さんから通信が入った。
「「はいは~い。あなたの芽印ちゃんですよぉ~」」
「……………」
「「………いや、あのね。そこで沈黙されると私としても大いに困るんだけど………」」
俺は溜め息一つ吐き、
「………なんです?こちらはあまりよろしくない状況なので、手短に」
「「はいはい。えっとね。次の電車がそろそろ到着しそうなんだよね………っで、緑川君のお母さんの話によるとね」」
緑川のお母さん?
そのある意味タイミングの良い人物の話に、俺は僅かな光明を見出す事になった。
★飛矢折★
接近戦担当班の撤退が完了してから少しして、あたしは星波デパートの屋上で監視をしていた。
瞬輝丸を使った影響で、未だに全身に力が入らないから、これぐらいしか出来ないんだけど………
緑川君が武霊で作り出したフレイムワールドは、徐々に広がりながら且つ星波駅に向かって進行していた。
あれのせいで夜衣斗君の作戦はまた変更せざる得ない事態になっていて………黒樹君はその進行を少しでも遅くする為か、実験の為か、シールドサーバントを大量に使ってシールドの壁を作ったりしてたけど………どれもフレイムワールドの炎に触れた瞬間、焼失してしまう。
オウキにあっさり倒された緑川君の武霊が、こんなにも強力な能力を持っているなんて………
あたしにはどうする事も出来ない事態に、あたしは思わず深いため息を吐いていた。
「あらあら、思わせぶりな溜め息ね。恋?」
不意に芽印が隣に現れ、そんなふざけた事を言う。
あたしは溜め息を吐き、
「あなたの冗談に付き合ってあげるほどの体力はないわ………」
「酷い!私は冗談なんか言ってないわ!」
大げさな感じで嘆く芽印に、あたしは白い目を向けつつ、
「……っで?どうする事になったの?」
「あ、その事なんだけど」
あたしの問いに、ころっと態度を変える芽印に、あたしは呆れるしかない。
黒樹君は、星波駅に帰ってから直ぐに、主要メンバーを集めてフレイムワールド対策を考える作戦会議を開いてた。
それに芽印も呼ばれていたので、何らかの作戦が決まったと思ったんだけど……………芽印から聞かされた対イフリート緊急作戦に、あたしは困惑して思わず、
「大丈夫なのそれ?」
って聞いてしまうと、流石の芽印も、
「分かんない」
と困惑しているようだった。