第四章『それぞれの裏、さまざまな真実』73
★夜衣斗★
鬼人化の反動で倒れた琴野さんを、何故か具現化が解けて俺の所に戻って来たキバを再具現化して乗せ、襲い掛かってくる武霊使いを退けながら、星波駅まで撤退を開始。
その直前に村雲から聞いた話によると、三島忠人の隠し玉五人衆(勝手に心の中で命名)の内、香城南・鳥越道重はキバが自爆攻撃で倒した?らしく………キバにそんな機能は無い筈なので、余波で意識を失っていると言う飛矢折さんが何かをしたんだろう。多分、昨日受け取った瞬輝丸の力を使って………だとすると村雲には勘違いさせたままの方がいいな………っで、タイミング的にキバはその力を発動させる為の糧にでも使われたんだろう………何と言うか………主人揃って……妙な偶然と言うか………まあ、とにかく、こっちで倒した二人……村雲の話だと島村陽一郎・島村陽子の姉弟で、隠し玉五人衆の内四人は倒した事になる。
残るは星波学園の周りの海を回遊している戦艦武霊使い大学部三年茶郷薫。
琴野さんの話だと、男装の麗人だとか………女性があのアニメをね………お鍋?
………まあ、何にせよ。予想外の戦力で危機は乗り越える事が出来た。後は、オウキの準備が整い次第……予定とは大分違うが……第四段階に移行するだけだな……
そう思った時、オウキから通信が入った。
無言の通信だが、準備が終わり次第通信を入れろと命令していたので………ようやく次の段階に進められる!
即全PSサーバントに通信を繋ぎ、
「オウキの準備が整いました。予定とは大分違いますが、第四段階に進みます」
そう全員に言うと、それまで闘っていた接近戦担当組が一斉に撤退を開始。
突然の撤退に、一瞬動きが止まる武霊使い達だが、直ぐに三島忠人から命令が飛んだのか、一斉に追撃し始める。
………本来なら、ここでドッペルゲンガーサーバントを大量に投入して、かく乱させる予定だったんだが………
そうそう予定通り物事が運ばない事に溜め息を吐いた瞬間、
★???★
三島忠人は、香城南・鳥越道重・島村陽一郎・島村陽子を一辺に投入した事で、勝利を確信していた。
夜衣斗達がどんな方法で武霊を倒しているかは不明でも、その戦い方の基点は夜衣斗である事は間違いなく、夜衣斗さえ倒せばこちら側の勝利は確実になるはずだった。
その為、レベル3の武霊使いであり、学園最強の一角である青葉愛をわざと一人で夜衣斗にぶつけ、レベル3の武霊使いを一人づつ使う印象を夜衣斗に与え、大量の武霊使いを投入すれば個別に戦い始めるしかない夜衣斗達の動きを見越して四人を配置し、夜衣斗を強襲させた。
そして、キバの再具現化をすれば周囲の人間が危機に陥る場所に分断し、武霊のない夜衣斗を二人のレベル3で倒す。
オウキは何らかの逆転の準備をしていて使えないのは、青葉愛の戦いの時に分かっていた。
だからこそ、夜衣斗に勝てる要素はなく、勝利を確信していたのだが、予想外の事が立て続けに起り、結局は夜衣斗を倒すに至らなかった。
姿が鬼の様に変わりレベル3の武霊使いを圧倒した琴野沙羅。
姿が掻き消え、再び現れ倒れた時にはレベル3の武霊使いを倒していた飛矢折巴。
武霊以外の方法で武霊を倒す一端を見れたのが唯一の収穫と言えなくはないが、だからと言ってそれがこちらの有利に繋がるかは微妙な所。
何であれ、三島忠人は万が一を四人が破れても、成功しても、絶対的に防げない『次の一手』を用意していた。
それは、緑川響。
高等部一年の武霊使いで、戦闘狂のアホだと思われている彼だが、武霊研究部に所属していると言う意味を全員が忘れている。
武霊研究部に入部する条件は、ただ一つ『強力な武霊使いである事』。
つまり、本人はアホでも、緑川響の武霊イフリートは強力な武霊である為、『本人の意思が無い今の状態ならイフリートは最大限の力を発揮出来る』と言う事。
それも、夜衣斗の『オウキを圧倒できるほどの』
★夜衣斗★
唐突に凄まじい爆音と爆風が生じた。
その二つが収まると同時に、二つが生じた方向に顔を向けると……………空を貫く炎の柱があった。
しかも、物凄く巨大で………見ている傍から徐々に拡大している様だった。
思わず隣にいた村崎さんを見るが、村崎さんは首を横に振り、こんな事が出来る武霊を知らないと示す。
とにかく状況を確認する為に、スカウトサーバント達を炎の柱の周りに飛ばす。
そして、送られてきた映像を見て、俺は眉を顰めた。
炎の隙間から見える炎の柱の中は………何故か建物などが無事だったからだ。
琴野さんの武霊ヒノカの生み出す炎は、燃やす対象を選べるらしいので………同じタイプの武霊と言う事か………念の為。
シールドサーバントを最硬度のシールドを張らせて炎の柱に突っ込ませると………柱から出てくる炎の端切れに触れた瞬間、『シールドごと燃え、霧散した』。
………普通、力場は燃えないと思うんだが………流石は武霊って事か………
そう呆れつつ、更にスカウトサーバントから送られて来る映像に注視していると、村雲から通信が入った。
「「ヤバいぞ黒樹!」」
開口一番そんな事を言われ、俺は再び眉を顰める。
「………と言う事は、この炎の柱を出している武霊使いを知ってるんだな?」
「「ああ。と言うか、お前もよく知ってる」」
よく知ってる?
「「緑川だよ」」
「……………はあ?」
思わず聞き返してしまうと、
「「緑川響。あの筋肉武霊バトル馬鹿だよ」」
………そんな風に思ってたのか………まあ、実際その通りだが………
「「お前は一回武霊バトルで圧勝しているから信じられないだろうが、緑川の武霊イフリートは決して弱い武霊じゃねぇ。むしろ学園最強の炎系武霊だと言ってもいい」」
………炎系最強ね………確かにシールドサーバントが燃えた事から考えると、そう言ってもいい気がするが………いまいちこれまでの緑川のイメージと繋がらない。だが、
「「今使っている技は、イフリートの『フレイムワールド』って技なんだが………緑川はあの技で、一度『ヒノカを燃やしている』」
っな!……………
この村雲の言葉に絶句せざる得ない
炎を燃やす炎って………常識外過ぎる……………ん?……………と言う事は…………
「………ちょっと待て!そんなデタラメな技、どうやって防げばいいんだよ!」
「「だからヤバいんだって!」」
全てを燃やすイフリートの炎の柱。
どうする事も出来ないそれを俺は茫然と見る。
あまりにも唐突な、そして、意外過ぎる相手により、星波町奪還作戦第四段階への移行を止めざる得なくなった。