第四章『それぞれの裏、さまざまな真実』71
★飛矢折★
統合生徒会長達が黒樹君の救援に向かった後、あたし達はキバを攻防の基点にして巴御前の武霊使いと変な競泳者の武霊使いと対峙していた。
村雲君からの思念通信によると、黒樹君達を襲ったのは、あたし達と闘っている二人以外にもう二人。計四人に襲われ、しかも、全員がレベル3の具現化が出来る武霊使いだった。
レベル3の具現化を出来る人は、少ないと言われているレベル2の具現化を出来る人より更に少なくて、星波学園にも両手で数えるぐらいしかいないって美幸に聞いた事がある。
その際に聞いた人の中に、今戦っている人達はいなくて……だとすると、事前に聞いていた三島忠人の隠し玉の五人の内の四人。
そして、村雲君の話だと、あたし達が戦っているのが巴御前の武霊を使う島越道重さんと、アルティメットダイバーとか言うアニメの主人公の武霊を使う香城南さんの二人。
なんで退魔士の人達が調べられなかった情報を村雲君が知っているのかは疑問だけれど………
(何か弱点とかは知らないの?)
そう思念通信を村雲君に送るけど、村雲君は、
((俺はあんまりアニメとか詳しくねぇんだよ))
と返答が返ってきた。
………と言う事は、あの巴御前もアニメが基なのね………黒樹君が入れば何か分かったかもしれないけど………大丈夫かな黒樹君………統合生徒会長達が救援に向かってそう時間は立っていないけど………何だか妙な胸騒ぎがする様な………
そんな事を考えた時、道路から顔を出していた香城さんが再びアスファルトの中に潜った。
同時に、鳥越さんの姿が掻き消えて、反射的に両手の銃を刀に変え、頭上に重ねて防御。
読み通り目の前に姿を現した鳥越さんが薙刀を振るい、薙刀の刃と二振りの刀の刃が激突。
一瞬の拮抗の後、二振りの刀身を徐々に徐々に薙刀の刃が切り裂き始めた。
その光景にぞっとした瞬間、あたしの両隣から操形先輩と村雲君が銃撃。
鳥越さんは後ろに跳び、薙刀を振り回して銃弾を弾く。
助かったあたしは、両手の刀を見る。
薙刀によって斬られた場所は直ぐに修復されるけど………やっぱり黒樹君の武霊でも、具現化段階の違いは明白に出るみたいね………あれ?でも、『頂嬉武蔵と闘った時、黒樹君は互角以上に戦ってた』よね?………何が違うんだろう?
(そんな事は後で考えろって)
瞬輝丸?
(ここはあたいの出番だろ?)
でも………退魔士能力と違って、瞬輝丸は見た目は普通の刀だから、PSサーバントでの誤魔化しは効かない可能性が………
黒樹君は奪還作戦を始める前に、身体系・直接系の退魔士能力を持つ人達だけにその能力の使用を許可してた。
PSサーバントと言う武霊の一部を身に纏っている事により、例え能力を使用しても武霊を一緒に記憶する事になって、忘却現象によって一緒に忘れさせられる。また、事情を知らない普通の人達にとっては退魔士能力も武霊能力も区別が付かないから、退魔士能力を見られていても武霊能力として誤認する可能性は高い。
でも、広範囲系などの身体から離れた場所に能力を発揮する退魔士能力は、武霊と一緒に見せる事は難しい上に、見られると直接犯罪に繋がってしまう様な武器と同じ様に、例え武霊と一緒に見たとしても別々に記憶される可能性が高くて、その場合は忘却現象が効かなくなる………かもしれないらしくて………
黒樹君の予想だと、忘却現象が、武霊に関するあらゆる事を忘却させると言うのは、『記憶している本人がその記憶したものを武霊・武霊に関したものと認識している』のと、『実際にその記憶の中に武霊が存在している』のが発動条件になっている可能性が高い………らしい。何を根拠にそんな予想をしたのかは分からないけど………だとすると、武霊と一緒に見せ難い退魔士能力は勿論、既に武器として認識されている様な刀は、忘却現象の適応外に
(いちいち細けぇ時代になったな)
細かいって………
(小次郎があたいを使ってた時は、周りなんか気にしてなかったぜ?)
………まあ、あのお祖父ちゃんなら気にしないかもしれないけど………あたしは………
躊躇うあたしに、瞬輝丸は溜め息を吐いた。
(………まあ、要は憶えさせなければ良いんだろ?)
?………そう言う事よね?
(なら、キバに近付きな)
キバに?
(いいから)
?
妙に自信ある感じで言う瞬輝丸に、あたしは疑問を感じながらキバに近付く。
実は、鳥越さんが突撃してきたのと同時に、後ろにいたキバに香城さんが攻撃を開始していた。
アスファルトから姿を現すと同時に、まるで水の様にアスファルトをすくい飛ばす香城さん。
キバはバックステップでそれを回避するけど、一部が足に掛り、瞬く間に固まって道路に一瞬だけ足を取られる。
僅かに生じた隙に、再びアスファルトの中に潜った鳥越さんが飛び掛かり、キバの腹部に手を触れた。
その瞬間、触れた部分が液状化し、鳥越さんの手がキバの中へと吸い込まれる様に入る。
キバは咄嗟に横に跳んで逃れるけど、その腹部には大きな穴が空いてしまっていた。
その光景をPSサーバントの後部カメラで見ていたんだけど………何だろう?やっぱり、黒樹君が近くにいないと酷く弱くなっている?
そんな事を考えながらキバに近付いた時、小人瞬輝丸が現れ、キバ頭の上に乗った。
(これはあくまで緊急手段だからよ。あまり長い時間は使えないからな)
そう瞬輝丸が言った瞬間、あたしの『全てが一変した』。