第四章『それぞれの裏、さまざまな真実』70
★夜衣斗★
自分が倒す宣言をすると同時に、琴野さんが忍者の武霊使いに飛び掛かる。
援護しようか迷っている間に、琴野さんの姿は変化した。
目が吸血時の様に赤く輝き、額に角が二本生え、皮膚が赤黒くなり、身体も少し肥大化して、両手足から鋭い爪が僅かに伸びる。
PSサーバントは着用者の変化にも対応出来る設定なので、多少の変化なら破れるとかはないが………いや、予想はしてたよ?もしかしたらって………まあ、それでもその急激な変貌には唖然とするしかない。
空中で琴野さんの腕が掻き消える。
忍者の武霊使いが防御の為に出した忍者刀を圧し折り、琴野さんの拳が忍者の武霊使いの顔に当たり、吹き飛んだ!?
後ろに真っ直ぐ吹き飛んだ忍者の武霊使いは、壁に穴を空け、そのまま外に出てってしまい、琴野さんはその後を追って外に飛び出すが………え~っと………
思わず村崎さんを見ると、何故か安堵の表情を浮かべていた。
暴走を懸念していたのだろう。
万が一の為か、その右手には冷気が渦巻いていた。
俺の視線に気付いた村崎さんは苦笑いを浮かべ、
「琴野家……いえ、鬼角家の退魔士能力は、『鬼人化』と言う文字通り鬼になる能力です」
鬼人化………まんまだな………
「ヴァンパイア種族は、何もしていなくても人より『あらゆる面で強い種族』なのですが………鬼人化はそれを更に強化させます」
それは見れば分かるが………
★???★
吹き飛んだ忍者の武霊使い・陽一郎を追って沙羅が家の外に出ると、丁度超接近戦を繰り広げている美魅とガンマンの武霊使い・陽子と鉢合わせになった。
咄嗟にターゲットを美魅から沙羅に変える陽子。
引き金を引こうとした瞬間、陽子は沙羅と目が合った。
瞬間、急激な胸の高鳴りを覚え、引き金を引くのを僅かに躊躇ってしまう。
ヴァンパイア能力の一つ・絶対魅了は、吸血した相手を絶対的に魅了してしまう能力だが、何も吸血した相手のみに効果があると言う訳ではない。
視線・体臭・声などあらゆる五感を通して能力発動中のローズ家のヴァンパイアを感じる事で、強制的に好感を抱かせる。
絶対魅了の副産物的な能力だが、本来は何かの行動を留めるほどの力はない。
だが、ヴァンパイアのあらゆる面を強化するヴァンパイア能力・鬼人化により、その副産物的能力も強化される為、武霊使いでかつ意思を奪われている陽子にも効果があった。
強制好感により生じた僅かな隙を突き、一気に間合いを詰める沙羅。
陽子が発砲した時には沙羅の掌が陽子の顎に撃ち込まれており、陽子の身体がとてつもない早さで後ろに倒れた。
あまりの早さに陽子と闘っていた美魅が唖然としている中、未だにレベル3の具現化中の陽子に対して拳を振り下ろそうとしたが、直後に陽子の武霊具現化が解けた為、拳の行き場を失う。
が、直ぐに握った拳を開き、頭上にその手を移動。
その掌にいつの間にか背後に迫っていた陽一郎の鎖鎌の一撃を鎌の刃の部分で受け止めた。
鎖鎌の刃は沙羅の着ているPSサーバントを切り裂きはしたが、その下の掌を切り裂く事は出来ていない。
しかも、沙羅が掌を握ると、鎖鎌の刃はあっさり砕ける。
陽一郎は鎖鎌の鎖分銅を投げ、沙羅の動きを封じ、頭部に蹴りを放つ。
沙羅は巻き付いた鎖をあっさり千切り、放たれた蹴りを残った手で掴み、そのまま持ち上げる。
あまりにもあっさり持ち上げられた陽一郎が状況を整理するより早く、沙羅は片手で陽一郎を振り回し、勢いを付けて地面に叩き付けた。
その瞬間、陽一郎の身体が丸太に変化。
驚く美魅を尻目に、沙羅は周囲を見回し、おもむろに少し歩き、唐突に地面に拳を突刺した。
踏み固められた庭の土がまるで水の様に腕が入る光景に、沙羅自身もちょっと驚きつつ、地面から腕を引き抜くと、沙羅の手と一緒に頭を掴まれた陽一郎が地面から現れる。
地面から引き抜かれた陽一郎が抵抗するより早く、沙羅は空いた方の手で拳を殴打。
くの時に曲がる陽一郎の身体が元に戻ると共に、武霊の具現化が解け、沙羅は慌てて陽一郎を地面に寝かせた。
★夜衣斗★
…………………何?この強さ……………
唖然を通り越して呆けるしかない沙羅さん(鬼人化)の戦闘力。
………て言うか、俺いらなくない?
そんな事を思った時、村崎さんが溜め息を吐いた。
「ただ」
ただ?……あ!さっきの話の続きか、
「鬼人化には大きな欠点があるんです」
欠点?
村崎さんがそう言った時、外から何かが倒れる音が聞こえてきた。
それと共に、
「夜衣斗!沙羅が倒れただわよ!」
と予想だにしなかった事を美魅が言った。
思わず村崎さんに顔を向けると、
「非常に燃費が悪いんです……そもそも、ただでさえヴァンパイア種族は、自らの基礎能力を維持する為に、常に自分の存在を維持する以上の根源意志力を消費しているのに、それを強化する能力なんて使うとなれば、ものの数分で気絶してしまうんです」
数分て………どこぞの特撮か?
「しかも、今のがまともにコントロール出来た初めての鬼人化ですから………まあ、これでも持った方かもしれません」
そんな事を言いながら、村崎さんは沙羅さんの空けた穴を通って家の外に出た。
その際にぼそっと、
「まったく、好きな相手の血を吸ったからって、ちょっと高揚し過ぎでしょ。もう少し後先を考えなさいよね」
と言っている様に聞こえたが……………まあ、多分、気のせいだろう…………そうそう都合よく色々はない………はず。