第四章『それぞれの裏、さまざまな真実』69
★夜衣斗★
反射的に琴野さんから離れ、PSサーバントの拳銃を取り出すが、入って来たのが村崎さんだったので、拳銃の向ける先を失うが………倒れている村崎さんの姿を見て俺は絶句。
何故なら全身が凍り付いていて、身体の至る所に弾丸が張り付いている状態だったからだ。
俺が唖然としている前で、村崎さんは何事も無いかの様に立ち上がり、パキパキと凍っていた身体の表面を弾丸ごと落とす。
星波町奪還作戦第三段階は、市街戦になるのは間違いなく、また、前の段階で閉鎖式の戦い方を見せているので、よほどうまくやらない限り、その対策は打たれると俺は考えていた。
その為、広範囲系・放出系の退魔士能力は使い難くなるので、接近系・体現系の退魔士能力を持つメンバーを第三段階参加メンバーにし、PSサーバントを着た状態での退魔士能力の使用を許可している。
忘却現象は、武霊に関する事を忘れさせる現象なので、武霊に能力を乗せる・被せるなどをすれば、例え退魔士能力を使ってもそれごと忘れられる可能性が高いと判断したからだ。
だから、村崎さんが退魔士能力を使う事は頭には在ったが………実際に目にすると驚くしかない………って、驚いている場合じゃないな。
俺は、慌てて外のスカウトサーバントと視覚をリンクし、外の状況を確認すると………ガンマンの武霊使いと美魅が回る様に超接近戦で戦っていた。
………銃の射線軸上に入らない為には、接近するのが有効って話は漫画とかで見た事があるが………
外の戦いに再び唖然とさせられた俺だったが、ふと村崎さんがこっちを見て驚いている事に気付いた。
「………まさかとは思いましたが……やはり……血を飲ませたのですか?」
村崎さんの問いに、琴野さんが顔を赤くする?
一瞬意味の分からない反応だったが……直ぐにある事を思い出した。それは、吸血と言う行為は『ある行為』と同じと捕えたり、考えたりする作品が…………うわ…………俺はそんな事を琴野さんにしろって言ったのか?……………どうか深読みでありますように………
「何とも無いんですか?」
村崎さんの問いに、琴野さんは頷き、
「ええ、夜衣斗さんのおかげで」
にっこりと微笑み、村崎さんを何故か驚かせ、
「………随分、早いですね………」
早い?………訳が分からない事を俺に言った。
「やはり、種無しの伝承は」
そこまで村崎さんが言った時、不意に琴野さんが銃を出し、床に向かって発砲した。
床に弾丸が着弾して直ぐに、忍者の武霊使いが床を突き破って現れる。
いつの間に接近してたんだ!?
身構える俺と村崎さんに、琴野さんはとんでもない事を言い出した。
「この武霊使いは、わたくしが倒しますわ。二人は下がっていてください」
★???★
琴野沙羅は、ヨーロッパのヴァンパイア血族が一つ・ローズ家の祖父と日本五大分家の一つ鬼角家の分家・琴野家の祖母から両家のヴァンパイア能力を母共々受け継いでいる稀有な存在としてヴァンパイア達のみならず、一部の退魔士に有名な存在だった。
二つのヴァンパイア能力を有しているヴァンパイアが『現在』では稀有な存在であるのと、母親の由良がその二つの能力を使って世界各地で活躍したことに加え、父親の鎖牙がヴァンパイアハンターだった事も沙羅を有名にしているが、最も沙羅を有名にさせているのが『堕ち掛けたヴァンパイア』だと言う事。
ヴァンパイアが退魔士として数えられる以前、ヴァンパイア種族は二つの考え方により二分されていた。
人類と共存を考える『共存派』。
人類の支配を考える『支配派』。
その考え方の違いは、やがて退魔士・魔法使いを巻き込んだ戦いへと発展し、支配派が駆逐される事により終結した。
俗に『ヴァンパイア大戦』と呼ばれるこの戦いを切っ掛けに、共存派のヴァンパイア達は退魔士として受け入れられ、支配派に多く味方した魔法使いはより危険視され、退魔士が古来魔法使いを滅ぼす切っ掛けになったと言われている。
そして、ローズ家はそのヴァンパイア能力故に、能力に溺れやすい・支配されやすいヴァンパイアと言われており、実際、ヴァンパイア大戦時は、一部のローズ家の人間が自らの能力を自由に使う為に支配派に付いた過去があった。
そもそも、ヴァンパイア種族は、常に自らが得る以上の根源意志力を常に消費しており、他の存在から根源意志力を得なければいけない宿命を背負っている。
それ故に吸血能力であり、それ故に人以上の能力を持ち、それ故に人の道を踏み外し、堕ちやすい。
その顕著たるのがヴァンパイア大戦時に滅ぼされた支配派のヴァンパイア達。
共存派の基本的に平和主義者である為、再び同じ戦いが起きる事を非常に恐れている。
故に、現在のヴァンパイアは、堕ちれば即座に退魔対象になる運命。
とは言っても、堕ちやすいヴァンパイア血族と言われるローズ家であっても、それほど危険視はされていない。
そのヴァンパイア能力『絶対魅了』は強力で危険な能力ではあるが、その分、身体能力は他のヴァンパイア血族に比べ劣っていた。
劣っているとは言っても、ヴァンパイア基準での話なので、普通の人間からすれば十分驚嘆に値する身体能力だが、退魔士からしてみれば魔物の方が厄介に思える程度にしかなく、更に言えば絶対魅了は強い魔法をその身に宿した分岐人類には基本的に効かない能力でもあるので、比較的簡単な退魔の例として見られる事もしばしある。
故に、堕ちれた即、死に繋がるので、ローズ家は他のヴァンパイア血族に比べ異常なほど自身の能力を恐れていた。
それらの理由により、退魔士達はローズ家をそれほど危険視してはいないが、沙羅の場合は別だった。
何故なら、沙羅が受け継いでいる鬼角家の退魔士能力(ヴァンパイア能力)は、『身体系最強の能力の一つ』として数えられているものであり、ローズ家の絶対魅了と組み合わせればとてつもない脅威になる。
しかも、沙羅は母親の由良と違い、半分人間の血が流れているせいか、二つの能力の制御がなかなか出来ず、どちらかを使う度に自らの能力に呑まれ、『能力に自我を支配された状態』になり、大事には至ってないが、何度も事件を起こしていた。
それ故に堕ち掛けたヴァンパイアとして認識され、一部の過激な退魔士達に退魔士対象として命を狙われ、何度も死ぬような目に合っている。
その為、ヴァンパイアハンターと結婚した事により勘当同然となった母・由良は、無理は承知で祖母・優香に頼み込んで、正式な退魔士が近付く事を禁止された町・星波町に、娘を住む事の許しを得た。
ただし、その許しを得る為に、由良からかなり無茶な仕事を幾つも押し付けられた為、沙羅は両親とは年に数回しか会えない状況になった上に、学園長の孫でありながら寮住まいで、琴野家の資産を一切使えない微妙な立場になってしまっている。
言わば、夜衣斗と似た様な状況・環境だと言えなくもないが、こちらは祖母・優香が沙羅を琴野家の次期当主に指名しているので、親族に命を狙われている夜衣斗より幾分かマシだとも言えなくはない。
もっとも、それらは、沙羅自身が自らのヴァンパイア能力を使いこなせなければ全てが駄目になる話だったが………