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第四章『それぞれの裏、さまざまな真実』67

  ★夜衣斗★

 春子さんの話と琴野さんの忌避具合。そして、伝説上の存在のモデル・あるいはそのものな退魔士能力があるのなら、琴野さんの退魔士能力として考えられるのは一つしかない。

 『吸血鬼』

 その言葉で一般的にイメージされるのは、最も有名なのはヨーロッパの吸血鬼だとは思うが、探せば世界中の至る所にそれに関する伝説があり、様々な名前で呼ばれている一般的には架空の存在。

 語られている場所によって様々な形の吸血鬼が描かれ、漫画や映画などフィクションの世界では頻繁に登場し、話によってはその能力を利用して経済界や政界などに進出し、人を裏から操る描写などもある。

 これらから考えると、『全世界の退魔士の中で最古かつ最大規模・最大勢力を誇る一族』『他国でも大体彼女の一族は財界人・政界人』と言う話にぴったり合う。

 更に言えば、琴野家の本家の家名・鬼角は、その名に鬼が入っている事から、『鬼』である可能性が高い。

 本家筋に近ければ近いほど家名がその一族の退魔士能力を表している事が多い事から、これはまず間違いない事だと思う。

 そして、鬼は広い解釈から考えれば吸血鬼と同じ、もしくは近い存在だと言える。

 ここまで考えれば、もう琴野さんが吸血鬼なのは間違いないのだろうが………彼女がその事を言わない事に俺は引っ掛かった。

 吸血鬼は確かに昔から恐れられている架空の存在ではあるが、今は好意的な解釈や表現で使われる事も多い。

 俺もどちらかと言えば、好意的な解釈や表現の方が好きだし、琴野さんが吸血鬼だったとしても嫌う事はまずないと思う。

 そもそも、知名度の違いはあるとはいえ、同じ様な存在である雪女や人魚などの退魔士能力を持つ人達が平然とそれをカミングアウトしたのだから、そう言う関連で言わなかったと考えるのは不自然。

 だとすると考えられる要因は別にあると言う事。

 ……例えば、彼女自身の『退魔士能力に何らかの欠陥を抱えている』とか………


 俺の問いに、琴野さんは答えず、荒い息を吐きながら俺の首筋………そして、傷口の止血が終わってもまだ血が付いている両腕を見て…………喉を鳴らした。

 「………吸血鬼が退魔士として数えられているのなら、吸血鬼の様な分岐人類と考えるのが自然でしょう……もっとも、どこまで吸血鬼なのかは流石に予想は出来ませんが、少なくとも俺の血に琴野さんが反応していると言う事は、少なくとも、『血を吸う行為、もしくは血そのものから意志力また魔力を吸収し、それを身体能力に還元する能力』がある………違いますか?」

 俺の再びの問いに、琴野さんは少し迷って………小さく頷いた。

 そして、注視していた俺の腕から無理矢理視線を外し、俺を見る。

 「夜衣斗……さん………確かに……わたくしは……わたくしの一族は……吸血鬼ですわ」

 やっぱりな………と言うか、

 「………あまり喋らないで………早く俺の血を吸ってください」

 その俺の言葉を琴野さんは首を小さく横に振って拒否した。

 「………わたくしなら大丈夫です。時間を経てば……これぐらいの傷………」

 これぐらいって………血を吸わなくても高い身体能力を持つって事か?………まあ、だからと言って、

 「………その時間が無いんです。このままではオウキの『準備』が終わるまで逃げきれない」

 「なら、わたくしを置いていてください」

 間髪入れずにそんな事を言う琴野さんに、俺は大きな溜め息を吐いた。

 「………そんな事を俺がすると思っているんですか?」

 「………ですが………」

 躊躇う様に視線を床に落とす琴野さん。

 そして、そのまま動かなくなる。

 ………?

 床にはPSサーバントに付いていた血が、脱いだ際に飛び散っていて…………ふと我に帰る様に思った。

 状況を打開する為に確証のなかった琴野さんの吸血鬼としての能力を使わせようと咄嗟に行動に移したが………そもそも、琴野さんが自身の退魔士能力を言いたがらなかった理由を、その退魔士能力に何らかの欠陥を抱えているのでは?と考えていたわけで……………実は………物凄く不味い事をしてないか俺?

 そう今更な事を思った時、がしっと両腕を掴まれた。

 痛いぐらいに強く掴まれたので、抗議の言葉を口にしようと琴野さんを見て、息を飲んだ。

 目は先程より赤く、真紅と言っても良いぐらい赤くなり、不気味な輝きを発し始め、更に口元からはキバが二つ、はっきりと見える。

 「ご」

 喉を鳴らし、俺を掴む腕が震え、ゆっくりと自分の方へ俺を引き寄せ始める琴野さん。

 「ごめんなさい………思った以上に………夜衣斗……さん……血が……美味しそ…う…で………我慢が………責任は取りますから………いいですよね?ねえ!?」

 苦しそうに言葉を紡ぐ度に、言葉とは反して顔が歓喜に満ち始め、言葉自体も最後は喜びと恫喝が同居していた。

 と言うか……責任?

 そう疑問に思うと同時に琴野さんは俺を一気に引き寄せ、晒していた首筋に噛みついた。

 最初の激痛の後、よく吸血鬼物で描かれている通り、強烈な快感が俺の体中を駆け廻り始める。

 気を抜くと声に出してしまいそうなほどの快楽に………頭が痺れる様な………そう言えば………吸血鬼物ではよく吸血鬼に血を吸われて者も吸血鬼になるとか、吸われた吸血鬼に絶対服従になるとか………そんな事が描かれていたな………もっとも、これらも同じ魔法であるのなら、今の俺には抵抗出来る打算があったんだが………………くぅ~………この快楽はあまりにもヤバい!あまり長く吸われると…………快楽で…………気絶してしまいそうだ………

 ごくごくと俺の血を吸い続ける琴野さん。

 不意に何か固い物が床に落ちる音が立て続けに起きた。

 何とか視線をその音の方向に向けると………それは明らかに弾丸で、琴野さんの体内で留まっていたガンマンの武霊使いの銃弾の様だった。

 ………つまり、血を吸い始めてたった数秒であれだけの重傷が完治したって事か?………予想はしていたとは言え、驚くしかないな………

 そんな事を思いながら、

 「………琴野さん!傷は完治した様です!もういいでしょう!」

 そう言うが、琴野さんは血を吸うのを止める様子はない。

 どうも血を吸うのに夢中でこっちの言葉が耳に入ってない様だった。

 ………まあ、こう言う状況の描写も吸血鬼物にはなくはないので、一応対策は考案済み。

 俺は近くに浮遊しているPSサーバントに思念で命令して、再び装着すると同時に、琴野さんのPSサーバントの命令権を一時戻し、強制的に俺から離れる様に動かした。

 もっとも、琴野さんの力が普通の人間以上なのか、琴野さんは僅かにしか俺から離れなかったが、それでも何とか琴野さんから離れる。

 血を吸われなくなった事で、強烈な快楽がなくなって………正直、尾を引かれなくもないが………それより、ちょっと自分の下の方を感覚で確認………………よし!大丈夫!………何がかは深く考えない!

 「あぁああ」

 ?

 俺から離れた琴野さんが両手で自分を抱き、

 「あああああああああああーーーーー!!!!」

 身体をよがらせながら、まるで快感を感じているかの様に叫び声を上げる。

 あまりの反応に、俺が思わずぽかんとしていると、唐突に琴野さんが叫ぶのを止めて、俺の方にゆっくりと顔を向けた。

 そして、ぞくっとする。

 琴野さんの口から俺の血を僅かに垂らしながら、直前まで目の前にいた人とは同一人物だとは思えない妖艶笑みを浮かべ、

 「もっと」

 その声を聞いた瞬間、俺の中で何かが、疼いた。

 「もっとわたくしに血を吸わせなさい!」

 唐突な命令系に、俺は疑問を浮かべるより先に、その命令に従わなくてはと言う強烈な強迫観念に迫られた。

 ヤバい!予想に反してしっかり支配されてるじゃないか!?抵抗しないと、今の琴野さんなら俺が失血死するまで血を吸いかねない!

 そう俺は心の中で叫ぶが、身体は琴野さんの命令に素直に従い、ゆっくりと琴野さんの下へ歩み寄り始める。

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