第一章『武霊のある町』20
★???★
コウリュウのブレス袋が光り輝き出した時、麗華ははっきりと感じていた。
殺意を。
怯え、恐怖しながら、それでも向けられる殺意を。
「あは」
楽しかった。
あのまっすぐに自分達に怒りを向けながら、それでも一線を越えようとしなかったあの赤井美羽が、自分達と同じ様に堕ち様としている。
その根底がなんであろうと、どんな理由であろうと、殺意は、殺意。
その根底がなんであろうと、どんな理由であろうと、殺しは、殺し。
堕ちれば、後は堕ち続けるだけ、
「あは、あはは」
だからこそ、楽しく、殺しがいがある。
麗華は、その感情に身を任せ、自身の武霊にストックしていた全ての武霊を解放させた。
「さあぁ。楽しい。楽しい。殺し合いをしましょぉ」
そう言って、麗華は自分の武霊を見た。
そろそろあの武霊が手に入る頃だからだ。
武霊を奪う瞬間、武霊は宿り主からはずれ、宿り主は徐々に消化される。
皮膚が溶け、肉が溶け、骨が溶ける。
その凄惨な光景が、麗華は堪らなく好きだった。
だが、視線を向けた先には、なんの変化も起こっていなかった。
少なくとも、武霊がはがれ始めてもいい頃合いなのにだ。
更におかしな事に気付いた。
武霊の中にいる男が、『ずっともがき苦しんでいる』のだ。
普通なら、空気を吸えず、とっくに気絶していると言うのに。
その意味を麗華が理解する前に、閃光が走った。
コウリュウがあの必殺のブレスを吐いたのだろう。
そう必殺のブレス。
自分の弟が殺されると言うのに、麗華はその瞬間、笑みを浮かべていた。
(死んだら死んだで、『また弟を手に入れればいい』。今度は妹でもいいな)
そう考えながら、結果を見ようと砂浜へと視線を向けた。
どう言うわけか、弟は無事だった。
あまりにも予想と違う光景に、驚く麗華。
そして、その視界に、不自然なものが入った。
弟の武霊の前に、五つの小さな円盤が飛んでいるのだ。
空を見ると、美羽も同じ様に驚いている。
その美羽が、唐突に慌てたように視線を弟とは違う方向に向けた。
つられて麗華がその視線の先を見ると、そこに、
夜衣斗がいた。