第四章『それぞれの裏、さまざまな真実』62
★???★
「「え?」」
予想もしてなかった夜衣斗の言葉に驚く勇人と沙羅。
「………どうも琴野さんも知らない武霊使いが何人かいるみたいだからな……お前なら他の誰も知らない武霊使いを知ってるだろ?」
「まあ………多分な………」
勇人は武霊研究部が最も活動的に動いていた前年度の中核メンバーであった為、当時普通の部員だった上に、途中で抜けた沙羅が知らない事をいくらか知っている。
「だが………」
夜衣斗の言葉に戸惑うしかない勇人。
「………それに、新聞配達をしてるんだろ?だったら、星波町の地理も他の誰よりも詳しいんじゃないか?」
そう言って、ハンドルから手を離し、勇人の乗れる場所を空け、キバからPSサーバントを一機出す夜衣斗。
「ちょっと待ってください夜衣斗さん!」
夜衣斗の提案に、流石に止めに入る沙羅。
「次の段階は、夜衣斗さんが『最も危険な目に合う段階』ですわ!一般人である、ましてや、武霊使いではなくなっている村雲様には………」
心配する沙羅に、勇人は笑って親指を立てた。
「心配すんなって。俺の武霊が『どんな武霊』だったか忘れたか?」
そう言ってPSサーバントを自ら引き寄せ、自ら着る。
PSサーバントの調子を見る様に軽くジャンプを繰り返し始めた勇人に、沙羅は溜め息を吐く。
先程の戸惑いは何処に行ったのか、やる気全開になっている勇人の様子からして、もう何を言っても聞きはしないだろうと、経験上知っているからだ。
「………二人とも、無理はなさらないでくださいね」
「ああ!」
沙羅のお願いに、声に出して同意する勇人に、無言で頷く夜衣斗だった。
★飛矢折★
商店街にある自警団本部は、駅を奪還するついでに奪還し終わっていた。
本来なら常駐しているはずの自警団員がほとんどいなかったので、簡単に奪還出来た。
つまり、三島忠人にとって自警団本部は大して重要な所ではなかったと言う事。
本来なら町のスピーカーは全て自警団本部で操作出来る様になっている。だけど、町のほとんどのスピーカーは別の場所から音を出せる様に細工がされてあるらしくて、町全体で流れている笛の音を止める事は出来なかった。
もっとも、それを予想していた黒樹君は、シルフさんの退魔士能力効果範囲内での武霊使い解放が終わった後に、同じ範囲内にあるスピーカーを壊して回る様に指示している。
スピーカーは電信柱に一個一個ある上に、武霊を使って壊すと源さんに直されかねないので、武霊を倒す要領で退魔士能力を使って壊しているんだけど………それでもちょっと予定より遅れ気味だったので、あたしも瞬輝丸の試し斬りも兼ねて参加した。
瞬輝丸は刀なので、普通に目撃されたら銃刀法違反で覚えられかねないから、退魔士の人達と同じ様にシールドサーバントでスピーカーの周囲に外から見えなくなるシールドを張って、
「瞬輝丸」
呼ぶと同時に瞬輝丸が頭上から降ってきて、地面に刺さる前に受け止める。
「……………」
何故か憮然とした表情で小人の瞬輝丸が出てきて、柄に座ったので、思わず
「何?」
て聞くと、
「………試し斬りがスピーカーって………あたいを何だと思ってんだ!?」
激昂する瞬輝丸に、あたしはちょっと困った。
「仕方がないじゃない。『本来の力を使えない』あなたを、いきなり武霊に対して使うほど、あたしはあなたを知らないわ」
「だったら、さっさと夜衣斗とせ」
「ぎゃー!」
接吻と言おうとした瞬輝丸をあたしは思わず瞬輝丸を掴んで黙らせた。
黒樹君は作戦中は常に二人以上で行動する様に指示している。
だから、あたしの近くには操形先輩がいて………シールドの外を警戒していた操形先輩は、不思議そうにあたし達を見て、直ぐに外の警戒に戻った。
………聞えてなかったみたい。
ほっとしていると、
「あの子も退魔士なんだからよ。あたいの仕組みぐらい知ってると思うがな?」
そんな事を言いながらあたしの肩に小人瞬輝丸が現れた。
手を空けて見ると当然影も形も無い。
どうやら本体の近くならどこにも小人を出せるみたいだけど………仕組みを知ってるの!?
「退魔十本刀は有名だからな」
そ……それじゃあ………
かぁーと顔が赤くなるのが分かる。
(まあ、あの感じだと、あたい達が夜衣斗と組もうと思っているなんて大半は思ってないみたいだがな)
?………どう言う事?
(そもそも、黒樹家は他家と組むなんて事は滅多にしねぇ家だからな………組んだとしても大体他家をこき使ったり、蔑んだり………まあ、一部を除いてろくな家じゃねぇって事さ)
でも………黒樹君はそんな家と全く関係なんでしょ?
(ああ、種無しは普通は生まれて時に殺されるからな………と言うかよ。夜衣斗本人の問題より、夜衣斗の親族が問題なんだろうよ………特に妹がな)
あ~………確かに、随分苛烈な性格みたいだものね………
「飛矢折様?どうかなさいました?」
「え?い、いえ」
ちょっと心の中で瞬輝丸と会話し過ぎたのか、操形先輩が声を掛けてきたので、あたしはちょっと慌てて飛び上がり、近くのスピーカーを斬り落とした。
………凄い切れ味………
スピーカーの接合部分を切ったんだけど、まるで紙を斬ってるみたいだった。
………こんなに凄いのに………これでまだ本来の力を発揮してないなんて…………
そんな事を思っていると、PSサーバントの通信機能が起動して、目の中に小さな画面が現れ、星波デパート屋上から海側を見た光景が現れた。
「みんなにぃ~に緊急連絡でぇ~す」
先見かなたさんのその声と共に、屋上からの映像が揺らぎ始め、
「こんなの見えちゃいましたぁ~」
見える家々から人らしき影が続々と出てきて近くの避難シェルターに向かう様子になった。
この映像は先見さんが自身の退魔士能力で見ている未来の映像。
奪還作戦を始める前に、黒樹君が実験してPSサーバントを利用して未来の映像を共有できる事は分かってたけど………改めて見ると不思議な感じ…………って、そんな事を思ってる場合じゃないよね………
未来が見えるって事は、見えている人達は普通の星波住民。そして、避難させられると言う事は、三島忠人は人質を使う戦法を使わないと言う事。そして、今回の彼の行動は長期的なものを見越した行動と言う事になって、急いで奪還する必要は無くなった。
………だけど、そう言う動きがあると言う事は、もう直ぐ大規模な武霊の侵攻があると言う事で……………いよいよ黒樹君がもっとも警戒している奪還作戦の第三段階が始まる。
あたしはぎゅっと瞬輝丸の柄を握り、
「急ぎましょう操形先輩」
そう言ってスピーカーの破壊をあたしは急いだ。