第四章『それぞれの裏、さまざまな真実』60
★夜衣斗★
突然目の前で具現化したキバの角が俺に迫る。
俺は咄嗟にウィングブースターの方向を変えるが回避が間に合わず、肩に角が突き刺さった。
肩の肉に冷たい突起物が侵入し、貫通する違和感。
それと共に起きる激痛。
その二つが絶えることなく続き、キバが出現した勢いで俺を空へと突き上げ続ける。
痛い!痛い!痛い!
と頭の中でうるさく警告する俺がいる一方。
冷静な部分の俺が理解していた。
このキバは、『キバじゃない』と。
確かに見た目はキバだが、『その中にはキバがいない』。
そう感じた。
そして、分かった。
青葉さんの武霊能力は、『大鎌の刃に依存しており、死神の様な見た目の時に刃に触れると問答無用で終わらせられ、女神の様な見た目の時は、終わったものを復活させる事が出来る能力』。
厄介なのは、復活させられたキバは、キバではないが、その身体はキバであるらしく、俺がいくらキバを再具現化しようとしても再具現化出来なかった。
その事実に気付いた時、キバが出てきた勢いが終わり、落下し始める。
咄嗟にウィングブースターで逃れようとするが、キバは首を動かし俺を逃がさない様にした為、激痛で何も出来なくなった。
俺の意思を感知して、PSサーバントがウィングブースターのブーストを消してしまい、俺はキバに引きずられて落下。
続く激痛をPSサーバントでカットし、下を確認すると、そこには大鎌を構えた愛さんがいた。
身に纏っている武霊の姿は死神の姿になっている。
ぞくっと恐怖を感じたが、逃れようにも、PSサーバントの攻撃力ではキバを倒す事が出来ない。
オウキは『既にここから遠い場所』で具現化しているので、再具現化したとしても、この距離では間に合わない。
死。
その文字が一文字頭の中に浮かぶと、あっと言う間に頭の中がその文字で埋め尽くされてしまう。
思考したくても思考出来ず、身体を動かしたくても動かせないほどの死への恐怖。
瞬く間に青葉さんに近付き…………大鎌の刃が………………………………ふ………ふざけるな!!!
★???★
愛は操られた意思無き意識で勝利を確信していた。
自身の能力で復活させたキバは夜衣斗のコントロール下から離れ、警戒していたオウキは何故か出さない。
理由は不明でも、次の愛の攻撃を防げないのなら、理由を探る必要はなかった。
何故なら、愛の一撃は文字通り一撃必殺。
不確定要素達の基点となっている夜衣斗さえいなくなれば、全てが終わる。
いなくなれば、全てが終わる。
そう思考した愛の頭に、一瞬の違和感が走るが、直ぐに常に耳元で聞えている笛の音によりかき消された。
落下してくる夜衣斗とキバが、大鎌の間合いに入る。
一線を越えてしまう一撃を、愛は何のためらいもなく放った。
キバに大鎌に当たり、キバが再び霧散し、そのまま夜衣斗に刃が当たろうとした瞬間、
「ふざけるな!!!」
愛の記憶にない夜衣斗のその怒号と共に、夜衣斗は信じられない行動を取った。
触れた瞬間に死が与えられる大鎌の刃を両手で『白刃取りした』。
★夜衣斗★
咄嗟の反応だった。
死に対する恐怖が怒りに変わった時、俺はPSサーバントの時間感覚加速機能を起動。
全ての感覚がゆっくりになり、感覚的に迫る速度が遅くなった大鎌の刃を両手で白刃取りしてしまった。
丁度白刃取りしやすい角度から迫っていたのと、一切の思考をしていなかった為、ありえないほど無謀な行動だった。
次の瞬間、自分のしてしまった失敗に気付き、俺は死の覚悟をしながら、反射的にウィングブースターをフルブースト。
青葉さんの大鎌を振る力と拮抗し、空中に逆さまで止まる…………のはいいんだが……………?…………ん~?
何故か、いつまでたっても俺は死ななかった。
………人には効かないのか?
そんなありえない希望を抱きつつ、青葉さんの顔をPSサーバントの頭部カメラで確認すると………驚いている様だった。
…………………考えて見れば、俺は三島忠人の武霊能力が効かなかったんだよな………だが、同じく効かなかったキバは、青葉さんの武霊能力によって瞬時に倒された…………魔力供給する側とされる側の違いか?………まあ、何にせよ!
「キバ!」
俺の呼び掛けに応え、キバが俺の背中から飛び出す様に再具現化。
キバの再具現化に、青葉さんは大鎌で応戦し様とするが、大鎌は俺に押さえられている為に咄嗟の反応が出来ない。
「セレクト。ホーンサンダーブレード!」
俺の命令に空中で回転しながらホーンブレードを展開し、電撃をシールドの刃の中に込めるキバ。
川に着地すると同時に、駆け出し、俺の下を潜り抜ける様に駆け抜け、青葉さんを電撃が溜まったホーンブレードで斬り付ける。
シールドの刃が身に纏った武霊を切り裂き、青葉さんに当たる直前で刃が消え、電撃が解放。
一瞬の内に電撃が身体に走り、身に纏った武霊が霧散すると共に武霊の骨の翼で浮いていた青葉さんが川に落ちる。
寸前で、青葉さんの身体を俺は受け止めたんだが………その…………なんだ…………物凄く困った位置で受け止めてしまい………む…………あ~キバ!ぼさっとしてないで彼女を受け止めろって………いや、早く。お願いだから。