第四章『それぞれの裏、さまざまな真実』59
★飛矢折★
黒樹君の指示変更で、あたし達は直ぐに動いた。
ほどなくして白い煙が海岸の方から発生し出し、はぐれ監視塔を包み込んで隠す。
その煙に紛れ、あたし達は一気にはぐれ監視塔に近付く。
この白いガスは吸い込んだら寝てしまう睡眠ガスなんだけど、
「逆鬼ごっこの時に使用してたから、その対策は撃たれているでしょう」
と黒樹君は予想していた。
その黒樹君の予想通り、睡眠ガスがはぐれ監視塔を包み込む前に、自警団の人達が酸素ボンベらしき物を装着しているのが見えたんだけど………あんなものどこから用意したんだろう?これも武霊能力?
そんな事を思いながら睡眠ガスの中を駆ける。
PSサーバントの視覚外……なんたらシステム?………とにかく、視覚以外の方法で分かる情報を統合して周囲の環境を立体映像として瞳に映し出す機能のおかげで難なく進めるけど………なんか変な感じと言うか………
ほどなくして、はぐれ監視塔の直ぐ近くまで来れた時、少し離れた場所から物凄い爆発音が連続で起り、あたしは慌てて爆風が届くより早くシールドサーバント達に思念で命令し、はぐれ監視塔を取り囲むようにシールドを展開。
シールドが展開し終わると同時に、あたしははぐれ監視塔に一気に近付き、垂直に飛んで、自警団の人達の所でウイングブースターを展開して、急停止。
続け様にPSサーバントの拳銃を両手に出して、連射。
最初の弾丸ではぐれ監視塔のスピーカーを壊して笛の音を止め、弾丸を麻酔弾に変えて自警団の人達に向けて撃つ。
何人かが武霊を再具現化して麻酔弾を防ぐけど、直ぐに操形先輩が刀で、スピーカーを壊すと同時に具現化させていた操形先輩の武霊ペルティアが爪で倒してくれたので、間を置かずに全員に麻酔弾を打ち込んで気絶させる事が出来た。
全員が気絶した事を確認したあたしと操形先輩・ペルティアは、急いではぐれ監視塔に乗り込み、気絶している全員から携帯音楽プレイヤーを外し、残っているシールドサーバント達にその人達を投げ渡す。
気絶している人達をシールドで受け取ったサーバント達を、直ぐに奪還した星波駅に向けて飛ばし、操形先輩がペルティアの具現化を止めると同時に周囲のシールドを解除させて、その護衛に回した。
留めるものが無くなった睡眠ガスが霧散し始めたので、あたしと操形先輩はガスが完全に霧散する前にはぐれ監視塔から飛び降り、芽印に連絡。
連絡を受けた芽印がここに現れると同時に、海側から疲弊したシールドさん………じゃあ紛らわしいから、アンナさんが降ってくる。
アンナさんは黒樹君の指示で、睡眠ガスの中、戦艦の武霊から撃ち込まれた砲弾を防いで貰ったんだけど………スカウトサーバントの補助があったとしても………黒樹君も結構無茶な指示を出す………きっと今頃、不安で不安で仕方がないって感じになってるんじゃないかな?
第一段階の作戦が無事に終了して、気が緩んだのか、思わず笑みを浮かべつつ、黒樹君に連絡を入れようとした。
だけど……………繋がらない!?
PSサーバントが消えていないから無事なのは間違いないけど…………黒樹君…………
言い知れぬ不安に襲われながら、あたしは事前の黒樹君の指示に従って芽印の能力で星波駅に退却した。
★夜衣斗★
青葉さんと激突する直前まで、俺はシールドさんに出した無茶な命令を心配していた。
スカウトサーバントで砲弾の射入角度と着弾位置は分かるとは言え、音速以上の速度で飛んでくる物体を止めて貰うなんて………正直、最強の盾を出せるとは言え………不安で不安でしょうがなかった。
だが、そんな不安を、鉄橋上に現れた青葉さんが吹き飛ばす。
いきなりレベル3の武霊具現化をした青葉さんは、手に巨大な鎌を、背に骨の翼を出現させた。
次の瞬間、半透明の骸骨死神を身に纏った青葉さんが、目の前!?
やられる!
いくら向かって進んでいたとは言え、あまりの早さに全く対応が出来ない俺に、キバが命令なしにホーンブレードを出し、大鎌の一撃を柄の部分に当てて防いでなければ…………首が飛んでいた。
ぞっとする暇も与えず、青葉さんは飛び掛かってきた勢いを利用してキバの進路を強引に曲げ、ホーンブレードを大鎌で受け止めたまま一緒に星波川へと突入し、盛大な水飛沫を上げる。
川の半ばでキバを騎馬モードにし、ホーンブレード振り回させて青葉さんを吹き飛ばす。
その際に、大鎌の刃がホーンブレードのシールドの刃に当たり、何の抵抗も無く切り裂いた!?
最硬度である気体モードの力場を切り裂くなんて………なんつう切れ味だよ………
驚きを通り越して呆れるしかないその大鎌だが………これだけなら大して脅威に………?
少し油断した事を考えた時、キバが急に暴れ出した。
キバから感じるのは………苦しみ!?
上空に飛んでいるスカウトサーバントから送られて来る映像を確認すると、キバが角の部分から急速に霧散していた。
角と言う事は、ホーンブレードの切り裂かれた瞬間、青葉さんの武霊能力が発動したって事か!?
そう俺が予想すると同時に、キバの霧散は一気に進み、消えてしまう。
キバがいきなり消えた事で、川に落ちそうになるが、俺は落ちる寸前でPSサーバントのウィングブースターを起動し、一気に上空に飛び上がる。
それを好機と見たのか、青葉さんが俺の後を追って大鎌を振り被った。
★???★
青葉愛。
武霊研究部現部長でありながら、歴代の部長の中で最も部活動に不真面目な部長であり、趣味さえまともならどこぞの令嬢に見えるぐらい整った顔立ちをしている為、マスメディア部が勝手にやっている学園内勝手にミスコンランキングで常に上位に入っている色々な意味で有名な高等部二年女子。
有名である反面、その武霊・ハクシについて詳しく知っている者はほとんどいなかった。
どんな武霊かは知っている。
それは事あるごとに愛が自身の武霊を出し、その死神の様な姿を使って周囲を驚かせている為なのだが、その能力を知っている者はほとんどいなかった。
何故なら、日常生活で使う以外、彼女がハクシを出した事がないからだ。
はぐれが発生しようと、そのはぐれに襲われようと、彼女はハクシを使わない。
何らかの意図があるのか、去年の夏頃までは前部長などが彼女を守っていた為、それほど支障がなかった。
それら幾つかの要因が重なって、同じ部活の美羽や元同じ部活だった沙羅さえその能力を知らない。
ただ、強力な武霊である事は、前部長から現部長に任命された事で分かってはいる。
武霊研究部は、代々部の中で最も強い武霊使いが選ばれるからだ。
だからこそ、美羽は夜衣斗の逆鬼ごっこ際に助力を求め、武霊能力を知らないが故に、沙羅は愛をただの強力な武霊使いと無意識に侮り、夜衣斗に注意を促す事を失念。
そして、夜衣斗は一度目撃した姿から、命を刈り取る能力と『それでは足りない予想』をしてしまっていた。
ハクシの武霊能力。
それは、『大鎌の刃に触れた全ての有機・無機に関わらず終わらせる反則的な能力』。
と、
上空に逃げる夜衣斗を追いながら、大鎌を振り被るハクシを身に纏った愛。
避ける事が不可能と瞬時に判断した夜衣斗は、キバを再具現化し様とした。
その瞬間、ハクシの姿が、骸骨の姿から女神を彷彿させる金髪の美女になる。
急激な姿の変化に夜衣斗が驚き、それが一瞬の隙を生じさせた。
その隙を逃さず、愛は夜衣斗向けて大鎌を振るう。
だが、その大鎌の刃が夜衣斗に当たる直前、夜衣斗は咄嗟に両手に拳銃を出し、愛に向けて連射。
撃ち出された衝撃弾により、愛は僅かに後ろに吹き飛び、それにより大鎌の刃は夜衣斗にギリギリの所で届かなかった。
空振りになった大鎌の一撃だったが、次の瞬間、大鎌の軌跡に光の線が出来、そこからキバが飛び出し、夜衣斗にその角を突きさした。
もう一つ、『女神の姿になり、終わったあらゆるものを復活させる反則的な能力』。
その二つのとんでもない能力を有している上に、レベル3具現化。
まさに『知られざる学園最強』と言えるのが、青葉愛だった。