第四章『それぞれの裏、さまざまな真実』58
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「………次の段階に進みます」
その夜衣斗の指示に、少なからず次の段階の為に待機していたメンバーは驚いた。
まだ作戦の第一段階である星波駅奪還及び始発電車の保護が終わった連絡を受けていない上に、その第一段階の作戦変更があったばかりだったからだ。
もっとも、驚きはしても、疑問が浮かぶより早く、作戦第二段階の実行メンバーは動き出した。
何故なら、作戦の第二段階は、タイミングが一つでもずれれば失敗するものだったからだ。
夜衣斗が襲撃されると共に、星波海岸沿いのトンネル二カ所に武霊を具現化した武霊使い達が配置された。
もともと近所に住む武霊使いがトンネルを監視していたが、夜衣斗の狙いが『こちら側の戦力増加を防ぐ為の主要交通機関の確保』であると予測した三島忠人の指示により増員された。
三島忠人が星波町全体を催眠による支配下に置いた後、その状態を外から不自然に見せない為に星波町から帰る者達はいつも通り帰している。
当然、催眠が武霊能力によるものであり、笛に音が聞こえないと効力を発揮しない為、星波町に出た者達はすぐさま催眠から解放されていた。
つまり、主要交通機関の出始めを押さえれば、簡単に戦力増加を防ぐ事が出来ると言う事になる。
更に言えば、武霊使いの半分近くは星波町住民以外である為、夜衣斗達が行動を起こすなら、星波町に人が入り出す今の時間が最適だった。
だからこそ、三島忠人は夜衣斗達の襲撃にすぐさま対応出来たが、三島忠人は本気でトンネルを守る気はない。
何故なら、夜衣斗達が『どう奪還するか』を知る必要があったからだ。
星波町内は常にハーメルンの笛の音を流している。
その為、夜衣斗以外は武霊がほとんど使えない。
これは星波町を支配する際の不確定要素達の動きで分かっている。
なのに星波駅は奪還された。
つまり、夜衣斗の『武霊以外の力』があると言う事。
それが何なのか、少なくとも、どう奪還したかを知らなくては、一方的に負ける可能性がある。
だからこそ、今の所奪還されても大して影響のないトンネル二カ所を捨てる事にした。
外から星波町に来る者の大半は星波学園に通う学生であり、学生はまず電車で来るからだ。
もっとも、三島忠人も、ただで奪還させる気は当然ない。
遠見の武霊能力を持つ武霊達により、星波町各所の戦況を見る三島忠人は、特に感情らしい感情を浮かべず、夜衣斗達の動きを待つ。
ほどなくして、猛スピードで近付く黒い影達が現れる。
動きが早く視認が難しいが、あきらかにPSサーバントを身に纏った者達だった。
トンネルを守る武霊使い達に敵の出現が伝達され、武霊使い・武霊は身構える。
その瞬間、星波海岸全域に白い煙が発生し、その付近を覆い始めた。
発生源は、いつの間にか海岸上空に展開されていたGMサーバント達。
そして、そのサーバント達が出しているガスは、吸えば瞬く間に眠ってしまう睡眠ガス。
だが、それが武霊使い達に届くより前に、武霊使い達は事前に用意していた酸素ボンベを装着。
三島忠人は、GMサーバントの存在を逆鬼ごっこの際に知っていた為、夜衣斗が使うであろうと予想し用意させていた。
スキューバタイビング部や消防署など、とにかく外の空気を吸わなくさせる器具を集めさせ、足りない数はコピー能力を持つ武霊にコピーさせている。
これで睡眠ガスを無効化させたが、三島忠人は自らが見ている遠見能力による光景が全て白くなった瞬間、夜衣斗が睡眠ガスを使った本当の目的に気付き、眉を顰めた。
第二段階実行メンバーは、夜衣斗の作戦により、ドッペルゲンガーサーバントで自分達の偽者を作り、ステルス機能で密かにトンネル付近まで接近。
ドッペルゲンガーサーバントが動き出し、その動きに反応してトンネルを守っている武霊使い達が動く。
それに合わせて、上空に待機させていたGMサーバント達が睡眠ガスを放出。
その睡眠ガスは、武霊使い達を眠らせる為に放出されたものではなく、その対応で生じる隙を突く為のもの。
夜衣斗は酸素ボンベなどの対策が建てられていると予測し、それらを装着した瞬間に襲撃する様に指示していた。
そして、狙い通りの対応をした瞬間、実行メンバーは武霊使い、ではなく武霊を襲撃。
シールドサーバントで自分達ごと隔離し、外から光が入るが、内側から光が出ない様に設定したシールドの中で、武霊達と対峙する実行メンバーである五行化身の退魔士達。
工場側のトンネルには、木世一・火結桃子・火結太郎。
武霊達に向かって一は手から種を出現させ、指弾で武霊達に撃ち込む。
気とPSサーバントで強化された指から放たれた種は、武霊にあっさりめり込み、一瞬の間の後、一気に発芽し、瞬く間に木となり武霊を霧散させた。
桃子と太郎は、一によって創られた木に触れ、一瞬の内にして燃やす。
燃える木から次々と炎の獣が現れ、残った武霊達に襲い掛らせ霧散させた。
星降町側のトンネルには、土帝冬四朗・金黙紅・水錬鋼騎。
武霊達が身構えると同時に冬四朗はコンクリートを音を立てて踏み込んだ。
その瞬間、コンクリートがまるで沼にでもなったかのように武霊達の身体が沈み、その場から動けなくさせる。
動けなくなった武霊達に、紅は両手に次々と投剣を作り出し、投げ付ける。
気とPSサーバントで強化された投擲は、武霊をあっさり切り裂き、背後のシールドに突き刺さった。
続けて鋼騎が腕を振るうと、指先から高圧縮の水が放出され、武霊を切り裂いた。
自身の退魔士能力で一瞬の内に武霊を霧散させた退魔士達は、間髪入れずにシールドサーバントのシールドを解除し、酸素ボンベを付ける為に動きが鈍った武霊使い達にPSサーバントの拳銃を連射。
撃ち込まれた麻酔弾で意識を失う武霊使い達に、退魔士達は急いで近付き、携帯音楽プレイヤーを外し、シールドサーバント達にトンネル周りにシールドを張らせて音を通さなくさせた。
海上では夜衣斗の意図に気付いた三島忠人の命令で、戦艦の武霊が対空ミサイルを連射し、視界を邪魔するGMサーバントを霧散させた。
続けて大口径艦砲をはぐれ監視塔周辺に向けて連射。
夜衣斗がこれ見よがしに現れていると言う事は、あきらかに大夜衣斗用にどうしても割かないわけには武霊使い達への囮。
ほぼ無防備になっているはぐれ監視塔の武霊使い達にはまず間違いなく何者かが接近している。
なら、その周辺に無差別に攻撃すれば、夜衣斗側の何人か削れると言う事。
睡眠ガスやシールドサーバントの意図的に中を見せなくしたシールドなどで、未だにどう戦っているか分からないが、戦艦の艦砲を防げる人間はいないと三島忠人は考えた。
発射された巨大な弾丸は、白いガスの中に入り、間を置かず、凄まじい爆発を起こした。
生じた爆風により、ガスが霧散。
そして、ガスが晴れた場所の光景に、三島忠人は眼を見開いた。
何も破壊されていない監視塔周辺がそこに在ったからだ。