第四章『それぞれの裏、さまざまな真実』54
★???★
五十五、『琴野 沙羅』
「わたくしの自己紹介はよろしいですわよね?」
そう言う沙羅に、夜衣斗は微妙な沈黙。
ちょっとして、
「………言い難い退魔士能力なんですか?」
そう鋭い事を言われ、沙羅は顔を思わず引きつらせる。
その退魔士能力を知っているであろう周囲は困った顔になったので、夜衣斗はそれ以上聞くのを止めた。
★夜衣斗★
星波学園高等部一年。星波学園理事長の孫娘にして現星波学園統合生徒会統合生徒会長にして鯉の会星波支部の実質的リーダー………肩書きが更に長くなったな………。
琴野家は、学校運営をメインに間接的に関係ある業界・産業を手広く運営している一族の様で、人工島を買い取れたり、他の退魔士達からたかられても大してダメージを受けないほど資産を持っている模様。しかも、聞く限りでは、親類縁者全て財界人もしくは政界人らしく………なんか、彼女の一族って、裏から国を動かせるんじゃないんだろうか?………そう言えば、星波学園の前身である空港建設も、彼女の家の親類が関わっているぽいよな………ん~
退魔士能力は不明。
どうも本人が言いたくないらしく……………ふむ………言いたくない能力ね………
後で春子さんから聞いた話なのだが、彼女の一族は全世界の退魔士の中で最古かつ最大規模・最大勢力を誇る一族らしく………他の国でも大体彼女の一族は財界人・政界人なのだそうだ………って事は、国単位ではなく、世界単位で裏から動かせるって事か?………ん~………っで、肝心の退魔士能力は、色々な意味で表の世界で有名な能力だとか………色々な意味で有名な能力で、知られる事を忌避する能力、世界中にいる上にその全てが財界人・政界人………ふむ?もしかして………『あれ』か?………いや、だが、『あれ』だったら、普通は『退魔される側』なんじゃ………だからついさっきまで退魔士が実在する事を知らなかった俺には言いたくないって事か?………ん~そう考えるとしっくりこないわけもないが………それだけの理由じゃ今ここで言わない理由としては弱いよな…………
★???★
「………そう言えばさっき、尻拭いって言ってましたけど………汚職事件で捕まった政治家………確か、鬼角良蔵でしたっけ?……その人とはどういう関係なんですか?」
夜衣斗のその問いに、沙羅は少し躊躇して、
「わたくし達琴野家は、日本五大退魔士家系の一つ鬼角家の分家なのですわ」
「………と言う事は、鬼角家は日本五大退魔士家系の一つだったわけですか…………黒樹・操形・射眼・口導、そして、鬼角家。五大退魔士家系の血筋が一応全て揃ってますね……………なるほど、鬼ですか………」
夜衣斗の、呟く様に言った最後の言葉に、沙羅は少し警戒する様子を見せた。
その様子に夜衣斗は少し笑って、
「………まあ、とにかく、丁度夕食の準備が出来た様ですから、ここで一回休憩を取って、その後、主要メンバーだけ俺の所に集まってください。作戦の詳細を決める為に、いくつか聞きたい事、確認したい事がありますので………」
特に何も聞かない夜衣斗に、沙羅は少しだけ安心した様に小さく息を吐いた。
★飛矢折★
遅めの夕食を終えた後、黒樹君を中心にみんなが集まった。
メンバーは春子さん・統合生徒会長・芽印・屋写さん・字導さん・木世一さん・シールドさん・獣屋ゆりさんの八人と………何故かあたし………黒樹君から離れるタイミングを間違えたちゃったみたいで、しかたなくここに居るのが正直な所。
黒樹君は、あたしがいる事を特に気にせず、
「………では、俺の考える星波町奪還作戦をお教えします。素人考えなので、疑問やおかしな所があるとは思いますが、その時は遠慮なく指摘してください」
そう言ってリフレクションサーバントを具現化して、みんなの真ん中に星波町の簡易地図を映し出した。
「………まず再確認なのですが、俺達の目的は、星波町を三島忠人から奪還。つまり、星波町住民を含む、ここにいる全員の日常への帰還………そう認識していいですね?」
黒樹君の確認に、全員に頷く。
「………だとすると、俺達側にはかなりの制約が出来てしまいます………一つ、『通常の環境での武霊使用禁止』………これは、三島忠人の武霊能力により武霊を奪われない為の措置です………二つ、『操られている人の前での退魔士能力の使用禁止』………これは操られている人が催眠を解かれた後も操られていた間の記憶を保有している為の対策です………三つ、当然の事ながら、『操られている人への通常の方法での攻撃禁止』………まあ、これは理由を言わなくても分かりますよね?………これら三つの事を作戦の基底とします」
黒樹君のその制約に、ほとんどの人が戸惑いの表情を見せた。
「夜衣斗ちゃん。それじゃ私達は何もできなくない?」
春子さんのみんなの疑問を代表した問いに、黒樹君は首を横に振り、
「………三つの制約は一見俺達を何も出来なくさせている様ですが………要はやりようです………まあ、その事は後で説明しますから、先に作戦内容を言わせてください」
「それは別に構わないけど………」
黒樹君の考えがいまいち分からないのか、春子さんはちょっと困った顔になった。
「まず最初に俺達はある場所を奪還します。そして、その時に三島側がするリアクションで、作戦の流れが大きく変わる事を認識しておいてください」
「リアクションでですの?」
統合生徒会長の疑問の声に、黒樹君は頷き、
「………三島忠人が明確に操っている人達を人質に取る様な行動を見せたら、俺達は多少の被害を無視してでも全力かつ速攻で三島忠人を倒さなくてはいけません」
その黒樹君の言葉にほとんどの人が驚いて、あたしも思わず黒樹君の顔を見てしまう。
「………操っている人達を安易に人質に取ると言う事は、今回の事に深い考え・目的が無いと言う事です。そんな人間が長期間町を支配し続けたら………きっと速攻で倒しに行った時に出る被害以上の被害を出し続けるでしょう……なら、被害が少ない方が……まだマシなんじゃないんでしょうか?」
「それはそうかもしれませんが………」
さきほどまで黒樹君が言っていた事と、正反対の事に、全員が困惑した表情を見せる。
「その根拠は一体何なの?」
全員が困惑する中、春子さんが最もな疑問を口にした。
「………もし、今回の事に三島忠人なりの考え・目的があるのなら、それは今の状態をある程度の期間維持しなくてはいけないと言う事です。何故なら、三島忠人は星波町全体を支配している。つまり、『町単位で何かをするつもり』だと言う事で……だとしたら、どんな事であろうと、それには多少なりとも時間が掛る。そして、時間が掛ると言う事は、周囲の町や国に不自然に思われる様な事をしてはいけないと言う事です………人質の場合で考えるなら、人質を取ってその人質に仮に俺達が攻撃して死傷者が出た場合、とんでもない異変が起きているわけで………そんな事になったら連鎖的に三島忠人にとって厄介な事が起こる可能性が高い。ただでさえ、俺達の様な厄介な事が既に起きている訳で………それを考慮しないなら」
「時間が経てば立つほど被害が出るって事ね」
春子さんの言葉に頷く黒樹君、
「………もっとも、俺としては三島忠人が考えなしだと言うのは考え難いんですけどね………今回の事は突発的な事を利用しているとは言え、かなりの事前準備が無ければここまで成功する事はないでしょうからね………ですが、そうなると、星波町奪還はより難しい………腹の探り合いの様な戦いになるでしょうね………」
どこか嫌そうに言う黒樹君。
後で聞いた話だと、黒樹君はじっくり考えるのは得意だけど、瞬間的に考えるのは苦手らしくて、対人戦の様なものは全て駄目らしいんだけど………あたし個人はそうは思えないんだけどな………
「………とにかく、俺達が最初に奪還するのは………ここです」
そう言って黒樹君が指差したのは………星波駅だった。