第四章『それぞれの裏、さまざまな真実』53
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四十八、『後見 ねね』
「………あの………」
次に自己紹介の為に立ち上がった人物に、夜衣斗は戸惑いながら声を掛けた。
何故なら、立ち上がった女性が立ったまま寝ているからだ。
「あ~この人はぁ~こう言う人だからぁ~気にしないでぇ~」
と隣にいる先見かなたがフォローした。
★夜衣斗★
星波学園大学院生………って、星波学園にも大学院あるんだ………まあ、とにかく、常に寝ている人。その為か、髪の毛も服装もぼろぼろで………ちゃんとすれば明らかに美人なの………非常に勿体無い人。
この人も先見さんと同じく早見家の分家らしく………早見家の分家はこんなのばかりなのか?
退魔士能力は、『後渡りの眠り』
触れた対象の過去を見る事が出来る退魔士能力。ただし、過去を見るには過去を見る対象に触りながら寝る必要があるらしく、寝ている間は無防備になってしまう。ちなみに、安定している能力らしく先渡りの眠りの様な事にはならないらしい。また、一度その道のプロなどにより使用された道具や武器などを半覚醒状態で使う事により、そのプロと同じ様に扱う事も出来るらしい………若干不便なサイコメトリーみたいなものか………
武装守護霊はなし。
寝てばかりいるから当然か………
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四十九、『射眼 可憐』
「………本当に瞳可憐さんなんですね………」
改めてまじまじと見た為か、それとも初めて芸能人を生で見た為か、若干いつもと違う夜衣斗。
その夜衣斗に微妙に複雑そうな視線を向ける巴。
その巴を面白そうに見る春子。
その春子を見て溜め息を吐く沙羅。
その妙な連鎖に気付いた可憐は苦笑。
その可憐の反応に周囲の連鎖に気付いた夜衣斗はちょっと慌て、この場に居るほとんどを苦笑させた。
★夜衣斗★
星波学園中等部二年。瞳可憐の名前で芸能活動をしていて、最近いろんな所で見かける。その為か、あまり星波学園にいないらしく………今回いたのは不運なのか幸運なのか………
日本五体退魔士家系の一つ射眼家の次期当主射眼乙女の妹らしいが、退魔士能力は上手く受け継げなかったらしく、名前も付けられないほど退魔士能力として弱過ぎる魔法が発現し、視力を自由に変えられるぐらいしか出来ないとの事………十分凄い気がしないでもないが………退魔士としてやっていくには力不足なのは間違いないか………なお、本来射眼家の血筋の人間は、放浪癖があるらしく、基本的に決まった所に定住しないらしいが、そう言う所も受け継がれなかったらしく、琴野家のお世話になっているとか………と言う事は、琴野家は芸能関係にも手を出しているって事だよな………もしかして、思っている以上に琴野家って規模がでかいのか?
武装守護霊は、無し。
完全に支援組だよな………
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五十、『獣屋 ゆり』
五十一、『獣屋 さり』
五十二、『獣屋 れり』
「……………」
次に自己紹介の為に立ち上がった三姉妹の次女に睨まれる夜衣斗。
理由が分からず困惑していると、長女が笑って、
「ごめんなさいね。夜衣斗君。この子、前のはぐれ警報の事を根に持っているのよ」
ピンとこない夜衣斗に、三女が呆れた表情で、
「前にはぐれ警報を出した直後に、はぐれを倒したでしょ?その時のはぐれ警報で恥をかかされたと思ってるのよ、うちのお姉ちゃんは」
「だって、あんなタイミングで倒す事は倒す事は無いでしょ」
三女の言葉に次女はムスッとし、また夜衣斗を睨む。
謝ったら謝ったで火に油を注ぎそうだったので、夜衣斗はどうする事も出来ず固まるだけだった。
★夜衣斗★
星波町商店街にあるペットショップ獣屋を経営している三姉妹で、自警団のはぐれ警報担当。
長女のゆりさんが夜・次女のさりさんが昼・三女のれりさんが朝をそれぞれ担当し、星波町の海岸と麓の近くにあるはぐれ監視塔からの連絡を基に商店街にある自警団本部ではぐれ警報を出しているそうだ。
星波学園創設時にテストケースとして呼ばれ、武霊発生の混乱でそのまま星波町に残ってしまい、どうしようか悩んでいる時に春子さんの誘いで鯉の会に入ったそうだ。
学園創設時に生徒として学園に入った為、自警団団長の幸野美春さんと長女のゆりさんは同級生らしく、仲が良いとか。
なお獣屋家は、代々動物関連の退魔を専門に行ってきた家系であり、その関連で昔からペットショップを経営しているらしい………そう言えば、たまにテレビとかで見かけた事がある様な………
ちなみに、ゆりさんはおおらかで、さりさんはプライドが高く、れりさんはまじめな性格をしている模様。
退魔士能力は、『獣の王』
名前通り、動物を意のままに操る能力。魂の一部を対象の動物に入れて操る為、操るだけじゃなく、その動物の五感も共有する事が出来るらしい。………まあ、とは言っても操れる動物に得意・苦手があるらしく、ゆりさんは夜行性の動物・さりさんは昼行性の動物・れりさんは特に苦手なものはないらしいが、動物自体が苦手と根本的に自身の能力と相性が悪いとの事………なお、得意な動物と同じ種類の魔物なら普通の動物の様に操れるらしい………と言う事はメガネベアも操れるのか?………いや、あれは動物と言うより………人形か?
武装守護霊はなし。
自警団所属なのに武装守護霊を持ってないのは彼女達だけらしく、だからはぐれ警報担当をしているようだが………彼女達が自警団に入っているって事は、自警団の動きも鯉の会は注視しているって事か?
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五十三、『蟲屋 夏牙斗』
「蟲屋………夏牙斗………」
とぽそっと言った後、黙ってしまうロングヘアの青年。
長く伸びた髪で顔のほとんどを隠している為、どんな顔か分からず、表情も読めないが、
(………多分、恥ずかしいんだろうな………)
と同じ様に顔を髪で半分ぐらい隠している夜衣斗は思った。
「大変夜衣斗ちゃん!」
唐突にそんな事を言う春子。
何事かと視線を向けると、真剣な面持ちで、
「キャラが被ってるわよ!」
「………被ってません」「被ってない………」
ちょっとずれて互いに否定する夜衣斗と夏牙斗は、困った様に互いを見合わせた。
★夜衣斗★
星波商店街にある花屋の店員。
春子さん曰くキャラが被っているらしいが………俺はこんな感じなのか?………名前の末尾が同じと言えば同じだが、それぐらいだろ?………多分。
彼も星波学園創設時のテストメンバーで、獣屋さん達同様の流れで星波町に残り、鯉の会に入ったとの事。
詳細は語ってくれなかったが、過去に退魔士の禁を破ってしまった為に一族から追放された姉がいるらしく、その行方を密かに探しているとか………っで、俺にそれらしき人を見た事がないかと聞いて来たんだが………まあ、当然、それらしき人を見た覚えはない。
退魔士能力は、『蟲の王』
名前通り、虫を意のままに操る能力。獣の王同様に魂の一部を対象の虫に入れて操る為、操るだけじゃなくその虫の五感も共有する事が出来るらしい。人によって操り易い虫が違うらしく、彼の場合は名の通り夏の虫が得意だとの事。また、得意の種類なら、同じ種類の魔物も操れるとか………凄いが、今は関係ないな………っで、蟲屋さんの得意な虫は蜘蛛だとか………
武装守護霊は、『ミルキィ』
………確か、一昔前にあったアニメのヒロインだったかな?主人公の姉代わりをする為に未来から送られてきたアンドロイド……いや、女性型だからガイノイドだったか?………ん~どうも実際に完成していない技術の言葉は曖昧でいけないよな………まあ、どうでもいいが………とにかく、そんなキャラだったか………と言うか、これ、戦闘用のキャラじゃ無かったよな………武霊になったらどうなるんだ?何らかの戦闘能力が付与されているとは思うが………と言うか………どんだけお姉さんが恋しいんだろうか………ん?なんか家族関係も微妙に似てるような………いや、似てないか、俺は妹だと知らずにたまに会ってたんだからな………これはこれで凄い状況だよな………
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五十四、『髪結 零子』
「ねえ。今回の事が終わったら、私に髪を切らせてくれない?」
そう言って、片目を髪で隠し、腰まである髪を腰に巻いた女性が夜衣斗に微笑む。
微笑んでいるが、どこか有無を言わさぬ雰囲気を醸し出しており、夜衣斗は気圧され、思わずちょっと後ろに下がってしまう。
「蟲馬鹿は、駄目だったけど、あなたならまだ間に合うわ。ねぇ、私に切らせなさいって、カッコよくしてあげるからさ」
頷けば今にも髪を切りに迫ってきそうな感じに、隣の夏牙斗が首と手を振って無言で止めとけと言っている様だった。
なので、夜衣斗はとりあえず、
「………え~とにかく、自己紹介をしてくれませんか?」
と言うしかなかった。
★夜衣斗★
星波商店街にある美容院ビューティフルの美容師。
腕はいいらしいが、かなり強引な性格と独自の感性をを持っているせいで、時よりお客の髪を勝手にオリジナルカットで切ってしまいよくトラブルになってるとか………っで、それらの実験台とかに商店街に住む退魔士達がさせられていて、特に蟲屋さんはトラウマになるぐらい困った髪型にされたとか……………トラウマになるぐらいの髪型ってどんな髪型なんだろうか?
髪結家は、昔から床屋や美容院を経営し、それを利用して退魔を行ってきた為、彼女も自然と美容師になったらしいが………聞く分には美容師には向かないんじゃないんだろうか?何でも芸術家のシルフさんに弟子になれ、弟子になれと言われているらしいし…………やっぱり芸術は難しいな………
退魔士能力は、『髪縄』
自身の髪を自在に操れる能力。髪を操る能力の為か、髪が異常に丈夫なのに柔らかい。その為、普通のはさみでは切る事が出来なく、美容院にもいけないそうだ。っで、切る場合には、魔法が込められたハサミ、特に黒樹家の黒き大樹で作ったハサミが切り易いらしい………妙な所で黒樹家の名前が出てくるな………
武装守護霊は、『鋏男』
………確か、一昔前の映画の主人公だったかな?俺は見た事がないが………両手が鋏の改造人間だったけ?………あれ?なんか他にも同じ様な話の映画があった様な………まあ、興味ないからどうでもいいか………