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第四章『それぞれの裏、さまざまな真実』52

  ★???★

   四十七、『先見(さきみ) かなた』


 「初めましてぇ~」

 ぬぼぉ~と立ち上がり、ほわほわした感じで喋る彼女に、夜衣斗は戸惑いつつも、

 「………初めまして」

 と返すと、彼女はにこりと笑い、座ってしまった。

 「……………って、自己紹介は!?」

 「あ~忘れてぇ~ましたぁ~」


  ★夜衣斗★

 星波学園大学部一年。常にぬぼ~っとしてて、ほわほわしているお姉さん。

 早見家の分家らしいが、血が薄れているのか、能力のせいか、早見さんとは正反対と言うか何と言うか………早見さんとは別の意味で関わり難い人。

 退魔士能力は、『先渡(さきわた)りの(あゆ)み』。

 魂の一部を先(未来)へと飛ばし、未来の出来事を知る退魔士能力。

 ………どうもこの能力は、安定させる事が難しい能力らしく、本格的に能力を使ってなくても、魂の一部が常に現在と未来を行き来してしまうらしく、その為現在の身体が常にぼーっとしてしまうとか………まあ、見る事が出来る未来をある程度指定出来るらしいから、使える能力……かと思いきや、どうやら魔法などが関わっている未来は見辛いらしく、見る為にはその魔法の事を詳しく知っている必要があるとかなんとか………だから、特に高度な魔法が多く関わっていると全く駄目になるらしいが……………ん~………だが、要は何事も使い様だよな………

 武装守護霊はなし。

 武装守護霊が魂に寄生するのなら、魂が常に不安定な彼女には憑き難かったって事だろうか?


  ★???★

 黙々と食事をしている夜衣斗の隣で、間が持たなかったのか、

 「予知能力って、本当にあるのね………でも、どういう仕組みなんだろう?」

 とちょっと疑問に思っていた事を巴は口にした。

 その疑問に、夜衣斗は少し考え、

 「………この世の全てが根源意志力によって構成されているなら……まあ、素人考えですが、ある程度予想は出来ます」

 「どんな予想?」

 「………仮定の一つとして、基本的に世界は一本道なんだと思います」

 「一本道?……予め未来が決まっているって事?……でも、それってさっきの世界樹の話と矛盾しない?」

 「………あくまで基本的にです。樹で例えるなら、年輪の一番真ん中の部分がそれに当たるでしょう。っで、その『決まった世界』は、言わば物理法則のみで構成された『最も世界が望む世界の形』」

 「?……よく分からないんだけど」

 「………今まで聞いた話を統合して考えると、世界とは『魂を持った存在同士が自らを維持する為に創り出した殻』の様なものなのでしょう」

 「殻?」

 「………聞いた感じだと、根源意志力とは『在る』と言う最大最小意志力。なら、何に対しての在るだと思います?」

 「え?……ん~…………無?」

 ちょっと考えて自信なさげに言った巴の答えに、頷く夜衣斗。

 「………俺達の中に魔力孔と呼ばれる穴があって、そこから根源意志力が流れ込んでくる。要するにそこで根源意志力が生じていると言う事で、生じているのなら、生じる原因がある………つまり、世界の外は無だと言う事です。っで、無は無なのですから無限です。そんな無に対抗するには、とても固い殻が必要になる。それが世界………だと仮定できます………まあ、守るとか維持するとか、そう言う意図があって世界が出来たって訳じゃなく、無から生じた在るが、その存在を維持する為に自然と集まって、結果的に無から有を守る世界が出来たって方が正しいでしょう。だからこそ、高密度の根源意志力・魂の中に魔力孔があって………在るが集まり続ける為に在るが入り続ける穴が自然と出来て閉まらなくなって考えた方が自然でしょう………っで、魂を守る為に肉体が出来、肉体を守る為に世界が出来、世界を守る為に現在が出来、現在を守る為に過去が出来、過去を守る為に未来が出来て…………」

 唐突に夜衣斗が喋るのを止めた。

 聞いている巴が夜衣斗の話に困った顔をしていた為だ。

 どう簡単に説明すべきか夜衣斗も困り始めると、巴は苦笑して、

 「ん~その世界が魂を守っているって言うのが………ピンと来る様な来ない様な………」

 と辛うじて言うと、何かを思い付いたのか、夜衣斗はちょっと考えて、

 「………飛矢折さんが、分かりやすい例えが一つありますよ」

 「え?何?」

 「………気です。気は世界の理を維持し、強化する意志力物質だってさっき春子さんが言ってましたよね」

 「ええ。お祖父ちゃんもそう言ってた」

 「………じゃあ、何で世界の理を維持する必要があるんです?」

 「…………そう言う性質だから?」

 「………何でそう言う性質になったんです?」

 「それは………」

 「………そうする因子が、そうなる因子が世界にあるって事です」

 「じゃあ、世界が、常に無によって脅かされているって事?」

 「………そうなりますね。だから、気と言う意志力物質を魂が創り出した………多分、気脈とかレイラインとか、そう言うのがあるんじゃないんですか?」

 「うん。死んだ人の気が集まって出来た川が色んな所にあるわよ………そう言えば、気脈は世界を守ってるって話を聞いた事がある」

 「………そんな風に守られている世界ですが、あくまで魂から………『高密度の根源意志力の固まり同士が発する意志力が干渉し合って出来た世界』だとするなら、『魂と世界はそれぞれ別物』と言う事です」

 「うん?そうなるよね?」

 「………ですから、いくら世界が強固な決まった道筋………『正しい歴史』とでも言うべきでしょうか?………があろうと、魂はそれとは別の未来を、正しい歴史を拒絶する事だってあるんじゃないんでしょうか?」

 「………でも、それって未来を予め知っていないと出来ない事だよね?と言う事は………みんなが予知能力を持っているって事?」

 「………別に予知能力を持っていなくても、未来を知る事は出来ますよ」

 「え?どうやって?」

 「………知ること、考える事……まあ、要するに予測です。人はそうやって色んな未来を知っているじゃないですか」

 「確かにそうだけど………それを知った事で、人は正しい歴史を変えてしまうって事?」

 「………知り、望み、それを実行に移す………それだけでも、二つの可能性が生じますよね?」

 「えっと………しなかった未来と、した未来?」

 「………そう言う事です………まあ、もっとも、知らなくても正しい歴史を人は違った方向へ歩もうとするでしょうけどね」

 「未来を知らなくても?」

 「………可能性・選択肢など、一つ以上の事柄はいくらでもあるでしょ?」

 「確かにあるけど………」

 「………じゃあ、どれが正しい歴史か分かりますか?」

 「え!?えっと………分からない………よね?」

 「………そうです。分からない事も、正しい歴史を人が拒絶する要因の一つになるんです。一つしかない未来を知る事で、それに抗う意志が生まれ、一つ以上ある未来がある事で、正しい歴史を歩めない場合がある。それでも、世界は物理法則通りの未来になりたい。でも、魂は己の魂に従った未来に進みたい。だからと言って、どちらかを無くしては、どちらも互いの存在を維持出来ません。魂と言うより魔力孔が無くなれば世界は維持出来ない。世界が無くなれば魂が維持出来ない。言わば、魂と世界は共生関係にあるわけです」

 「………話が見えないんだけど………」

 「………要するに、互いが互いを納得する形になればいいんですよ。もっとも安定した形、自然な形と言えばいいんでしょうか?」

 「どう言う事?」

 「………ですから、それが世界樹なんです」

 「?」

 「………要するに、世界が望む未来と魂が望む未来が違った場合は、世界が分裂する。パラレルワールド創り出すって事です」

 「パラレルワールド?」

 「簡単に言えば、自分達が住む世界と違った歴史を歩む世界の事です。………つまり、世界樹は、幹が正し歴史に近い歴史。枝や根が正しい未来や過去とは違った歴史を表しているって事です」

 「…………ん~でも、そんな事をして魂は大丈夫なの?分裂って事は魂をそれだけ分けているって事でしょ?それに世界そのものだって」

 「………それは問題ないと思いますよ?そもそも魂も世界も全て根源意志力で出来ているんです。半分にしても、新たに根源意志力を魔力孔から手に入れればいいんです。無が無限なら、それから生じる根源意志力も同じく無限でしょうからね」

 「………分かった様な分からない様な………っで、それがどう予知の仕組みと関係しているの?」

 「………俺達のいる世界は、基本的に枝世界だと仮定します」

 「うん……え!?どうして!?」

 「………魔法と言う本来の物理法則ならありえない現象・事象を起こす事なる法則があるからです」

 「と言う事は、正しい歴史の中には魔法を存在しない?」

 「………え~っとですね」

 どう説明しようか口に手を当てて少し考える夜衣斗。

 ちょっとして、リフレクションサーバントを具現化。

 「………魔力孔から出てくる根源意志力が、魂・霊力・意志力じゃなくてこの場合は精神ですね・肉体もしくは物体・気・気脈・世界」

 リフレクションサーバントが作り出した空中に浮かぶディスプレイに円を書き、その円の中に口にした名前を書く。

 「………これが魂を持つ存在と世界の簡単な図です………っで、これらを維持するのに余った根源意志力が魔力になり、それを使って魔法が構築されるわけです」

 魂の円と魔力孔の円の間に新たな円を書き、魔力と書く夜衣斗。

 「………つまり、そもそも魔法は世界にとって不要なものなわけです。だから、魔法が少しでも使われてしまえば、世界に取ってそれは正しい世界ではなく、それ故に、昔から魔法が使われていると言う俺達の世界は、俺達が生まれた時から正しい歴史から分岐している世界って事になります」

 「………じゃあ、私達は間違っている世界なの?」

 「………どう間違っているかの基準にもよりますけど………枝世界だから言っても、どんな枝世界であろうと正しい歴史は存在しているはずです」

 「分岐した世界にも?」

 「………分岐した世界は言わば、分岐した要因を妥協した世界です。ですから、分岐した要因を含めての正しい歴史を自然と創り出すって訳です」

 「妥協した世界………あれ?でも、それだと危なくない?」

 「………何がです?」

 「だって、魔法で分岐をし続けるって事は、それだけ物理法則が変わってるって事でしょ?」

 「………あくまで妥協です。物理法則が変わってるんじゃなくって、世界が魔法の存在を渋々認めている。要するに物理法則にプラスαしたって事です………まあ、でも、あまり魔法による分岐が多くなるのはまずいのは確かでしょうね………じゃなきゃ、退魔士と言う存在は生まれないでしょうし」

 「退魔士が?どう言う事?」

 「………飛矢折さんは魔法についてどう思います?」

 「え………えっと、便利?」

 「………まあ、大体肯定的な考えが出てくると思います。そもそも振り幅が無限と言っていいほどあるんです。上手く利用すれば、どれだけの利益が出るか分かりません………なのに、退魔士達は過去に魔法使いを排除した」

 「危険な人達だったんでしょ?」

 「………確かにそう言う理由もあったでしょうが、それ以上にその身に魔法を宿す退魔士達だからこそ感じる魔法に対する危機感があったんじゃないかと思うんですよね。一種の魂と世界の防衛本能って事です。じゃなきゃ、人の中に……いくら魔力孔と言う穴があるとは言え……魔法が入り込む事を世界が許さないと思いますよ」

 「じゃあ、退魔士の人達は世界の防衛本能の為に、分岐人類にされたって事?」

 「………そうじゃなきゃ、何で彼らは退魔士なんて仕事をしているんです?彼らの様々な能力なら、色々な職業に転用しやすいでしょ?実際、それを利用して副業をしている人達もいるみたいですし」

 「ん~でも、他に魔法使いとか魔物とか対抗出来る人達がいないし………それに、退魔士能力を表だって使えば………迫害されるんじゃ………」

 「………確かに、魔法と言う力や技術は、一部の人だけが扱える物です………そう言う理由も勿論あるでしょうね………でも、だったら余計にほっとけばいいと思いません?わざわざ自分達を迫害するかもしれない連中の為に進んで働きたいとは思わないでしょ?」

 「…………確かに働きたくない……かな?」

 「………まあ、理由はそれぞれの家系で様々でしょうけど………その根幹にあるのが世界の防衛本能じゃないと、納得できない部分はかなりあると思うんですよ」

 「う~ん………そうかもしれないけど………でも、仮に世界が妥協し続けたら、具体的どうなるんだろう?」

 「………例えば、特定の物理法則が消失するとか、曖昧な世界になるとか、空想みたいな世界になるとか………」

 「………今でも十分に空想の世界な気がするけど………」

 「………確かにそうですね………でも、最悪には至ってないからいいんじゃないんですか?」

 「最悪って?」

 自分で口にしておいて、夜衣斗は少し躊躇って、

 「………世界の消失ですよ」

 「世界の消失!?」

 「………世界はあくまで物理法則によって構築されているんです。それなのに、妥協し過ぎで魔法に物理法則を取って替わられたらどうなると思います?」

 「どうなるって………魔法の世界になる?」

 「………多分、違います………魔法は、世界構築の為に構築されるものじゃありません。だから、物理法則に魔法が取って替わってしまったら、整合性が崩れ……一定量の魔法なら世界の自浄作用が働くでしょうが………それ以上になると、連鎖崩壊を起こし、世界は崩壊してしまうんじゃないかと………まあ、その前段階で、普通の人は魂も維持出来なくなるでしょうから、人類滅亡が先でしょうけどね」

 「……………」

 あまりにもとんでもない話に絶句する巴に、夜衣斗は苦笑して、

 「………話を戻しましょう………つまり、『予知は正しい歴史を歩んでいるパラレルワールドを見ている』って事です。多くの場合は正しい歴史を歩むでしょうから、普通の事なら高確率で予知が当たりますが、魂の介入ではずれもする。そして、魂以上に可能性の振り幅がある魔法が関わる事で、予知するにはその魔法が存在しているパラレルワールドを探して見ないといけないですからね………だから、魔法が多く関わってたり、高度な魔法が関わってたりすると、予知が、目的のパラレルワールドを探すのがより難しくなるってわけです」

 「じゃあ、星波町じゃ予知は使えないんだ………」

 少し残念そうに言う巴。

 予知が使えれば戦況が有利に働くのは間違いなかったのだが………

 「………そうとは限りませんよ」

 予想外の夜衣斗の言葉に、巴は驚き、

 「え?なんで?武霊とか、忘却現象とかって魔法なんでしょ?」

 「………ですから、魔法が関わっていない事柄を予知して貰えばいいんですよ」

 「?………どう言う事?」

 「………予知して貰って、その事柄が予知できなかったら、そこに魔法が関わっているって事でしょ?」

 「あ~なるほど………流石黒樹君ね」

 「……………」

 巴の褒め言葉に、夜衣斗は照れるより困った雰囲気になり、巴はそれに思わず苦笑した。

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