第四章『それぞれの裏、さまざまな真実』48
★???★
九、『字導 神楽』
「………武霊課にいた婦警さんですよね?」
神楽の顔に見覚えがあった夜衣斗がそう問うと、神楽は嬉しそうに、
「あ!憶えてくれてたんだ。ちょっと嬉しいかな?」
などと言ったが、夜衣斗は若干何とも言えない雰囲気になり、
「………まあ、警察署はちょっと嫌な思い出が出来ていますからね………」
「あれ?あの時って、夜衣斗君も承知してたんだよね?」
「………承知しているからって、あの状況が良いイメージに繋がる事はあまりないと思いますよ………」
夜衣斗は溜め息一つ吐き、それに神楽はにやりと笑って、
「そう?女の子が二人も泊りに来てくれたのに?」
「………………ノーコメントで」
★夜衣斗★
星波警察武霊課所属の婦警さん(表向きは生活安全課)。星波警察に行った時に会った事はあるが………ショートカットで八重歯が特徴のスポーティな感じのお姉さん。
昔は口導家と対をなす家系だったらしいが、過去に魔法使い側に付いた事により制裁を受け、衰退。今は彼女の家族以外に生き残りはいないとの事………何と言うか、そう言う事もあるんじゃないかと薄ら思っていたが………実際にそう言う事を聞く事になるとは………しかも、あっけらかんと、「まあ、昔の事だから」って言われるとは思わなかったな………まあ、深刻言われても困っただろうが………
退魔士能力は、『まつろわせる文字』
書いた文字の意味を現実にする退魔士能力。口導家のまつろわせる言霊を言葉から文字に変えただけの退魔士能力らしいが、発生が違うらしく、こちらは制御が可能な上、書き方やその内容によっては発動に条件を付けたりして取って置く事が可能なのだそうだ。しかも、各文字の制限も無いらしく、英語でもいいとか……要は書く側が文字として認識し、意味を憶えてさえすればいんだろう……ん~だとするとかなり便利な能力だよな………まあ、でも、一文字書くのに結構な意志力を消費する上に、まつろわせる言霊と同じ様にあまり物理法則から離れた現象を起こす事を書くと意志力の消費がより増加するとの事………使い勝手は良さそうだが………
武装守護霊は、『犬警』
童話の犬のおまわりさんが基になっているらしく、まんまな犬のお巡りさんな武霊………銃で撃ったり、警棒で殴ったりするぐらいか?………いまいち強そうに感じられないよな………
★???★
「………そういえば、武霊封じって文導さん退魔士能力で作られているんですか?」
夜衣斗の問いに、神楽は首を横に振った。
「違うよ。あれは全部武霊が作ったものよ。じゃなきゃ星波町の外でも文字の記憶が残っちゃうでしょ?」
「………まあ、確かに………武霊封じを主に使っている警察に、まさしく文字に力を込める人がいるものだから、ついそうじゃないかと思ってしまいましたよ……安直でしたね………そう言えば………武霊によって書かれているって話は聞いてはいても、実際にそう言う武霊を見た事がありませんね………」
「それはそうでしょう。文字に力を込められる武霊は数が少ないから………まあ、夜衣斗君ならその内会えると思うわよ?」
「………そうですか?」
妙に意味深な事を言われ、夜衣斗はちょっと気になったが、今はその事を聞くべき時ではないと判断して、それ以上は聞かなかったが、後にその事をちょっと後悔する事になるのは少しだけ先の話。
★???★
十、『凍眼 林檎』
「あの、その……えっと……その」
夜衣斗から注目され、みんなから見られていると言う状況に、思いっきり赤面してうろたえる林檎。
小学生なのだから仕方がないと言えば仕方がないが、こう言う状況になれていない夜衣斗の方は内心林檎よりうろたえてたりする。
「………うぅ~」
終には涙目になってしまうりんごに、流石に困った夜衣斗は春子に顔を向けるが、春子は面白そうにしているだけでちっとも助ける気はなさそうだった。
仕方が無いので、夜衣斗は、
「………無理して自分で自己紹介をしなくてもいいよ」
と言って他の人に林檎の事を聞こうとしたが、林檎本人が首を横に何度も振ったので、ちょっと迷いつつ夜衣斗は、
「………分かった………がんばって」
そう応援すると、林檎は顔をぽ~と顔を赤らめ、
「はい……がんばります」
と小さい声で言われた。
「おお!光源氏フラグ発生!?」
とふざけた発現をする春子に夜衣斗は無言でチョップを喰らわした。
★夜衣斗★
星波学園小等部四年。生き物係で、教室にいるインコと金魚の世話をしているとの事………いや、別にそんな事まで知りたくはなかったが………常におどおどした感じのツインテールの女の子で、クラスの男子に好意からよくちょっかいを掛けられそうなほど可愛らしい容姿をしている。実際、よくクラスの男子にちょっかいを掛けられ、泣かされているとの事。
射眼家の分家らしいが、退魔士能力がかなり変質しているので、射眼家の悪癖も受け継いでないとか………て言うか、射眼家の悪癖って?
退魔士能力は、『凍眼の瞳』
視界に入った全てを凍った様に時間を止める退魔士能力。あまりにも強力過ぎる為か、りんごちゃんが子供な為か、使用時間が極端に短いらしく、連続使用も出来ないらしいので、使えない能力とは本人の談………だが、要は使用タイミングの問題だよな………
武装守護霊は、なし。
★???★
「………ふと思ったんですが………もしかして、武霊発生以降も定期的に退魔士の子供達が星波学園に送られて来るんですか?」
その夜衣斗の問いに、春子は小首を傾げ、
「どうしてそう思うわけ?」
「………林檎ちゃんは、どう考えても十年前は産まれているか産まれてないかの年齢でしょ?しかも、ご両親は町にいなくて寮住まい……なら、つい最近この町に来たと考えるのが自然だと思いますが?」
夜衣斗の推理に話題にされた林檎はポカーンとし、春子はその様子に苦笑した。
「確かに今でも定期的に子供達が星波学園に送られて来るわ」
「………星波町に退魔士が近付くのは禁じられているんでしたよね?」
「そうよ」
「………意味が分かりませんね」
「ん~まあ、それぞれ家によって事情は違うんだけど、概ね『琴野家の援助を得る為に無理矢理子供達を学園に送ってくる』のよ」
急に現れた生臭い話に、夜衣斗は前髪の後ろで目を瞬かせた。
「ほら、星波学園って元々次世代の退魔士を育てる為の学園だったでしょ?でも、家によっては伝統とか、家訓とかで、子供を家から出したがらない所も結構あったわけ。っで、それを何とかする為に、琴野家は学園を作る時、各退魔士の家に約束したのよ。子供を学園に通わせれば資金援助をするとかそんな感じの約束をね」
「………つまり、多くの退魔士家系はあまり裕福ではないわけですね………」
「そうなのよ。どっかの大家系が退魔士の仕事を牛耳ってたり」
「………どっかのって………」
「まあ、概ねうちなんだけどね」
「……………」
「あと、バブル崩壊の影響とか、不景気とか、そう言うのの影響も結構退魔士社会にもあったりするのよ」
「………なるほど、兼業の人もそれなりにいるわけですか………」
「そう言う事。まあ、兼業の人は自力で何とかなるちゃなるんだけど、それ以外の人達は結構あっぷあっぷなわけ。だから、未知の危険がある場所であろうと、約束を盾に琴野家から強引に援助を引き出す為に、子供を無理矢理転校させてくるってわけ」
「……………」
あまりの話に押し黙る夜衣斗。
直前まで悪態を吐き掛けたが、流石にその当の本人の目の前で親の悪態を吐くわけにはいかないと夜衣斗は判断したわけだが………
夜衣斗が林檎の方に顔を向けると、林檎は二人の話を理解出来ていないのか目を瞬かせている。
「まあ、そう言うのは、あくまで大人の間の話だから、送られてきた子供達はなるべく武霊には関わらせたくないのが………正直な所ね」
小声で、夜衣斗だけに聞こえる様に言った春子の本音に、夜衣斗は溜め息を吐いた。
夜衣斗もそれには同意なのだが、今回はそう言う訳にはいかない状況だったからだ。