第四章『それぞれの裏、さまざまな真実』47
七、『池上 綾子』
「池上綾子だ。一度会った事があるな?」
綾子の問いに夜衣斗は頷く。
「………女性護身武術部の道場以来ですね………」
「はん。お前は私が必要になる事はねぇからな」
「………まあ、保健室に厄介なる様な事は極力避けているつもりですからね」
「私としてはじゃんじゃん暴れてほしかったがな」
「………暴れてって………」
「そして、じゃんじゃん流血者が出てくれれば言う事なしだったさ」
「……………」
とても保健医とは思えない綾子の発言に、絶句するしかない夜衣斗だった。
★夜衣斗★
星波学園保健医の一人………常に禁煙パイプを口に咥えている自称不良保健医の人。見る感じに不良って感じのギラギラした感じの人。流血が大好きらしく、その為に学校保健医になったふしがある………逆鬼ごっこの時に会ったきりだが………少し驚いたのが、春子さんと飲み友達らしく、たまに赤井さんのお父さんとも飲んでるとか………どこでどう言う関係があるかなんてわかったもんじゃねぇな………
意外な人が意外な才能を持ってたり、イメージと違う特技を持ってたりするが………この人はある意味それのいい例。なんせ人魚伝説の原型になったかもしれない退魔士家系の出身………らしい。
退魔士能力は、『魚人化』
いわゆる人魚の様な姿になる退魔士能力。完全な魚の姿になる事は不可能らしいが、ある程度変化のパーセンテージをコントロール出来るそうだ。だから、よく描かれてるような両足が完全な一つの尾状態にする事も、半魚人の様な姿になる事も可能だとか………それにしても………人魚って(笑)………あまりのギャップに笑うのを堪えるのに結構苦労した(笑)。
武装守護霊はなし。
ん~………能力的に海だよな………海か………
★???★
「ああ、言っとくが………笑ったら殺すからな」
「………な……何をでしょう?」
心を見透かした様な綾子に、若干ドギマギしながらとぼけて誤魔化す夜衣斗。
「はん。お前は春子よりは大人みたいだな」
夜衣斗の対応に感心したのか、嘲ったのか、微妙な笑みを浮かべる綾子。
「綾子ぉ~それはちょっと傷付くなぁ~」
本当に傷付いているのか、へらへら笑う春子。
「事実だろうが」
「酷い。酷いわ」
綾子の切り捨てる様な言葉に、妙に大げさに泣いた振りをする春子。
その二人に呆れた視線を向けながら、夜衣斗はぼそっと、
「………どうでもいいですが………緊張感が欠片もないですよね………」
つぶやき、こっそり溜め息を吐いた。
八、『屋写 あぐり』
「………学園でお見かけした事がありませんよね?町の方に住んでいる方ですか?」
今まで見た事がないあぐりに思わずそう問う夜衣斗。
「いいぇ~わたしはぁ~、学園寮でぇ~寮生のぉ~お世話をしてるんですよぉ~」
「……………」
みょうに間延びした喋り方に、困惑する夜衣斗。
「何かぁ~?」
「………いえ」
夜衣斗の沈黙に不思議そうな顔をするあぐりに、夜衣斗は何とも言えず沈黙した。
★夜衣斗★
星波学園生徒寮寮母さんの一人。他にも寮母はいるらしいが、その人達は一般人なのだそうだ。
妙におっとりと言うか、のろいと言うか………まあ、とにかくたれ目の美人。色々な意味で無防備な感じな人だが………その退魔士能力がとんでもなく………正直、あまりのギャップに少しの間思考が固まって、思わず聞き返してしまったほど………まあ、代々受け継いでいる能力が、その人に合った能力だと限らないって事だよな………
退魔士能力は、『夜叉』
食べる事でその食べたものの能力を一時的に使う事が出来るとんでもない退魔士能力。なんでも彼女の一族は、元々は人喰いをする(そうする事で他者の能力を一時的に手に入れて使っていた)一族だったらしく、それによって過去に退魔対象にされ退魔士に滅ぼされ掛けた所を、十二神将と呼ばれる退魔士達に助けられ、人喰いをしない事を誓い、彼らの配下として働く事を誓ったとか………まるで本当に夜叉みたいな話だよな………まあ、結構近い時代の話らしいから、こっちはインド神話とは関係ないただの偶然だとか………っで、本来は生きた対象から直接食べる事で対象の能力を使う能力である為、今は髪の毛とかを直接食べるなどして能力を使っているとか………ふむ………使えるかも………しかし………髪の毛を直接食べるね………そこはかとなく……ごにょごにょ……って感じるのは………まずい傾向だろうか?
★???★
「………ところで屋写さんは夕食の手伝いに行かなくてもいいんですか?」
夜衣斗がふと思った事を口にすると、あぐりは照れたように笑い。
「私ぃ~、慣れない場所だとぉ~、失敗がぁ~、多くなっちゃうんですぅ~」
「……………」(ドジっ娘寮母………ある意味新ジャンルか………)
などと反射的に考える夜衣斗に、春子はニヤニヤ笑みを浮かべ、
「んふふ。夜衣斗ちゃん。あなたの考えている事が手に取る様に分かるわぁ~」
「………何のことでしょう?」
「またまたとぼけちゃってぇ~………萌えるわよねぇ~色々な要素で」
「燃えるぅ~?何が燃えるんですかぁ~」
あきらかに春子が言うもえを別のもえに勘違いしているあぐりに、何と言ったものか思案したが、結局は何も思い付かず深いため息を吐き、あぐりの小首を傾げさせた。