第四章『それぞれの裏、さまざまな真実』42
★飛矢折★
飛矢折家には、『気』と言う概念がある。
もっとも、一般的な気の概念とは若干違ってて………飛矢折家が元々退魔士の家系であるなら、多分、退魔士達と同じ概念なんだろうな………って思ってたら、やっぱり同じだったみたい……それに、この場にいる黒樹君・西島さん親子以外の気が、『気を操れる者独特の整い方をしている』からおかしいと思ってたのよね………
曾お祖父ちゃん曰く、気とは、魂から生じる意志力の一種。
この世の理を維持し、強化する意志力である為、魂を持つ存在は、その肉体と魂の維持・強化に無意識の内に使われている。
だから、それを操る事が出来れば常人以上の身体能力を得る事が出来て………あたしもそれを利用していたので、女だてらに強いんだけど………あたしの場合は意図的に修行して身に付けた技術。でも、たまに武術家の中にはそれを意図せずに身に付ける者もいて………朝日部長や、高木先生もその類の人みたいで、退魔士の人達同様に整った気を持っていた。
だからあの二人はあんなに強いんだろうけど………星波学園には妙に気を操れる人が多いなぁ………って前々から思ってたんだよね………
まあ、普段から見れる様に意識していると、気脈とかを見ちゃって眩しいんだよね………だから、気を扱える人がこんなにいるなんて、気付かなかった。
………それにしても………気を操れる者は、意識すれば、その気自体を認識し、感じる事が出来る。って曾お祖父ちゃんに教わってたけど………魔力とか、霊力とかも見れるって話は聞いていなかったな………もしかしたら、今まで魔力とか霊力とかを気と誤認していたかも………
そんな事を思っていると、唐突にあたしの名前が呼ばれて、ちょっとびっくりした。
「………なるほど、飛矢折さんが冗談みたいに強いのは気のおかげですか………と言う事は、飛矢折さんの何割か減ぐらいみんな動けるって事ですか………」
え~っと………
「私でも本気になれば、建物の二階ぐらいの簡単に飛び乗れるし、スクーターぐらいだったら走って追い付けるわよ。ねえ、巴ちゃん」
何だか自慢げに出来る事を言って、あたしに同意を求める春子さん。
………そりゃ、やろうと思えば出来るだろうけど………そう言う人並み外れた身体能力は人前で見せるなって、曾お祖父ちゃんに厳しく言われてるから、やった事は………修業中以外やった事は無い。
ちらっと黒樹君を見るけど、
「………今更、その程度は驚きませんよ」
とあたしの視線の意味を理解したのか、そう言ってくれたので、ちょっとほっとした。
………まあ、本当に今更って気がしないでもないけどね………
「………大体分かりました。後は、この場の全員の名前・退魔士能力・武霊を持っているなら武霊の事を教えて欲しいんですが…………」
そこまで言って、黒樹君は少し考えて、
「………先に言っておきますが………俺は、『可能なら三島忠人を、意志力枯渇をさせないで、生きたまま捕縛するべき』だと考えています」
そう言うと、周りが少しざわついた。
「夜衣斗さん。わたくし達も『出来れば』そうしたいと思っていますが」
統合生徒会長の言葉に、黒樹君はため息を吐き、そのため息に統合生徒会長は言葉を詰まらせた。
「………出来ればですか………」
「………夜衣斗さん」
黒樹君のつぶやきに、何と答えていいか分からない感じの統合生徒会長。
「………一つ聞きたいんですが、この中に『人殺しを経験した事がある人』はいますか?」
黒樹君のその問いに、周りはざわつくけど、肯定する人はいない。
「わたくし達………鯉の会の中に人殺しを経験した者はいないと思いますわ………もっとも、正式な退魔士達は………その限りじゃないでしょうけど………」
そうおずおずと言う統合生徒会長に、黒樹君は少し安心した様に、軽く息を吐いた。
「………正直、人殺しと一緒に行動出来るほど、俺は肝が据わってませんので………ですから、三島忠人を殺して解決する方向はなしでお願いします」
「………それは構いませんが………ですが………あの能力にそれが可能なのですか?………その選択肢をなくせば、わたくし達は圧倒的に不利になり………いたずらに被害を拡大する恐れがありますわ」
黒樹君の宣言に、統合生徒会長は遠慮がちに反論する。
「………そうですね。確かに、殺害と言う方法をなくせば、こちらに被害が出る可能性も高くなるでしょうね」
「なら、何故ですの?………何もわたくし達は、黒樹様に手を汚させるつもりはありませんわ」
「………そう言う問題じゃないんですが………」
黒樹君ため息一つ。
………確かに、嫌な覚悟よね………
「………今までの一連の事件と状況から考えて、『三島忠人も堕ち人の実験対象である可能性が高い』でしょう。なら、少しでも堕ち人に近付く為に、三島忠人から堕ち人の情報を聞き出すべきです」
「それはそうかもしれませんが………」
「………さっきも言いましたが、堕ち人の研究と実験はある程度成功しつつある可能性が高いんです。それはつまり、『いつ武霊の兵器化が完了してもおかしくない』と言う事です」
黒樹君の指摘に、周囲が静かになる。
「………それが完了する事で、どうなるか……………まあ、どうなるにせよ。最悪の事態でしょう………ですから、少しでも堕ち人に関する情報を得られる可能性があるなら………無理をするべきでしょう。勿論、俺が言い出した事ですし、意志力枯渇させないで三島忠人を捕まえるには、美魅の力を借りる必要があります。ですから………」
ちょっと躊躇って、
「………俺が三島忠人と直接戦います」
「夜衣斗さん………」
心配そうに、申し訳なさそうな統合生徒会長に、黒樹君は苦笑して、
「………まあ、そうは言っても、操られた人達を何とかしなくちゃ三島忠人まで辿り着けないでしょうから、その人達はみなさんにお願いしたいんです」
「それは構いませんが………わたくし達の力は………」
「………大丈夫です。『使える状況を作りますから』」
?………使える状況を作る?………どうやって?
みんなも同じ事を思ったのか、周囲がざわつく。
「………詳細は、皆さんの事を聞いてから教えますので………」
内ポケットから小さなノート………黒樹君がたまに何かを書いてる……アイデアノートだったかな?……とシャーペンを取り出して、
「………端から、一人ずつお願いします」