第四章『それぞれの裏、さまざまな真実』40
★飛矢折★
黒樹君が自分の考えを無意識の内に口にしている事を指摘され動揺している。
………知らなかったんだ………まあ、聞いた話だと、黒樹君は今まで一人でいる事が多かったみたいだし、今まで癖が出るほど周りを意識せずに考えに集中している状況じゃなかったものね………あんな癖があるなんて、気付かないのは仕方がない事かな?
黒樹君は恥ずかしさを誤魔化す為か、一回咳払いして、
「………とにかく、大量の魔力を武霊が使い続けると、武霊は壊れる可能性が高いんです」
「要するに、オウキもいつか壊れる可能性があるって事?」
その春子さんの言葉に、ほとんど全員の視線が黒樹君の斜め後ろに立っていたオウキに集まり、その視線に気圧されたのか、オウキが動揺した様に周りを見回す。
?………なんだかオウキが幼く見えて……違和感を感じる………考えて見れば、あのオウキはあくまで武装守護霊であって、黒樹君が考えるオウキ自体じゃないんだよね………
じろじろとオウキを一通り見た春子さんは、
「………どこも異常がなさそうだけど?」
………確かに……そんなに頻繁に見ていた訳じゃないけど………外見上は、いつものオウキに見える。
黒樹君の言う様に大量の魔力で武霊が壊れるなら、何らかの兆候が以前の戦いとか、さっきの戦いとかで出ても……その逆はぐれ化が起きてもおかしくなかったじゃ………
オウキに視線が集まる中、黒樹君は少し考えて、
「………オウキが今まで逆はぐれ化を起こさなかった理由は………多分ですが、三つ思い付きます………一つは、『魔力孔の封印がさっきまで在った事により、魔力が少量しか出ていなかった為』」
「うん。まあ、それは確かにそうでしょうね………そう言えば、何で封印が解けたのかしらね?そう簡単に壊れる様な封印じゃなかったはずなんだけど………」
その何となしの春子さんの疑問に、黒樹君は困った雰囲気になった。
言っていいものか、判断に困っている様にも見える。
ちょっと間を置いて、
「………まあ、死後の世界を見たからじゃないですか?」
と、子声でとんでもない事を口にした。
「………夜衣斗ちゃん?」
流石の春子さんも引きつった顔で聞き返す。
「………死に掛けたんですよ」
「巴ちゃんに倒される前に?」
「……………ええ」
春子さんの発言に、黒樹君が一瞬こっちを見て、頷いた。
気遣って……くれたのかな?
でも………やっぱり………殺し掛けてたんだ………あたしは……操られていたとは言え、黒樹君になんて事を………
(生きてんだからいいじゃねぇか)
………そう言う問題じゃないでしょ?
(そう言う問題だろ?)
………………あのね…………
あたしが瞬輝丸の考えに呆れに近い困惑を抱いている間も、黒樹君の話は続いていて………
「…………っで、その時に、三途の川みたいな所や、自分の魔力孔を見たんですよ………多分、それが切っ掛けで魔力孔の封印が解けたんじゃないんですか?………よく分かりませんが、その時には魔力孔にそれらしき物はなかったですから………」
「……そう……まあ、確かに、死に掛ける事によって魔法や魔力を得る人達はいるから………それでより魔力孔が広がったのかもね………それで、二つ目は?」
「………二つ目は、『二体目の武霊・キバが現れた為、俺の魔力が上手く分散された為』」
キバ?………確か、さっき黒樹君が夜衣花ちゃんを本物か確かめる為に言っていた名前だよね………
「ふ~ん。さっきも聞いたけど、それがあのお馬さんの名前なわけね………」
馬?
「ねえ夜衣斗ちゃん。今度でいいからあのバイク形態に乗せてくれない?」
バイク?
「変形機構っていいわよねぇ~」
変形?…………キバってどんな武霊なんだろう?………本当に黒樹君はよく考えてると言うか………
「………っで、三つ目なんですが………オウキ……と言うより、守護機騎シリーズの動力源の設定のおかげでしょうね」
「動力源の設定?」
「………ええ、オウキをはじめとする守護機騎シリーズにはライオンハート機関と言う………『契約者の意志力で動作する特殊な動力源が搭載されている設定』なんです」
意志力で動く動力源?………何だか武霊みたいな設定ね………
「これは、動力源としての機能以外に、意志力を別のエネルギー変換する機能や、サーバントなどを作り差すナノマシンを無から創り出す機能もあったりして………意志力をかなり消費する………と言う設定なわけです。だから、意志力が魔力に切り替わっても、根本的に同じものであるなら………その消費の多さと、元からの意志力を使うと言う設定から………多分ですが………ある程度大量の魔力に対しての耐性がオウキにはあるんでしょう」
なんだか………
「武霊になる為に作られた様な設定ね」
春子さんも同じ事を思ったのか、ほぼあたしも思った事と同じ事を口にした。
「………確かに………少し都合が良過ぎますね………」
今度の黒樹君のつぶやきは、聴力を鍛えているあたしが何とか聞き取れるぐらいの声だった。
?………なんか引っ掛かるつぶやきだったけど………何が引っ掛かってるのか、あたしにはよく分からなかった。