第四章『それぞれの裏、さまざまな真実』32
★???★
「日向ぁーお前がぁーいぃないとぉー高木が暴走気味になるー」
そう閃が言うと、魁人は眉を顰めつつ、弥恵に向かって秘匿念話。
(ここまで頑張ってきたんです。もう少し、もう少しだけ我慢してください)
(我慢?)
弥恵も秘匿念話で返し、閃は、二人が盗聴防止の念話をし出した事に、あざけりの笑みを浮かべつつ、華衣から実験の結果報告を聞き始める。
(そう………やっぱり、黒樹君が………)
魁人は弥恵から夜衣斗の名前が出た事に多少驚きを感じつつ、
(はい。ですから、後は条件が上手く整えば………)
(条件………『七つの宿命の悪意に打ち勝つ事』だったわよね………)
ギュッと拳を握り締める弥恵。
(悔しいわ。自分の生徒が死の運命に晒されているって言うのに………私は……何も出来ない!それどころか!その死の運命の手助けすらしている!)
(だからと言って、捨て身になるのは止めてください)
(……そうね……まだ、退場するには早いわね)
(はい……それに今、あいつも退場すれば………『最悪の歴史』を歩む可能性が高くなります)
(最悪の歴史?………そう、今の状態でも、『お師様の示した未来』は回避されているのね)
(皮肉な話ですが、今、七人の弟子の中で、最も『シェルトンさんの願い』を叶えているのが………あいつなんです)
(………確かに叶えてはいるだろうけど………最良の方法でではないわ)
(はい。最悪な方法でです……もし、このままあいつの暴走を許せば、『シェルトンさんの示した未来』とは別の形で最悪な歴史を歩む可能性もあります………実際にその兆候は去年ありました)
(弱者同盟事件ね………まさかあの『フランク』がヴァルキュリア研究を引き継いでいたなんて………)
(七人の中で最も力を求めていた人でしたから………今思えば、あの人の先導で他の五人は………)
(過去を悔やんでも仕方が無いけど……気付くべきだったわね………………それで、小村はフランクとどんな取引をしていたか調べは付いた?)
(ヴァルキュリアの実験データとDNAマップの様です)
(……小村は日本でもヴァルキュリアを作る気かしら?)
(それはどうでしょう?既に独自の人工分岐人類と言える武霊チルドレンを作っているんです………それに『ヴァルキュリアの危険性』は、小村も重々承知しているでしょうし………)
(………そうね)
(あと、幾つかの最新兵器も提供されている様です)
(最新兵器?………その中に『AFPS』って言うのもある?)
(確かにありましたが………どうしてその名前を?)
(武霊使い用に調整する様に小村に頼まれたのよ。もちろん、そんな事をする気もないから断ったけど………)
ため息を吐きながら魁人にSDカードを見せる。
(それは?)
(そのAFPSの調整データよ)
(弥恵姉さん………)
(仕方が無いのよ。AFPSを真っ先に装備させられるのは、まず間違いなくあの子達よ)
視線を淡々と閃に報告している華衣を見る。
(弥恵姉さん。あなたの『慈愛』は……時として悪意になるのは……分かっていますよね)
(分かってる……ついさっきも悪意になり掛けた所だからね……)
自嘲気味に笑う弥恵。
(でも、それはあなたの『平和』にも言える事なのよ)
(………もちろん、自覚はありますよ………それで、それはどうするんですか?)
(小村との取引に使うわ)
(ブレチル達を助ける為に?)
(そうよ。元々あの子達を守る為に作った物だから、ある意味丁度いいわ)
そう言って、弥恵は報告を終えた華衣を守る様に移動した。
「さぁって、とぅりひきの時間かぁ?」
小村の問いに、弥恵は頷き、
「この中にはAFPSの武霊使い用調整データが入っているわ」
「へぇ?そいつはすごぉいなぁ。お前にぃ断られてからぁ、苦戦してたんだょー」
「これとあの子達の『しばらくの失敗』を無しにしてくれないかしら?」
「しばぁらくの失敗?さっきよりぃ条件、ふぅえてねぇか?」
閃の苦言に、弥恵は笑みを浮かべる。
「私の生徒に手を出すつもりなら、しばらくは失敗が続くと思いなさい」
その弥恵の宣言に、閃はニタリと笑い。
「いぃいぜ。その条件でぇ飲んでぇやるよぉ」
「そう。なら、受け取りなさい」
SDカードを閃に投げ渡し、
「帰りましょうか華衣」
華衣を促し、この場から帰ろうと背を向ける弥恵。
「だぁが、いいのかぁ?」
その背中に、ニヤニヤしながら言葉を投げ掛ける閃。
「こいつぅっとぉ、今やってるじっけぇんの結果次第でぁ、『武装守護霊計画』はぁ『次の段階』にぃ進むぞぉ?」
「言ったでしょ?」
振り返りもせず、
「私の生徒に手を出すなら、しばらく失敗が続くって………今回も例外じゃないわ」
そう言って、床に杖を突くと同時に現れた魔法陣の中に、一礼をする華衣と共に弥恵は消えた。
魁人と二人っきりになった閃は、しばらくの沈黙の後、
「どぉ思う?今のぉ?」
「「さあな?」」
魁人は興味なさそうにノートパソコンに言わせ、
「「今月のノルマ分はお前の魔法杖に転送しておいた」」
その発言と共に、閃のメガネのレンズに無数の情報が表示される。
船はそれを見ながら、
「日向ぁ~、ここぁしばらぁく何処にいたぁんだ?」
一瞬の警戒心の伴った敵意。
「「答える義務はないはずだが?」」
「きぃになあるじゃねぇか。兄弟子としてわよぉ」
「「ノルマさえこなしていれば、その間は何をしても良いんじゃなかったのか?………それとも、約束を違えて、僕を『監視』していたか?」」
その魁人の問いに、閃の顔が一瞬ひくついた。
「っは……なわけぇねぇだろ?」
「「なら、問題はない」」
にらみ合うとまではいかないが、ほんの少しの間、交差する二人の視線。
無言の駆け引きの後、魁人は何も言わず転送魔法陣を出し、この場から消えた。
再び一人になった閃は、邪悪と表現していい笑みを浮かべ、
「足掻けぇばいいさー。どぉせ、もぉ、この流れはかえぇられやしぇね」
そう言って手を振りかざすと、閃の前に地球の立体映像が現れる。
その立体映像の地球儀には、様々な場所に何らかの数値とパーセンテージが表示されており、特に大きく書かれているのは、『日本』・『アメリカ』・『中国』・『ロシア』・『EU』で、その全てが高い数値と七十から八十のパーセンテージと高い数値を示していた。