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第四章『それぞれの裏、さまざまな真実』29

  ★夜衣斗★

 『弱者同盟』

 遡れば一昨年頃から起きていた『世の中で強者と分類される様な人達を対象としたテロ行為を主導・実行していた主に学生により構成されたテロ組織』。

 彼らの理念は、「虐げられるばかりの弱者には、虐げる強者を打倒する資格がある」と言うもので、その為なら手段を選ばず、殺傷・誘拐・脅迫など、それまで日々ニュースで流れていた様な外国のテロの様な、時にはそれ以上の事をしていた。

 最初の頃は、主に不良や暴走族など、弱者同盟に参加していた学生達の身近な相手が対象で、世間も不良同士・暴走族同士の抗争か何かで負傷・死傷が出たとしか思われていなかったが、次第にその件数が異常な数になり、警察が本腰を入れ始めた時には、日本全国に同盟参加者が広まっていて、その対象はより強い相手へ、より苛烈な手段へと移行してしまう。

 教師・警察・暴力団果ては国会議員までテロの対象にされ、銃撃・爆破・毒散布など手段を使うようになり、模倣犯も数多く出た。

 その為、分かっているだけでも被害者総数は一千万人近くいるとされ、日本最大のテロ事件と言われている。

 もっとも、学生が主に行っていたせいか、被害とその規模の割には、死者が少なく………いや、正確には、少し違うか………実際に弱者同盟により殺されたと思われる被害者は、約千人。だが、同じ時期に一切の行方が分からなくなった不審行方不明者が一万人近くいる為、実際の所は一万人近い死者が出ているのでは?と考える人も少なくない。

 ここまで被害が広がり、一年以上もテロが続いたのには幾つかの訳がある。

 まず、第一に、『発覚まで時間が掛った事』

 そもそも、最初頃の弱者同盟は、主に復讐がメインだったようで、通常のテロの様に犯行声明を出す様な事はしていない上に、様々な隠ぺい・偽装工作がされていた為、場合によってはそれらは事件にすらなっていなかった。

 それらの事件が弱者同盟によるテロと言う事になったのは、昨年の夏休みに弱者同盟の代表を名乗る『イザナミ=ヴァルキュリア』と名乗る少女のネット動画犯行声明によるもので、彼女はそのネット動画でそれらを我々が起こしたテロだと宣言した。それでようやくテロが行われている事を知った警察や公安は、完全に後手に回り、国内テロへの対応に遅れてしまったと言う事。

 第二に、『テロに使われた高度な知識と技術』

 弱者同盟の参加者の多くは、その名の通り弱者・力の弱い者で構成されていた。弱者と言う意味はかなり幅広い意味で使われていた様で、『何かに劣り、そこに劣等感を抱き、強者に恨みを抱いていれば大体弱者と言う事にされて、同盟参加者になれた』……らしい。そして、その多くが、肉体的な劣りを持ち、肉体的な強者に虐げられた頭のいい者達だった。その為、多くの犯行が高度な知識と技術に基づいて行われており、それにより犯行を防ぐ事も、知る事も難しくさせた………と言うのがニュースとかで流れる一般的な認識。

 そして、第三は、『半年近く経った今でも分からない組織全体像とその資金源並びに資材調達ルート』

 根本的な事として、弱者同盟参加者が全国に増えるには、それなりの組織力がないと難しい。そもそも、テロに使われた様々な道具や材料を逆算して計算してみると、一国の国家予算並みの資金が必要になる事が分かり、また資金があったとしてもどうやってそれらを購入していたのか、どうやって各同盟参加者に渡していたのかも一切分からなかった。その為、使われた材料から犯人を調べる事が出来ず、止める事も出来なかった。

 これら三つ以外にも、そもそも弱者同盟の代表を名乗るイザナミ=ヴァルキュリアなる人物が何者なのか?どうやって警察や世間の目を掻い潜り同盟参加者を増やしていたのか?など、謎が多過ぎる弱者同盟は、誰にも止められる事なく永遠にテロを起こし続けると思われていた………が、昨年の八月中頃の国会議事堂爆破未遂事件を最後にピタリとテロが起らない様になる。

 様々な謎と恐怖を残して唐突に終結したそれらテロ事件の事を、世間は『弱者同盟事件』と名付け、今でもその真相を探ろうと様々な所が調べ回っているらしいが………今の所、ネットで見た眉唾物の都市伝説の様な話しか聞いた事が無かった。

 だが、今の俺はは、その都市伝説でもある程度信憑性が出ている。

 何故なら、超能力や魔法が実在している事を知ったからだ。

 だとすると、もっとも多くネットで噂されている『イザナミ=ヴァルキュリアと名乗る少女は、他人に超能力を与える超能力者で、弱者同盟達はイザナミから得た超能力で、同盟参加者を増やし、テロ行為を行っていた。だから、ここまで被害が広がった』……とよく流布されている話に、一番の信憑性がある気がした。

 確かに超能力者なら、短期間で日本全国に同盟参加者を増やす事も出来そうだし、資金力も資材調達ルートも必要ない。

 それに、超能力なら、魔法の存在を隠したい連中が自主的に隠ぺい工作をしてしまうだろうし……それだったら、未だに謎が多いと言う理由も納得出来る。

 そして、その噂には、こういう噂もワンセットで流れている『弱者同盟は同じ超能力者達によって密かに倒された』。っと。

 ………考えるに、その同じ超能力者と言うのは………退魔士達の事を言っているんじゃないんだろうか?超能力者が突発的に生じるものなら、あれだけの規模のテロを起こせるぐらいの超能力者達を止めるだけの数の超能力者が、突発的に生まれるのは考え難い。だとすると、安定的に超能力を継承し、かなりの数がいると思われる退魔士達が弱者同盟を止めたと考えるのが自然。

 そう考えると、強者である鬼走人骸を調べていた超能力を使うひよりさんは、『弱者同盟の残党』とも考えられる。

 じゃなければ、退魔士達が西島親子をこの場に居させない。

 要するに、

 「………春子さん達は、西島さん達から、弱者同盟の残党の事を聞き出したいんでしょう」

 弱者同盟が超能力集団と言う推論の後に、そうさゆりさんに言うと、さゆりさんは不安そうに春子さんを見た。

 春子さんは頷き、

 「大体夜衣斗ちゃんの言う通りですよ。弱者同盟は、日本政府の依頼で、私達日本の退魔士とその一族達が総出で壊滅させ、今でも、その残党を追っています。もっとも、壊滅・追っていと言っても、逮捕するとかそう言う事はしてませんし、私達にその権利はありません。ですから、多くの場合は、その超能力を、黒樹家の力で消滅させて、終わりです」

 黒樹家の力?………そう言えば、黒樹家の退魔士能力・黒き大樹は、魔力を喰らう樹。それを使えば、超能力を消す事も出来るって事か………

 「もっとも、ひよりちゃんは私達の調べでは、弱者同盟の中で諜報活動を担当していたみないなので、超能力を消すだけじゃなく、ひよりちゃんの交友関係などの事を聞く事と、西島さんの家を調べる許可をいただきたいんです」

 「……そう……ですか………」

 春子さんに俺の推論が合っている事を言われ、流石にショックを隠しきれないさゆりさん。

 そりゃそうか……自分の娘が、知らぬ間にテロ組織に関わっていたと聞けば、誰だってショックを受ける………春子さんは直ぐにでもひよりさんの事を聞き出したい様だが………これは………少し、心の整理を付ける時間があった方がいいな………

 そう思った俺は、気になった事を聞く事にした。

 「………春子さん。大体どこまで合っているんですか?」

 「どこまでって?」

 「………例えば、本当にイザナミ=ヴァルキュリアは、他人に超能力を与える超能力者だったんですか?」

 その俺の質問に、春子さんは躊躇を見せた。

 どこまで喋るべきか悩んでるかの様にも見える。

 「………口外はしませんよ。第一、そんな事を喋っても科学至上主義が多い現代に置いて、それを簡単に信じる人は」

 「そう言う事じゃないの」

 俺の言葉を遮って、首を横に振る春子さん。

 「弱者同盟事件はね。結構大きくて深い事件なの」

 大きくて深いね………ふむ………だとすると、やっぱり………

 「………例えば、国が関わっているとか?」

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