第四章『それぞれの裏、さまざまな真実』26
★夜衣斗★
飛矢折さんが最近やたらとテレビとか、雑誌とかに出ているアイドル・瞳可憐を知らない事には驚きだったが………まさか、その瞳可憐が星波学園の生徒だったとは………まあ、退魔士の家系の生まれだったのならおかしくはないだろうが………ん~もしかして、他にも芸能人が星波学園にいるとか?………いや、もしかしたら、芸能界だけじゃなく、様々な業界に退魔士達がいる可能性が高いよな………そもそも、汚職事件の尻拭いと言う理由で人工島を買い取らせたって事は、少なくとも、政治家・建設業・そして、教育業にも退魔士がいるって事だな……………ん~………まあ、今は、そんな事より、飛矢折さんの家が退魔士の家系ね………しかも、普通の人でありながら………普通の人って言うのには、若干の疑問が無くはないが………
「えっと………瞬輝丸?」
飛矢折さんがおっかなびっくりと言った感じで、瞬輝丸と呼ぶ刀の柄に腰かける小さな着物姿の女性に声を掛けた。
「おうさ。あたいは瞬輝丸さ。まあ、とは言っても、本体はこいつだけどよ」
そう言って小人型瞬輝丸は、刀の瞬輝丸を指差した。
………つまり、あの小人はコミュニケーションツールって事か?…………よく見ると、若干透けてるしな………映像……と言うより、幻影か?
「いやぁ~やっと、お前としゃべれるぜ。こっちは早くお前を新しい主にしてえってのに、小次郎の野郎がまだはえって止めるからよ。話すに話せなくてよぉ」
「………えっと………」
せきを切ったかの様に喋り出す瞬輝丸に、思いっきり戸惑う飛矢折さん。
……しかし、口が悪いな瞬輝丸………
「わりわり、説明するって言ってんのに、ちっとも説明してねぇよな……まあ、つまりだ。飛矢折家は、代々あたいを使って退魔士をしていたわけなんだが、小次郎以降、俺の主になれる様な奴が現れなくてよ」
現れていない?……と言う事は、瞬輝丸を使うには何らかの条件が必要な訳か………ありがちだな………
「お祖父ちゃん・お母さんも駄目だったって事?どうして?」
「んなの決まってんだろ?弱いからだよ」
「弱いって………お祖父ちゃんも、お母さんも結構強いと思うけど?………と言うか、うちの家に弱いと言える人はいない気が………」
飛矢折さんが弱くないって思う家族?………飛矢折さんと付き合う事になる男は大変だろうな………場合によっては、死の覚悟が必要かも………
「そりゃ確かに、普通の人間から比べりゃ強いさ……だけどよ。閃も、陽子も、小次郎ほどじゃねぇだろ?第一、誰一人お前に勝てねぇだろうが、小次郎以外によ」
「それはそうだけど………」
それはそうだけどって………飛矢折さんもそうだけど、飛矢折さん曾祖父って、どんだけ強いんだ?っていうか、そもそも何才なんだろうか?曾孫がいるくらいだから……ん~あの飛矢折さんにガチで勝てる曾じいさんか……会って見たい様な、見たくない様な……
「っで、退魔士としての飛矢折家は小次郎の代で終わりかと思ってた時に、巴。お前が生まれたわけさ」
「えっと………曾お祖父ちゃんは………あたしを退魔士に?」
「そうだぜ。だから、曾孫達の中でお前だけに、魔物の事を少しずつ教えてたのさ。っで、時が来たらお前に全てを話して、あたいが渡されるはずだったんだけどさ………ほら、お前、この町の特殊な魔物にやられたんだろ?」
特殊な魔物?……武霊の事か?……つまり、五月雨都雅の事件の事を言っているわけだ………
チラッと飛矢折さんを見ると、何故か飛矢折さんもこっちを見ていた為、目を合わせる形になってしまい………固まってしまった。
「ん?なんだ巴。お前、こいつに惚れてんのか?」
「な!」
「へ?」
瞬輝丸の唐突な問いに、思わず間抜けな声を二人で上げてしまうと、
「へぇ~そうなんだ」
「まあ、怪しかったですわよね」
「よろしんじゃないんですか?」
などと、周りが口々に言い出したので、飛矢折さんの顔が思いっきり赤くなり、大慌てで、
「違います!絶対に違いますから!」
全力否定………………まあ、そうだよな………誰も好き好んで俺みたいな奴に惚れただの、惚れられただの言われたくない…………か………………
「もう。そんな全力否定………ますます怪しいじゃない♪」
あくまで面白そうに飛矢折さんをからかう春子さん。
……………まあ、下手な期待……どちらかと言うと、希望か……は抱かない方がいいよな………
「待ちな!よってたかって巴をからかうんじゃないよ」
困り切った飛矢折さんを見かねてか、瞬輝丸が制止の声を上げ、助かったと言った感じで安堵の表情になる飛矢折さん。
「巴をからかっていいのはあたいだけだよ」
見るからにがっくりくる飛矢折さん。
「っで、どうなんだい?」
「話し先に進めてくれない?」
若干キレ気味に言う飛矢折さんに、瞬輝丸は手を振り、
「まあまあ、そう怒るなって、お前がこいつに惚れているか惚れていないかも、あたいを継承するのに結構重要な事なんだからよ」
?………どう言う意味だ?………ん~?……退魔刀って言っても、要は魔法の刀……だとすると、その動源力は魔力だよな………待てよ?だとすると………いや、流石にそれを飛躍し過ぎで、都合が良過ぎるだろ………
俺が良からぬ想像をしてしまっている間も話は続いており、
「まあ、とにかくだ………お前がこの町の……武霊だったか?……に襲われ、弱った姿を見て………小次郎は場合によっては、あたいの継承を早める事にしたのさ」
「場合によっては?」
飛矢折さんの疑問の声に、瞬輝丸は頷き、
「おうさ。一つ、やもえない場合による退魔士の存在の露見。二つ、パートナーとなり得る人物が巴の側にいる事。三つ、再び武霊による危機に陥っている。の三つの条件が揃えば、お前にあたいを継承させるって事になってよ。だから、あたいは射眼家の次期当主・乙女に預けられ、星波町に近付けない乙女の代理として可憐があたいを預かってるってわけさ。もちろん、あたいを受け継ぐか、受け継がないかは、巴。お前が決めていい」
「決めていいって………もし、仮にあたしが受け継がないって言った場合………瞬輝丸はどうなるの?」
その飛矢折さんの問いに、瞬輝丸はちょっと苦笑して、
「ん~それは気にしなくていいさ」
「気にしなくていいって………」
判断に困る飛矢折さんは、俺に顔を向けてくる。
何でもかんでも考えて、思い付いているってわけじゃないんだけどな………まあ、でも………ん~考えられるのは……
「………瞬輝丸がどんな力を持っているかは……まあ、名前からある程度想像が付きますが……どんな力であろうと、退魔十本刀と呼ばれるぐらい強力な力を持って、自らの意志を持っているんです………だとすると、考えようによっては、瞬輝丸も魔物って事になります」
俺の魔物発言に、瞬輝丸は、言ってくれるじゃないって感じで笑みを浮かべた。
………若干気になる笑みだが………まあ、無視の方向で………
「………なら、間違った使い方や、瞬輝丸が本当の意味で魔物になる事を防ぐ為に、封印処理か………場合によっては……より安全を考えるなら………」
チラッと瞬輝丸を見ると、特に気にしている様子はなかった。
………やっぱり承知の上か………なら、躊躇う理由はないな………
「………瞬輝丸は破壊されるんじゃないでしょうか?」