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第四章『それぞれの裏、さまざまな真実』22

  ★夜衣斗★

 正直………中学の頃に受けたいじめは、三年たった今でも………現在進行形で俺を苦しめている。

 周りに誰もいない時や、ふとした瞬間、フラッシュバックの様に受けていたいじめを思い出し、恐怖と共に、身を焦がす様な怒りに襲われてしまう。

 それだけならまだいいが……いや、よくはないが……今は武霊と言う力を手に入れてしまっている。

 それが新たな恐怖を………自分が武霊の力を使って、しては絶対にいけない間違いをしてしまうんじゃないか………そんな恐怖が……………現実として体感してしまっていた。

 だから、出来れば、どんな事態であろうと、あの時の事は………思い出したくない。

 ………だが、一度可能性を見出してしまえば、考えないわけにも、問わないわけにもいかない………それに、これは俺の今後の行動に関わる大事な事だ。

 避けて通るわけにはいかない。

 そう思い、胸に強い痛みを感じながら、深呼吸して、無理矢理問いを口にした。

 そして、その俺の問いに、場が静まり返る。

 ………もしかして……実は全く関係なかったとか?………それはそれで新たなトラウマになりそうだな………

 周囲の反応に思わずそう思って、恥ずかしくなる直前に、

 「そうよ夜衣斗ちゃん。あなたが中学の頃に受けたいじめは………全て黒樹家現当主四姫(しき)の指示の下に、六大分家の次期当主達が密かに行った事よ」

 そう言った。

 …………やっぱりそうか…………

 俺は深いため息を吐き、思わず後ろにいるオウキに寄り掛ろうとして………止めた。

 武霊に関わるあらゆる情報が外に出ないんなら、今、俺がオウキに寄り掛れば、武霊に身体を支えられる形になり、俺の姿は、多分、夜衣花から見えなくなる。

 今の状況で流石にそれはまずいので、何とか自分の足で踏ん張ろうとするが………やっぱり少しふらついた為、再び飛矢折さんに支えられてしまう。

 一瞬まずいと思ったが、今度の夜衣花は、飛矢折さんに殺気を放つ事はなかった………何か迷っている様に見えるが………まだ話していない事が……あのいじめに関して、何か言い辛い事があるって事か?

 ………それにしても………急に来たな………まあ、今までの話は、衝撃的な話だが………どうしてもどこか実感が無いと言うか………他人事感があった。自分が知っていた常識や、過ごしていた日常と、あまりにもかけ離れているからかもしれないが………まあ、それでも後々、色々と思い悩んだり、苦しんだりするか?……するだろうな………だが、いじめの話は現在進行形で俺を苦しめている問題だ………その問題が、母親の実家によって起こされた………しかも、俺を『間接的に殺す為』にだ。

 だから、今までの話の中でもっとも実感が持てて、衝撃的だったんだと思う。

 …………にしても、あの連中の中に黒樹家六大分家の次期当主達が……親戚が知らぬ間に居たとはね………って事は、次期当主の連中は俺と同い歳か、近い歳なわけだ………ん~………

 俺をいじめていた連中は、男と女の二つのグループだった。

 女のグループは、同じクラスの女子の半数で、授業中や教室の中にいる時に、間接的な暴力。

 男のグループは、違うクラスの男子が殆どで、授業外や教室の外にいる時に、直接的な暴力。

 二系統の暴力で、俺は徐々に徐々に追い詰められていった。

 そして、引き籠り、死のうと思って、自殺を考え、自分の手首に包丁を押し付けたりもした。

 ………まあ、そこでその包丁を引けなかったのは、ある意味情けない話だが………痛みへの恐怖、死への恐怖、家族が悲しむ事への恐怖、様々な恐怖が、俺の自殺を押し止め………後に生じたのは、激しい憎悪………どういじめた連中を殺すか、ずっと考え………その自分に恐怖し………嫌悪した。

 根本的にヘタレだからこそ、自殺が出来なかったし、復讐も出来なくて………

 でも、今はそれでよかったと考えている。

 例え、その時の負の記憶と負の感情に今でも苛まれているとしてもだ。

 もっとも、後から考えて見れば、リストカットで死ぬのはかなり難しいらしいし……あの時考えていた復讐方法は、どれも実現不可能なものばかりだったし、殺した後の……殺した相手の家族の事とかも考えていた………要は、心底死ぬ気ではなく、復讐もする気はなかったのかもしれない………いや、本気だったと言えば本気だったが………実行していなければ本気じゃなかったって事になるのか?

 ん~こうやって改めて考えて見ると、あの時の俺は………まあ、本質的には今も変わらないが………いじめられ易い奴だったと思うし、それを自覚して、必要以上に怯えていた記憶がある。

 いじめの問題が解決した後、それがいけなかったと反省して、今は必要以上に怯えない様に、負の感情を表に出さない様に気を付けているが………なんであれ、どう足掻いても俺はいじめられる運命にあったと言うわけだ。

 ………何と言うか………どんだけ俺を殺したいんだろうか?

 後から聞いた話によると、俺をいじめていたメンバーの中の何人かが、俺のいじめが始まる直前に、ほぼ同時に転校してきて、いじめが解決した後に、ほぼ同時に転校してったと言う話だった。

 さっきまでは、特に疑問を抱く……いや、抱く余裕がなかったが……改めて思い出してみれば、思いっきり不自然な話で……これではまるで『わざわざ俺をいじめる為に転校してきた』様に見える。まあ、だからこそ、俺が黒樹家にとって禁忌の存在である事を知った後に、これに黒樹家が一枚噛んでるんじゃないか?と疑惑の念が生まれたわけだが………ん~話からすると、その転校してきて、転校してった奴らが、黒樹家の六大分家の次期当主達だったわけだ………で、多分だが、俺が完全に追い詰められる前に、両親か、夜衣花が黒樹家現当主の企みを知り、止めてくれたんだろうな…………そう言えば、この話題になってから、夜衣花の様子が更におかしくなってるんだよな………固まったり、青ざめたり、挙動が不審だったり…………ふむ………だとすると、この件に夜衣花が深く関わっていて………もしかして………

 そんな事を考えていると、

 いつの間にか出していた黒き大樹を消し、優癒さんの隣に移動していた春子さんが、深いため息を吐いた。

 ………もしかして、今の思考………読まれてた?………まあ、魔力のおかげで完全には読まれていないだろうが………

 「夜衣花ちゃん。夜衣斗ちゃんは、あの時の事をある程度予想しちゃったみたいよ。しかも、かなり近い感じで………」

 そう春子さんに言われ、夜衣花は青ざめた顔を俺に向ける。

 ………何をやらかしたんだ?………と言うか、勝手に人の思考を読むなよな………

 顔を優癒さんに向けると、一瞬ビックっとして頭をペコペコ下げた。

 ………まあ、どうせ春子さんにやれと言われたんだろうが………人の部屋も勝手に漁ってたみたいだし………どうも春子さんはプライバシーと言う言葉を知らんらしいな………叔母さんと言うのは、こういうものなのだろうか?………何にせよ、備え付けの鍵以外にも部屋に鍵を付ける必要があるな………

 などと考えていると、夜衣花が震え出し、

 「ごめんなさい夜衣斗お兄ちゃん………ごめんなさい」

 ………また謝る………

 俺はため息一つ吐き、

 「………別に謝らなくてもいい」

 「でも………私のせいで………」

 「………何をしたかは知らないが……それは全部、俺の為にしてくれた事なんだろ?俺が感謝する事はあっても、夜衣花に謝られる理由はないよ」

 俺がそう言うと、夜衣花は首を横に何度も振り、

 「でも……だって、だって、私が………私が『あんな事』をしなけば………夜衣斗お兄ちゃんはそんな訳の分からない町に行かなくてよかったの!」

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