第四章『それぞれの裏、さまざまな真実』20
★夜衣斗★
………微妙に春子さんは俺を勘違いしているな………こんな状況じゃなきゃ、自分の事を他人になんか聞き出そうとなんかしないって………まあ、何にせよ………種無しね………
微妙に嫌な感じの言葉に、俺は密かに眉を顰めつつ、春子さんの話を黙って聞く。
「大昔、種無しと呼ばれる子は吉兆として大事に扱われていたそうよ……だって、次に産まれる子が、必ず強力な退魔士になるんだからね………でも、ある時、当時敵対していた古来魔法使い達がその種無しの子に目を付けたの………種無しの子は、種が開けた大きな魔力孔を持っている。だから、退魔士の血筋でありながら、『最も魔法使いに適している』の………そして、退魔士の家に生まれながら、退魔士として生きられない事をほんの少しだけ妬んでいたその子の心を誘導して、その魔法使い達はその子を黒樹家にあだなす最悪の魔法使いにしてしまい………黒樹家は多大な被害を受けたそうよ」
………なるほど、だから統合生徒会長が、魔法使いに接触したかどうかに過剰に反応したわけだ………俺が退魔士の敵として魔法使いにさせられているんじゃないかって………
「……だから、黒樹家はその後、種無しが産まれると直ぐに殺す掟を作ってしまったの」
………まあ、そうなるか………なんであれ、どんな理由があろうと………俺は母の実家を、黒樹家を好きになれそうにないな………
「………だから、夏子お姉ちゃんと夜さんは、産まれてくる子供を守る為に、あなたを守る為に……駆け落ちしたのよ」
?………はぁ!?駆け落ち!?え?………さ、流石にそれは予想外だったな………
「二人は、それぞれ立場があったからね。夏子お姉ちゃんは黒樹家の次期当主。夜さんも操形家の次期当主。本来なら次期当主同士が結婚するなんてありえないし、認められない。だから、それも含めて駆け落ちって手段に出たんだけど………」
………まあ、現状から考えて、
「………直ぐに捕まったんですね」
「そう。そして二人はその事が切っ掛けで、次期当主の資格をはく奪されて、一応は二人の結婚は認められた。でも、そのせいで二人は……特に夏子お姉ちゃんは黒樹家での力を失って………だから、二人は、既に産まれていた夜衣斗ちゃんを殺させない為に、黒樹家現当主と取引をするしかなかったの……二人にとって不利で、とても酷い条件の取引を」
酷い取引………何と言うか………心臓が痛い………こんな俺の為に、両親が、夜衣花が、辛い目に遭っていたのに、俺はのうのうと日々を過ごし………普通以下に育ってしまった。これじゃ何一つ三人に返せない………だったら、せめて俺は全てを知り、それを受け止めなくちゃいけない………それが最低でも俺がすべき事………そんな気がした。
「………それで、その条件とは?」
「提示された条件は四つ。一つは、産まれた子に魔力孔封印処理を施し、黒樹家とは無縁の場所で普通の人として育てる事。まあ、そうは言っても、夜衣斗ちゃん封印……開いた魔力孔を黒き大樹の枝で塞ぐ方法だったけど……それはとれちゃったみたいね………武霊の影響かしら?最初に会った時から、既に少し魔力を感じていたし………しかも、今じゃ全部取れちゃってるみたいね………さっきの戦い、私達は全部見れたわけじゃないから、何かあったの?」
………何かって………死にかけ……いや、そんな事は流石にこの場所じゃ言えないよな。
ちらっと夜衣花を見ると、泣き止んではいる様だが………
それにしても………ん~……なるほど………あの時魔力孔にはそれらしき物はなかったから、既に魔力孔の封印が壊れていたわけだ………確かに武霊の影響でその封印が解け始めていた可能性はなくもないだろうが………まあ、そうじゃなきゃ通常の武霊使い以上に武霊を具現化出来る『退魔士側の考え』が肯定されないよな………だが、他の、俺しか知らない要因らしきものはいくつかある。だとすると、それは一因って事か?………まあ、何にせよ。
「………つまり、それが退魔士側が考える、俺が通常の武霊使いではない理由なんですね」
「そうよ。ね?沙羅ちゃんだと話せないでしょ?」
まあ……確かに統合生徒会長が勝手に話して良いない様じゃないな。立場的にも、常識的にも。
「っで、二つが、夏子お姉ちゃんと夜さんの黒樹家本家接近禁止。三つは、黒樹家に回されるA級以上の退魔を二人が優先的に担当する事。そして、最後の四つが、次に産まれてくる子供が女子であった場合、その子供を黒樹家本家に差し出す事。……黒樹家は代々女性が当主になる決まりなの………だから、夜衣花ちゃんは黒樹家本家に引き取られ、夏子お姉ちゃんと夜さんは、夜衣斗ちゃんに出張って偽って、過酷な退魔の仕事に行って、家をしょっちゅう開けていたの」
……………何とも複雑な心境だ。幼い頃は両親が家にいない事に寂しさを感じ、多少は両親の事を恨んだりした。まあ、今でも家族としての信頼はあるが、大好きか?っと聞かれたら首を傾げる。そんなんじゃ………他人じゃないが、普通の家族より俺は親を思っているだろうか?………今度会った時、俺は両親になんて言えば………そして、夜衣花に今、なんて言えばいいんだろうか?………………分かるはずもないか………だったら、分からない事は全て後回しにして、今は知るべき事を知ろう。
「………じゃあ、今回の出張も?」
そう問うと、春子さんは若干引きつった笑みを浮かべ、
「ええ、そうよ」
と言った。
………やっぱりか………
春子さんの反応に、俺は深いため息を吐き、
「………春子さん。俺が殺されそうになったって言ったのは、何も黒樹家の掟の内容を予想してだけじゃないんですよ」
その俺の言葉に、春子さんはキョトンとした顔になる。
「違うの?」
「………さっき言いましたよね。魔法使いの組織がある程度武霊の研究を終わらせていると」
「………言ったけど、それは………」
「………さっき言った事も根拠の一つですけど、あれ以外にもそう考える根拠はあります」
「夜衣斗ちゃん。話が見えないんだけど?」
「………不自然な時期での俺の引っ越し。両親の海外への長期出張と言う理由でですが………まあ、他にも理由は色々と説明されていましたから、今まで不思議には思いませんでしたが………考えて見れば、今までだって出張でよく家を開けていたんです。だから、俺が一人でもある程度やっていける事を両親も知っているはず。なのに、今まで会わせた事も、教えた事もない親類に俺を預けた」
「………それは」
何か言おうとする春子さんの言葉を遮り、
「………だとしたら、こう考えられます。俺が狙われる様な事が、『退魔士側の事情』で起き、あのままでは守りきれない事態が……例えば……………お家騒動?」
その予想に、周囲がざわめいた。
「っど、どうしてそう思うわけ?魔法使いに狙われているのかもしれないじゃない」
あきらかに動揺している春子さんに、俺はため息を吐き、
「………確かに魔法使いに狙われる可能性はなくもないでしょうが………多分ですが、今の魔法使いは源である魔力より、技術を重視する傾向にあるんじゃないんでしょうか?魔術媒体に電子技術を取り入れ、魔法兵器を次世代兵器にしようと躍起になっている事から、その傾向は読み取れます………そもそも、兵器は、誰でも使えないと意味がありませんからね。魔力を持った人間しか使えない兵器は、軍としても、国としても良く思わないでしょう………なら、わざわざ退魔士を敵に回してまで、俺を狙おうとする理由が魔法使い側にはない事になります………だとすると、俺が狙われる理由は、退魔士関連しか考えられません。そもそも俺は、何の取り柄もない、家も資産家じゃない、普通以下の人間です………まあ、普通の社会から見たらですが………なのに、狙われているとなると、あきらかに退魔士側の事情。なら、関わるのは黒樹家の可能性が一番高い。そして、黒樹家が日本五大退魔士家系と呼ばれる大きな家であるなら………まあ、単純にお家騒動でも起きたんじゃないか?と連想したわけです。まあ、そこだけ適当に言ったんですが………この反応からすると、間違いなさそうですね………」
「………夜衣斗ちゃん………確かに、今、黒樹家ではお家騒動が起きているわ………理由は………」
チラッと夜衣花を見る。
………まあ、夜衣花が次期当主なら、夜衣花はお家騒動の中心人物だと言えるが………なんか微妙に……心配している様な、困った様な感じがあるな………何かがあるのか?
「とにかく。今、夏子お姉ちゃんと夜さんは、そのお家騒動の火消しで色々な所に飛び回っているの」
「………色々な所?」
「ほら、黒樹家の退魔士能力は継承率がほぼ百パーセントって言ったでしょ?だから、他の退魔士家系以上に分家が沢山あって、世界中に分家があるのよ。っで、その家一つ一つに行って、こっちの味方に付く様にお願いに行ってるんだけど………相手は六大分家だから、味方に付いてくれる分家は……」
最後の方はつぶやく様に言った為、聞えなかったが………まあ、多分、良くない状況なのだろう………俺が心配してもしょうがないが………
「………夜衣花は何をしているんです?」
「え?……あ~夜衣花ちゃんはね」
チラッとまた夜衣花を見る春子さん。
「ちょっと別件の退魔でインドに行ってるの」
インド!?…………俺は国外に出た事も、一生出る事もないと思っているのに………妹は随分グローバルワイドだな………何をしているのかは知らないが………
「………あまり無理をするなよ」
そう俺が夜衣花に言うと、
「うん………」
少し微笑んで頷いてくれた。
………さてと………
俺は春子さんに顔を向け、
「………っで、お家騒動で、俺が六大分家でしたっけ?のカードとして使われる事を恐れた両親は、何が起きているか不明だが、味方が多く、退魔士が接近する事を禁じられている星波町に引っ越させた………俺の引っ越しの真相はそんな所でしょう」
「確かに夜衣斗ちゃんがこの町に……私の所に預けられたのはそう言う事だけど………何が言いたいの?夜衣斗ちゃん?」
何がって………俺はため息を吐き、
「………さっきから言ってる通り、魔法使いの組織が武霊の研究をある程度終わらせていると、俺が考える根拠の事ですよ」
そう言うと春子さんは眉を顰め、少しして目を見開いて驚きの表情になった。
「まさか!あの時の!夜衣斗ちゃんが町に初めて来た時起きたはぐれは、魔法使い達が起こしたって事!?」