第四章『それぞれの裏、さまざまな真実』19
★飛矢折★
殺されそうになった?
黒樹君のその問いに、周りがざわつき、驚く顔になる春子さん。
夜衣花ちゃんに至っては、顔面蒼白になって、茫然と黒樹君を見ている。
そもそも、な!なんで今のやりとりでそんな言葉が出てくるわけ!?
「………さっき春子さんは黒樹家の掟が悪いと言いましたね?」
周囲の反応を確認した黒樹君は、春子さんにそう問い掛ける。
「ええ……言ったわ」
「………掟と言う言葉が、悪いと言う言葉と共に使われたんです……普通に考えればその掟は、誰かの不利益になる物なのでしょう。だったら、使われたタイミング的に、その対象は俺や夜衣花……そして、両親が対象になる可能性が高い………そう考えると、両親がよく出張で家を開けていた事……まあ、これは出張と称して夜衣花に会いに行っていた可能性も無くはないが……そうじゃないだろ?」
黒樹君の問い掛けに、夜衣花ちゃんは頷いた。
「………だとすると、両親は退魔の仕事を、しかもかなり頻繁だった事から考えると、かなりきつい退魔をしょっちゅう押し付けられていた……出張明けの二人はいつも異様に疲れていましたから、辛い仕事なのは間違いないでしょう………後は、夜衣花が一緒に住んでいない事や、他人の子だと偽ってまで俺に会いに来ていた事、俺が退魔士とは無縁な場所で育てられている事などを合わせて、掟と黒き大樹のほぼ百パーセントの継承率の事を考えれば………俺その者が黒樹家にとって『禁忌な存在』だと連想できる」
………えっと………どう連想したらそうなるんだろう?………それに禁忌の存在?
「………なんでもそうでしょうが、例外と言うのは、吉兆か凶兆のどちらかに受け取られるのがほとんどでしょう………そして、俺達にとって不利益な掟が存在するなら、俺と言う例外は、間違いなく凶兆として受け取られ………退魔士の様な古くから闇に存在する様な者達なら……日々命のやり取りをしている様な人達なら……………そう言う例外を排除する事をいとわないんじゃないか?………そう考えると、さっき言った事の全ては………『俺を守る為に、両親が黒樹家と取引した結果』と考えられます」
黒樹君はそこまで言って春子さんに向けていた顔を、夜衣花ちゃんに向ける。
「………だから、俺のせいで、夜衣花は父さん母さんから引き離され………俺から離れた種を受け継いだせいで、黒樹家に退魔士として強要されているんじゃないか?」
黒樹君の夜衣花ちゃんへの問いを………夜衣花ちゃんは否定しかけ……否定しなかった。
「夜衣花ちゃんはね」
黙ってしまった夜衣花ちゃんの代わりに、春子さんが黒樹君の問いに答え始め、一瞬、夜衣花ちゃんがそれを止めようと仕掛けるけど……止めなかった。
「確かに夜衣斗ちゃんが言う様に、黒樹家に退魔士である事を強要されているわ。しかも、黒樹家次期当主としてね」
次期当主?夜衣花ちゃんが?………まだどう見ても中学生ぐらいの子なのに………退魔士ってだけでも苦労しそうなのに、そんな役目まで負わされて………
「………やっぱり俺のせいで?」
その黒樹君の問いに、春子さんは少し困った顔をして………
「そうよ」
「春子お姉ちゃん!」
頷いた春子さんに、夜衣花ちゃんが怒るけど、春子さんは首を横に振り、
「夜衣花ちゃん。夜衣斗ちゃんは真実が聞きたいの………それに、この場で嘘を吐いても意味はもうないわ。この話は私達の間では有名な話だし、退魔士に関わった夜衣斗ちゃんなら、直ぐに辿り着いちゃうわ……だったら、他人から聞かされるより、私達が話すべきよ」
春子さんのその言葉に、夜衣花ちゃんは顔を伏せて沈黙。
そして、春子さんは衝撃的な黒樹君の過去を話し始めた。
「夜衣斗ちゃん。あなたの言う様にあなたは黒樹家にとって………『種無し』と呼ばれる禁忌の存在よ」