第四章『それぞれの裏、さまざまな真実』18
★夜衣斗★
………また主人公って言葉が出てきたな………しかも、夜衣花も主人公?………ん~?
何となく意味は分からなくもなくはないが、それがあっているか自信も確証もないので、春子さんに視線を向ける。
俺の視線に気付いたのか、春子さんは苦笑して、
「主人公って言葉にはね。魔法使いの間では、普通に使われている以外の別の意味があるそうなの」
そう言って、春子さんはまだ出している黒樹刀を使って地面に絵を描き始めた。
それは樹の絵で、地面に現在。地中に過去。空に未来と書いた。
………これって………世界樹?
「これは魔法使い達の間で認知されている可能性を含めた世界の形……世界樹って呼ばれているそうよ。っで、魔法使い達は、この世界樹を生き物の様に考えているの」
生き物ね………確かに、こう図にすれば、樹として見えるが………と言うか、魔法使いね………ふむ………
「夜衣斗ちゃん。世界樹はどうなった時に成長すると思う?」
どうって………
「………歴史が進んだ時?」
「そうね。じゃあ、どうやって枝分かれすると思う?」
「………そりゃ、大きな分岐点・変換点がある時?」
「大きな分岐点・変換点って?」
……何なんだ?
「………歴史的な大事件や………世界の危機とか?」
………世界の危機ね………自分で言ってて陳腐に聞えるな………ん?待てよ?陳腐に聞えるのは、魔法とかそういう空想の産物が『現実に存在しない』と言う常識があったからで………だけど、今、その空想の産物が実際に存在するって、知ってしまっている………つまり、
「………もしかして、魔法使い達が使う主人公と言う言葉には、『魔法が関わる世界の危機に相対する運命にある人物。もしくは中核になる運命を持った人物』と言う意味がある………とか?」
「ピンポ~ン。せいか~い。まあ、とは言っても、股聞きの股聞きだから、ちょっと違う所があるかもしれないけどね」
………ん~?………もし、最後の敵が、同様の意味で主人公と言う言葉を使ったのなら、大原亮も……偽者らしいが、俺や最後の敵も、世界の危機に関わっているって事になるな………って事は、この町で起こっている事は………『世界の危機に繋がる事』だと?………いや、そうか、考えて見れば、魔法使いの組織が武霊を次世代兵器にしようとしている可能性が非常に高いんだから………もし、武霊が世界中に広まれば………
自分の想像に、ぞわっと背筋が寒くなった。
………っちょ、ちょっと待てよ………今までもかなり大事だとは思っていたが………どう考えても、普通以下の俺にどうこう出来る事か?今までだって、自分の命を守る事でギリギリだったって言うのに………世界の危機だって?………………とりあえず………とりあえず………それについては考えない様にしよう………第一、今、この場で一番重要な事は………
夜衣花を見ると、まだ泣いて、
「力を持たなくちゃいけない主人公は、『力を得る・集まる宿命』を背負ってて………だから、夜衣斗お兄ちゃんが黒き大樹を受け継げなかったのは………私のせいなの」
………確かにそう言う意味の主人公であるなら……夜衣花が相対する世界の危機がどんなものかは知らないが……それに対応したものを夜衣花が持っていないと、主人公として成り立たなくなるな………ん~どうしたもんだろうか?俺の持っている知識のほとんどは、確かな根拠があるわけじゃない。今までフィクションだと思っていたものばかりだし、作ってる側だってフィクションだと思って作っているだろうし………だから、夜衣花が言っている事を否定出来る材料は、俺の中にはないな………ただたんに否定しただけで、どうこうなるもんじゃないだろうし………
困った俺は春子さんに再び視線を向けると、春子さんは困った顔をして
「夜衣花ちゃんはね。この間戦った魔法使いから、この主人公の話を聞いたらしくてね。しかも、知り合いの魔法使いにもその可能性があるって言われちゃったらしくて………」
……なんだその馬鹿正直な魔法使いは!
「私はそんな事はないって言ってるんだけどね。だって、夜衣斗ちゃんが黒き大樹を受け継げなかったのは、夜衣斗ちゃんが黒き大樹と『相性が良過ぎるせい』だもの」
………相性が良過ぎるせい?
「………なんで相性が良過ぎると、黒き大樹を受け継げないんですか?普通、逆でしょ?」
「ん~そうね。普通の退魔士能力なら、確かに逆なんだけど、でも、黒き大樹の場合、あまり相性が良過ぎると………」
ストレートに言葉にすると意味が伝わらなくなると思ったのか、春子さんは少し考えて、
「退魔士能力が魔法だって言うのはさっき言ったよね?っで、魔法の維持の為には、魔力が必要なんだけど、その魔力をどうやって手に入れると思う?」
その問いに、俺は返答に困った。
何故なら、既に世界樹の外に繋がる魂の中にある穴・魔力孔の存在を知って、実際に見ているからだ。
春子さん達が味方なのはもう疑うつもりはないが、下手に知った知識を披露すると、今度はこっちが疑われかねない。統合生徒会長に、退魔士の事を知っていただけで、あれほど過剰に反応されたんだ………だとすると、色々と分かっていない今の段階で……素直に答えるべき……言うべきじゃないな……そして、魔力孔の知識以外も……サヤ達の存在とか、心の中で知り得た他の情報とか………
俺が悩んで黙っていると、春子さん少し面白そうにニヤリと笑って、
「これは私達以外の普通の人達にも言える事なんだけど……全ての魂の中にね、世界の外に繋がっている魔力孔って穴があるの。普通は、自分の存在を維持する程度の魔力……この場合は根源意志力だったかな?この世の存在は、その根源意志力で存在を維持……魂とか意志力とかを作り上げて、余ったのが魔力になるんだって。だから、普通の人は魔力を持てない……らしいわ」
らしいわって………まあ、退魔士はそう言う系統の専門家じゃないだろうから、他から……多分、知り合いの魔法使いに聞いたのか?………まあ、何にせよ………なんか、一度聞いた話を……まあ、若干端折った感はあるが……もう一度聞くのは……なんかな……
「っで、魔法を取り込んでいる人は、その魔法の影響で魔力孔が開く?と言うより、その魔法によって開かされるらしいの」
……なるほど、開かされるなら、魔力孔の大きさは、あくまでその魔法を維持する為の大きさしか開かないだろうな……だからこそ、退魔士達の武霊は通常の武霊と同じわけだ………俺や武霊使い強化薬を使った連中と違って………
「だから、黒き大樹も同様に、種が胎児に着床すると自分が成長・維持するだけの魔力孔を広げるんだけど………黒き大樹と相性が良過ぎると、魔力孔が開き過ぎちゃって……そこから吹き出した黒き大樹の許容以上魔力で、芽吹いたばかりの種が母親の方へ流されちゃうわけ」
……魔力孔が開き過ぎる?……なるほど……俺の魔力孔は常人以上に開いている。そう魔力孔の前で謎の老人は言っていた。つまり、それは黒き大樹を受け継げなかったのが原因なわけだ………と言う事は、統合生徒会長が隠していた俺が通常の武霊使いじゃない理由はこれっぽいな………と言うか、実際は、多分一因だろうな………あきらかに、それだけじゃなさそうだし………憶えの無い公園とか、謎の老人とか、サヤとか、そもそも、これだけじゃ説明出来ない事が多過ぎる……………やっぱり、退魔士達だけでは全ての答えが分かるわけじゃなさそうだ………魔法使い。それも、武霊に関わっている魔法使いにも話を聞く必要があるんだろうか?………まあ、俺に掛けられているって言う記憶の封印が完全に解ければそんな必要はないんだろうが………
「そして、母親へと流された種は、普通の人なら魔力不足で……成人した人の魂に魔力孔を開けるのは難しいみたい……退魔士だったら、所有している退魔士能力に阻害されて、着床も、それ以上の成長もしないで休眠状態になり………その人に次の子供が産まれたら、その子にその種は受け継がれるの。だから、その次の子は本来受け継ぐ種と合わせて二つの種を持つ事になって………」
少し、気遣う様に夜衣花に視線を向け、続きを言う事を躊躇う春子さん。
………普通に考えれば、二つの種を持っているって事は、夜衣花は通常の黒き大樹使いの二乗の力を持っているって考えられる………そして、退魔士と言う仕事が、魔物と呼ばれる存在と戦う事なら、夜衣花は黒樹家にとって『重要な戦力』って事になる………まあ、周りの反応からすると、それだけってわけではなさそうだが………だとすると、両親が出張でよく家を開けている事・夜衣花が一緒に住んでいない事・他人の子だと偽ってまで俺に会いに来ていた事・俺が退魔士とは無縁な場所で育てられている事………掟………そして、接近が禁止されている場所へ俺を引っ越させた………その直後の前例のないはぐれの発生………ん~やっぱり、この結論しか浮ばないな………何にせよ。
「………どうやら本当に俺のせいで夜衣花にずっと大変な思いをさせていたみたいだな………」
そう俺が言うと、夜衣花は驚いた様な顔をして、
「……どうして……どうしてそんな事を言うの?夜衣斗お兄ちゃんは、私のせいで………私のせいで………」
続きを言うに言えない………そんな感じの夜衣花。
………あまり自分から言うべき言葉じゃないだろうが、ここは俺が言うべきだろうな………
そう思った俺は、夜衣花の言葉の続きを口にする事にした。
「………殺されそうになった?」