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第四章『それぞれの裏、さまざまな真実』17

  ★飛矢折★

 黒樹君のとんでもない仮定に、唐突に夜衣花ちゃんがぽろぽろと泣き出した。

 いきなりの涙に、黒樹君は見るからに動揺し、助けを求める様に顔を周囲に向けるけど、向けられたほとんどの人も黒樹君と同じ様に動揺していて、どうする事も出来ない。

 「違うの。違うの………夜衣斗お兄ちゃんは………私の……」

 涙で言葉にならない夜衣花ちゃんに、春子さんは微笑みかけ、黒樹君にはちょっと怒った表情を向けた。

 「もう!どうしてそんな仮説を立てるかな!?夜衣斗ちゃんわ」

 そう怒る春子さんに、黒樹君は戸惑った様子を見せ、

 「………どうしてって……前から少し……ありえないとは思いつつも……少し思ってた事なんです。夜衣花の両親は、うちの両親の知り合いと言う割には一度も家に来た事がありませんし、会った事がありませんし、写真で見た事もありません。普通なら両親なり、夜衣花なりが自然に見せるぐらいはするんじゃないか?……そう少し疑問に思うと、いくつか不自然な所が……今まで気にもしなかった事が気になってきて………例えば、夜衣花の名字を知らないとか………夜衣花がうちの両親に似ているとか………」

 夜衣花ちゃんが黒樹君のご両親に似ている?………言われてみれば………夜衣花ちゃんと春子さんはどこか似ている所がある様な気がする………夜衣花ちゃんの方は、目付きが若干鋭いみたいだけど………

 そんな事を思いながら、春子さんを見ると、春子さんは黒樹君を呆れた顔で見ていた。

 「夜衣斗ちゃん………あんまり自分の顔を見た事ないでしょ?」

 「………まあ、ここ数年はまともに見た事がない……かな?」

 確かに黒樹君って、いつも前髪で目を隠してるし………そう言えば、あたしも黒樹君の顔を見た事ないな………

 春子さんはため息をついて……あ!なんか黒樹君のため息した感じと似てる……黒樹君に近付いて、黒樹君の前髪を、樹を出していない方の片手……いつになったらしまうんだろう?……で上げた。

 現れたのは………夜衣花ちゃんとそっくりの鋭い目付きで………結構……いい顔………

 「ほら、やっぱり夜さんにそっくりじゃない。あなた達二人は、ホント……目元が向こうの家系寄りよね」

 そう言って、春子さんは微笑んで、黒樹君から手を離した。

 「……………つまり、夜衣花と俺は本当の血の繋がった………本当の兄妹?………」

 そう言って、夜衣花ちゃんを見る黒樹君。

 黒樹君を受けて、夜衣花ちゃんは涙を流しながら、辛く悲しそうな、それでもどこか嬉しそうな表情になって、頷いた。

 黒樹君は、夜衣花ちゃんの事を両親の知人の娘って言っていた。

 なのに、本当は黒樹君の実の妹で……どうしてそんな事になったのかは分からないけど……きっと、夜衣花ちゃんは自分は本当の妹だって、ずっと言いたかったんだと思う。

 だから、そんな表情になって………それを見た黒樹君は、少し困った雰囲気になり、少し間を置いて、春子さんに顔を向ける。

 「………春子さん。退魔士能力は、必ずしも子供に受け継がれないんですね?」

 「そうよ。ん~と、確か、同じ一族なら、九十パーセント以上。違う一族同士なら七十から八十の間でどちらかの退魔士能力が、両方となると十パーセントを下回って。片方が一般人だった場合は、大体六十から七十ぐらいが平均かしら?夜さんは……あなたのお父さんは、黒樹家とは違う退魔士家系・操形家の出身だから………夜衣斗ちゃんは七十から八十の確立に入らなかったって言えるけど………でも、黒き大樹の方は、少し事情が違うのよねぇ~」


  ★夜衣斗★

 夜衣花と俺が実の兄妹………かなりショッキングな話で………まあ、予想通りと言えば予想通りだが………予想通りでも、やっぱりかなりダメージが………はぁ……一体なんでそんな事になったんだか………まあ、ある程度は予想は付くが、現時点では可能性が多過ぎる…………まあ、何にせよ。予想出来ていても、その先の事を一切考えていなかったのはまずかったな………どこかで……そんな事はないって思ってたんだろうが………考えとくべきだったよな………夜衣花の今の顔を見ると………何を言うべきか、何にも浮かばない……………まあ、だから、話を進める事にしたんだが…………事情が違うね………ん~。

 一瞬だけ視線を芽印さんと優癒さんに向け、まだ出している春子さんの黒き大樹を見た。

 ………なるほどね。

 「………要するに、黒樹家の退魔士能力は、他の退魔士能力と違って……どちらかと言うと、武霊に近い魔法生命体なわけですね」

 「おお!さすが夜衣斗ちゃん。鋭いわねぇ~」

 俺の予想に感嘆の声を上げる春子さんだが………俺はため息を吐き、

 「………能力を見れば誰でも分かりますよ………っで、植物だとするなら、継承率は他の退魔士能力に比べて高い………種か何かで受け継がれるものなんじゃないんですか?」

 「そうよ。黒き大樹は、『胎児の段階で親の黒き大樹から種として、その子供の魂に植え付けられる』の。だから、ほぼ百パーセントの継承率なんだけど、」

 「私が悪いの!」

 不意に夜衣花が春子さんの言葉を遮り、そんな事を言った。

 私が悪い??

 「あのね夜衣花ちゃん。この事は、誰が悪いなんて事はないの。しいて悪いとすれば、黒樹家の掟ぐらいよ」

 掟ね……古臭い言葉が出てきたな………

 「でも………私さえ、私さえ夜衣斗お兄ちゃんの種を継承しなければ!夜衣斗お兄ちゃんは!」

 泣きながら叫ぶようにそう言う夜衣花。

 ………何だか、ずっと言いたくて仕方がなかったって感じに見えるな………それにしても、俺の種をね………つまり、俺に継承されるはずだった黒き大樹の種は、夜衣花に受け継がれたわけだ………ん?だったら、何で私が悪いって思うんだ?俺が種を受け継げなかった原因に、産まれてもいない夜衣花が関われるわけがない。春子さんだって否定しているわけだし………ん~誰かにそう思わせる様な何かを吹き込まれた……とか?何にせよ。

 俺はため息一つ吐き、

 「………つまり、何らかの理由で、俺は黒き大樹の種に拒絶されたわけだ……だとすると、それは俺が悪いんであって、後から生まれた夜衣花が、気にする事じゃないんじゃないか?」

 そう俺が問い掛けると、夜衣花は首を横に振り、

 「違うの……違うの。夜衣斗お兄ちゃんは悪くないの………私が『主人公』だから……だから、私さえ生まれなければ、夜衣斗お兄ちゃんは『黒き大樹を失う運命にならなかった』の!」

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