第四章『それぞれの裏、さまざまな真実』15
★夜衣斗★
………………あ~……宇宙に……異世界ね………何と言うか……規模が………ん?……そう言えば、美羽さんも隕石説とか言ってたな………まあ、退魔士達がそう見当を付けているなら………
「………そう言うって事は、星波町とは別件で宇宙・異世界に関する事例があるって事ですよね」
その俺の確認に、春子さんは頷く。
「私達退魔士が退魔する魔物にはね。幾つかのパターンがあるの」
幾つかね………
「一つは、『動植物に私達の様に魔法を身体に取り込んでしまったパターン』。この場合は、大体その動植物は本能のままにその魔法を利用し出すから、早めに退治しないといけないわけ」
本能………捕食や繁殖か?………まあ、なんであれ、確かに武霊はこのパターンじゃないな。
「二つは、『意志を持たない物体や法則に魔法が入り込んだパターン』。この場合は、大体その物体や法則の特性・特徴が増幅されたり、反転したり、意志を持ち出したり、ろくな事が起こらないのよね………」
精霊とか付喪神とかそういうのか?………ぽいといえばぽいが……これだったら退魔士でも対処が出来そうだし……確かにこれも違いそうだ。
「三つは、『人工的に魔法を組み込まれるパターン』。魔法使いはそう言う研究を良くしてたみたいでさ。そう言うのが野生化しちゃったりする場合もあるわけ。魔法使いが使い魔とかにして使うってのもあるかな?」
式神とかゴーレムとかそういうのか?……まあ、魔法使いっぽいよな。現在の魔法使いでは武霊とかを創れないなら、このパターンでもない。
「っで、主にこの三つが私達の相手なんだけど………たまにこれ以外のパターンが出てくるわけ」
「………それが宇宙と異世界?」
「そう。四つと五つが、『宇宙から飛来してくるパターン』と『異世界か侵入してくるパターン』」
飛来と侵入ね………
「まあ、宇宙から飛来してくるパターンは、魔法ばかりとは限らないんだけど……それも私達が退治したりしているわ。もっともそう頻繁には飛来してこないから、もっぱら既に飛来していたのが多いかな?……でね。ほら、この町の周辺って、やたらと隕石とか落ちてるじゃない。だから、その中の一つに武霊か忘却現象の大元があるんじゃないかって調べてはいるんだけど………」
「………今の所それらしき物は見つかってないと?」
「そうなのよ~。探知系の退魔士能力者って少ない上に、落ちている隕石の数が大きいのから小さいのまで多くてね………しかも、鯉の会は常に人員不足だし………」
そう言って、具現化中のオウキを見て、俺に視線を戻した。
「どこかにこっちの事情を知ってて、便利な武霊能力を持った子はいないかなぁ~。って。ねえ?夜衣斗ちゃん」
…………あざと過ぎ………まあ、ここまで知っておいて………だよな………
俺は大きなため息を吐き、
「………分かりました。今回の件が片付いたら、鯉の会に協力しますよ」
「え?そう?やった。これで調査がぐっと楽になるわね。沙羅ちゃん」
「そ、そうですね」
俺の了承に、喜ぶ春子さんだが、春子さん以外は若干不安そうにしながら、さっきから黙っている夜衣花を気にしていた。
………どんだけ怖がられてるんだか………と言うか、俺の中にある夜衣花のイメージからは………どうもギャップがあり過ぎるんだよな………それだけ強力な退魔士能力を持っているって事か?………まあ、それはとりあえず置いといて、
「………っで、もう一つの可能性の方は?」
「異世界からの侵入パターン?ん~こっちの方は、異世界からって言っても色々侵入経路が違うんだよねぇ~。魔物自身が自力で来たり、こっちの世界の何かを利用して来たり………」
「………魔法使いが召喚したり?」
「そうそう。漫画とかでよくある話よね?」
………なるほど、つまりだ。
「………春子さん達は、汚職事件と星波学園建設に絡んだある組織………まあ、話の流れからその組織は『魔法使いの組織』なんでしょうが………その組織が、『宇宙か異世界のどちらから武霊を呼び出し』、星波町を『武霊の実験場にしようとした』………そう疑っているんですね?」
★飛矢折★
何と言うか………あまりにも話がごちゃごちゃと深過ぎて、あたしは全く付いていけていなかった。
ひよりさんなんか、さゆりさんによりかかって寝ちゃっているし………
そもそも………あたし達はこの場に居ていいのかな?
そう思った時、黒樹君がとんでもない事を口にした。
「………その組織が、『宇宙か異世界のどちらから武霊を呼び出し』、星波町を『武霊の実験場にしようとした』………そう疑っているんですね?」
武霊の実験場?星波町が?
あたしがその言葉に唖然としていると、春子さんは少し笑って、
「どうしてそう思うの?」
その問いに、黒樹君は少し考えて、自分の考えを口にし出す。
「………まず、武装守護霊と言う存在は、基本的に戦闘……どちらかと言うと『戦争を主体に考えて創られた魔法生命体』に見えます……まあ、寄生者のイメージを武装して具現化する基本能力からして、それはまず間違いないでしょう……そして、その魔法使いの組織が、国を通して退魔士を利用した。退魔士が国と昔から深い繋がりがあるにも関わらずにです……だとすると、その組織は、『魔法を使った次世代兵器の開発』をしていると考えられます。そうでなければ、国は動かないでしょうし、退魔士達の行動を制限する事もないでしょう」
次世代兵器!?………い、いくらなんでも突拍子過ぎるんじゃ?……ここ……日本だよ?
「仮にそうだったとしても、どうして一つの町を対象にし、新たな学園を創る必要があるわけ?随分、大掛かりよね?」
「………様々なサンプルが欲しかったんでしょう。町はもちろん、新たに学園を新設すれば、しかも入るのにかなり緩く、寮まである巨大な学園を創れば、日本全国から様々な年代のサンプルが集まる。更に言えば、退魔士と言う貴重なサンプルも」
「じゃあ、忘却現象は?さっきも言ったけど、現代の魔法使いはこんな、私達退魔士まで完璧に効果ある大規模魔法は使えないわよ?」
「………個人的予想ですが………多分、忘却現象は誤算だったんでしょう」
「誤算?」
「………どう誤算になったかは……まあ、多分、コントロール出来ると踏んでいたが、結局コントロール出来なかった……とかでしょうかね?………っで、俺が誤算だと考える理由は二つ。まず、武霊発生から十年も経っているのに、未だに世界の勢力図は十年前から変わらず、使用される兵器も変わっていない………武霊と言う『強力な兵器』が手に入ったのなら、使われていないのは不自然です」
「隠ぺい工作をされているのかもしれないわよ?」
「………その可能性は否定しきれませんが、強力な兵器の隠ぺいはそれほど意味がありません」
「どうして?」
「………核兵器しかり、強力な兵器は抑止力……と言うより威圧?……の意味が付きます。武霊は、寄生者のイメージによっては、それこそ核兵器すら無効に出来るでしょ。そんな兵器をそれ目的に使わないのは、意味が無さ過ぎます………まあ、他の国も同様に武霊を兵器にしようとしているなら別の話ですが………それらしき情報は入ってないでしょ?」
「そうね。『世界各国が魔法兵器の開発に躍起になってる』って情報は入ってるけど、武霊みたいな強力な魔法兵器の話は聞かないわね」
………なんか、頭がくらくらしてきた。世界各国が魔法兵器を開発しているって………そんなの事………
黒樹君を見ると、特に動揺している様子はない……かな?………これも予想済みって事?
「………なら、武霊が星波町の外に持ち出されていない可能性が上がりますね………っで、もう一つの理由ですが、それは武霊使い強化薬と忘却剤の存在です」
?
「ん?どうしてそれが理由に繋がるの?」
あたしも思った疑問を春子さんが口にする。
「………武霊使い強化薬は、俺の聞いた限りでは五月雨都雅が初めて使った………そうですよね?」
「確かにそれまでそんな薬物が使われたって事例は……確認されていないわね」
「………そして、同じ薬物を使ったであろう頂喜武蔵が売り捌いていた忘却剤も……多分ですが、ここ最近売り始めたんじゃないんですか?」
「そうね。確かにそう報告は上がっているわ」
「………だとすると、忘却剤も武霊使い強化薬を作った者達と同じ者達と考えるのが自然でしょ?」
確かにそう考えるのが自然だろうけど………
「それはそうかもしれないけど、それと誤算だと言う理由にどう繋がるわけ?」
「………現れた時期から考えて、武霊使い強化薬・忘却剤は、魔法使いの組織が、『武霊と忘却現象を解析・研究の末に作り出した試作品』だと考えています………つまり、もし、仮に忘却現象がコントロール出来るものだったとするなら、忘却剤を作る必要性がない………と言うわけです」
その黒樹君の予想に、周囲が騒然となる。
その理由がいまいち分からず、春子さんを見ると、春子さんも驚いていて、
「ちょっと待って!忘却剤は『町の外でも売られていた』んだよ!?」
?……えっと?………驚いているって事は、春子さん達も同じ様に武霊使い強化薬と忘却剤を作っている人達が同じって考えているんだよね………
「………なら、事態は最悪な方向に進みつつあるってことでしょう」
「最悪な方向?」
「………魔法使いの組織が、武霊・忘却現象の解析をかなりの段階まで………少なくとも、『ある程度コントロール出来る』まで解析・研究が終わってる事です」