第四章『それぞれの裏、さまざまな真実』14
★夜衣斗★
その俺の問いに、周りが騒然となり、春子さんは笑みを浮かべ、夜衣花が深いため息を吐いた。
「夜衣斗お兄ちゃん。今の夜衣斗お兄ちゃんに何が起きているのか………その町にある『謎の魔法力場』のせいで、私には分からない」
そう言って目を瞑り、うつむく夜衣花。
………なるほど、外の退魔士達は忘却現象の事を謎の魔法力場って認識しているのか………ん~そう言う系統の専門家である人達が謎ね………どれだけ厄介な事になってるんだこの町は………
「………でも、でもね。今のは、うんん。今までのも、興味本位で知っていい範囲を超えているんだよ?分かってる?」
興味本位ね………確かに、外の俺なら、興味本位で聞いている………か?………いや……聞かない気がするんだが……
「………夜衣花。俺が興味本位でこんな事な厄介そうな事を聞くと思うか?」
その俺の問いに、夜衣花はうつむいたまま首を横に振る。
………まあ……だよな………俺、基本ヘタレだし。
そう思った俺は、思わず苦笑しつつ
「………それに、今、それを知ったとしても、現状の俺が何とかする……しようと思う事柄じゃないのは明らかだよ」
「そう……かな?」
「………ああ……だから、夜衣花が心配している、俺が退魔士の事情に巻き込まれる様な事は……知るだけならないはず」
今の俺は武霊の力によって、この場にいる。
それ以外の力もあるにはあるが、その全ての基点が武霊なら、町の外にまで繋がっているであろう退魔士上層部の問題は、どうあがいても、俺に何とか出来るものじゃない。
そもそも、俺は正義の味方でもないし、特殊な能力を持った退魔士でもない。ただの人間。それも平均以下の………ま 今はそんな事はどうでもいいか……今重要なのは情報だ。
例え、現状に直接関係ない事であったとしても…………はあ………本当は、積極的に関わりたく何だがな………だが、この町に来てから新たに知る情報で、無駄になった情報はほとんどない。
………つまり、この町にいる限り、俺はそう言う運命………主人公の様な運命なんだろう………いや、死の運命か?
まあ、なんであれ、そうであるなら、知る機会がある時に、知ろうとしないのは、非常に危険な気がする。
再び大きなため息を吐き、俺はとりあえず確実であろう予想を口にすることにした。
「………少なくとも、星波学園の理事長の孫である統合生徒会長が退魔士であるなら、星波学園は『退魔士達が創立に関わった、もしくは、造った学園』である可能性が高く……だとすると、その目的は、『若手退魔士養成』と考えるのが自然でしょうが………だが、そうなるとこの人数は不自然で………まあ、そこから連想すれば、『武霊発生により若手退魔士の育成が不可能になり、それを理由に退魔士の上層部は星波町への退魔士の接近を禁止し、その現象の追求・解決をしようとしない。そして、それを不審に思った鯉の会は謎の現象の調査・解決を独断・独自に開始した』……そう予想出来ますが……違いますか?」
その俺の予想に、周囲がざわつき、統合生徒会長は驚きの顔になる。
「はい。大体その通りですわ」
頷き、うつむいている夜衣花を気にしながら言葉を続ける。
「黒樹様の言う様に、星波学園は退魔士である琴野家が、次世代の退魔士を育成する為に造った学園でしたわ」
でしたわ……ね。
「ここにいる者達のほとんどは、星波学園での退魔士育成先行メンバーなのですが……御存じの様に、星波学園は創立直前に武霊発生に巻き込まれましたわ。そして、星波町内でわたくし達が混乱に陥っている間に、退魔士達はこの星波町への接近を禁止されてしまいましたの。なのに、その理由の詳細は詳しく説明されていませんの。琴野家はその直前まで忘却現象……外の退魔士の認識では、一般人が一切気付かず、退魔士能力を持つ者達でも僅かな違和感しか残らない完璧な記憶欠落認識阻害魔法力場として認識されていますわ……その調査と対抗策を他の退魔士の方々に依頼していたのですが………」
「………琴野家のトップが接近禁止を容認し、依頼を取り下げた?」
「はい。その通りですわ……ですから、わたくし達はそれに疑問に思い、十年近く掛けて色々と調べた結果。『ある組織』が国を動かして、退魔士上層部に働きかけている事が分かり、更にその組織が二十年前の空港建設の『汚職事件をねつ造して』空港建設を中止に追い込み、その尻拭いと称して琴野家に既に建設済みだった人工島を買い取らせ、星波学園を建造する様に働きかけていた様ですの」
………何だか更にとんでもない話になってきた様な………ある組織?しかも、国?ねつ造?尻拭いで買い取らせて、学園を造る様に働きかけた?…………それって、
「………そのある組織が武装守護霊を造り、実験していると?」
「違いますわ」
俺の最悪な予想をあっさり否定する統合生徒会長。
……しかし、今の話の流れで否定ね………と言う事は、
「………それに何か根拠があるんですか?」
その俺の問いに頷く統合生徒会長。
「現在の技術で、退魔士・魔法使い共に武装守護霊の様な存在は創れませんし、忘却現象の様な事も起こせませんの」
……造れないに、起こせないね……
「そもそも、退魔士の技術はそれぞれの退魔士が持つ退魔士能力を基礎にしていますの。ですので、発展・応用性に乏しく、新たな存在を創り出す事に向いていませんの」
………なるほど………確かにそんな技術しか持たないなら、武装守護霊の様な自分の意志を持ち、寄生者のイメージから戦闘能力を持った自身の身体を構築する様な高度な存在は創れそうにないな………
「そして、個人ならまだしも町単位の人の限定した記憶の操作や、限定物証の消去が出来る退魔士はいませんの」
………それって、個人だったり、限定しなければ出来るって事か?………まあ、退魔士の事やその退魔対象が世間にばれていない所を考えると、認識阻害とか人払いとか出来ないと逆に不自然だよな…………っで、そんな事を出来る人達でも、忘却現象の様な事は出来ないと………ふむ……
「………退魔士側が出来ない事は分かりましたが、魔法使い側はどうなんです?」
その俺の問いに統合生徒会長は来ていた制服のポケットから、一枚のカードを出し、俺に渡した。
そのカードには、ICチップが付いていて、『隔離』と書かれているが……なんなんだこれ?
「それは、わたくし達と懇意にしてくださっている魔法使いの方が造ってくれた物ですわ」
これが魔法具ね………ん~見た目は普通のICカードにしか見えないな………
「………それで、これはどんな魔法が使えるんですか?」
「わたくし達が人払いの結界と呼んでいる物の一種・隔離結界を発生させますの」
隔離……結界ね………
「隔離結界は、隔離したい対象を今いる空間とは少しずれた空間に隔離するものです。これによって、わたくし達は誰に見られる事も、被害を出す事もなく魔物と戦えるのですが………残念ながら、星波町では使えませんの」
……使えないね。ん~これが空間に働き掛ける魔法だとすると………
「………武霊か忘却現象の影響で使えない……とか?」
「はい。そうだと思われますわ」
「………だとすると、他の人払いの結界も同様に使えないんじゃないですか?」
「ええ、理由はそれぞれ違いますが、ほぼ使えませんわ」
………なるほど………つまり、星波町内では、下手に退魔士能力を使うと、退魔士の存在が世間にばれてしまう可能があるわけだ………それはまた厄介だが………その割には飛矢折さんや西島親子には不用意に見せている様な………いや、多分、俺の予想が正しければ彼女達は………ん~まあ、今はその事について考えている時じゃないな………
「………これらのカードは退魔士側でも作れるんですよね?」
隔離結界カードを統合生徒会長に返しながらそう問うと、統合生徒会長は頷き、
「はい、書いた文字をある程度具現化出来る退魔士などがいますので、その方達が作った物を普通は使いますの……ですが、わたくし達には……その……あまり予算がありませんので」
?……ああ……なるほど、金取られるんだ………そう言えばさっき正式な退魔士はほとんどいないって言ってたもんな……だとすると、報酬がある退魔の仕事なんて回ってこないだろうし………鯉の会は万年金欠っぽそうだな………っで、
「………それのどこに、魔法使いが武霊や忘却現象と関係ない理由に繋がるんですか?」
そう問うと、統合生徒会長は、返したカードを俺に見せ、ICチップの場所を指差した。
「現在の魔法技術は、魔法を起こす際にその全てに現代の技術。特にこのカードに着いているICチップの様に、電子技術が使われていますの」
魔法に電子技術?………漫画とかではよくある話だが………ん~実際の魔法にも使われているのか………面白いと思ってしまうのは、この状況では不謹慎だろうか?………いや、まあ、とりあえず面白がっている場合じゃないのは当たり前だが………
「聞いた話ですと、魔法使いが魔法を起こす為には、魔術式と呼ばれる魔法の型を魔術で創り、その魔術式に魔力を流し込んで、魔力を魔法に変換するそうですわ。そして、古来の魔法使いはその魔術式を自身の脳で構築していたそうですけど、それは非常に脳に負担が掛るものだったそうですの。ですから、その負担を軽減する為に、現代魔法使いは、電子機器に脳の代用をさせているそうですわ」
…………つまり、
「………現代魔法使いの魔法発現には、どこかに何らかの電子機器が必要だから、その電子機器が全くない武霊は現代魔法使いが創った物ではないと?」
その問いに、統合生徒会長は頷く。
「はい。その可能性が高いと思われますわ。もちろん、町の様々な場所を調べた結果、大規模魔法を展開している様な高性能コンピューターなどは確認されませんでしたわ」
「………大規模な魔法を使う場合は、電子機器にそれなりの性能が求められるわけですか………」
「そうですの。ですから、もし仮に武霊や忘却現象が現代魔法使いによるものなら、星波町のどこかに高性能コンピューターがかなりの数の設置され、常に稼働していなくてはおかしいんですの………もっとも、それで魔法使いが武霊や忘却現象を発現させられるかは………疑問ですわ」
疑問ね………要するに、
「………武霊と忘却現象は、現代魔法と比べて、系統が違い過ぎる上に、現代魔法でも同じことが出来ないぐらい高度な物だと?」
「その通りですわ。黒樹様」
ん~………
「………それで、鯉の会は、武霊や忘却現象は何だと思っているんですか?」
その俺の問いに、統合生徒会長は若干躊躇する様な様子を見せ、その様子に春子さんは苦笑した。
視線を春子さんに向けると、
「夜衣斗ちゃん。それは私達でも確証がない話なの。でも、そうじゃないかって見当はついているわ。と言うか、そのどっちかしかないかなぁ~って」
「………どっちか?」
「うん。『宇宙』か『異世界』のどっちか」
……………