第四章『それぞれの裏、さまざまな真実』7
★夜衣斗★
魔法使い。
美魅から聞いた話によると、魔法使いは昔、退魔士によって滅ぼされた。
そして、世間一般では、魔法使いと言う言葉は、全くのファンタジー。
なのに、その言葉が出てくる………と言う事は、つまり、ここにいる統合生徒会長達は……
「………退魔士の可能性が高い……か」
魔法使いと言う予想外の言葉に、俺は思わずそうぽそっとつぶやいていた。
瞬時に、このタイミングでそれはまずいだろ!と気付き、聞こえない事を祈りつつ、視線を統合生徒会長に向けると………驚愕の表情になっていた。
「どこでその言葉を!?」
「………漫画やゲーム」
「違いますわ!今のタイミングは、どう考えても、退魔士の事を知っているタイミングですわ。一体、誰から!それともやはり魔法使いと接触してしまわれたのですか!?」
急にヒートアップした統合生徒会長に、俺は困惑するしかないが………さて、どうしたものか………と言うか、接触してしまわれた?………まるで、俺が魔法使いと言う輩に接触される環境・状況にいて、接触してはいけない……みたいな言い方だな…………ん~……もしかして、俺の、俺自身の知らない何かを、統合生徒会長達は知ってるって事なんだろうか?ふむ………頃合いを見て鎌を掛けて見るか………
「お答えください黒樹様!」
詰め寄ってくる統合生徒会長の前に、それまで黙って俺の斜め後ろにいた飛矢折さんが前に出て、進路を塞いだ。
チラッと見た飛矢折さんの顔を見ると………全くの無だった。
うわ………完全な戦闘モード………
飛矢折さんのその様子に、統合生徒会長は少しクールダウンした様で、
「黒樹様。このままわたくし達同士が疑い合っていても意味がありませんわ」
そう言って、目を瞑り、深く息を吐いて、目を開け俺を見た。
「黒樹様は、退魔士が実在する事をご存じなのですね。どこまでご存知なのですか?」
………まあ、ここで嘘を吐いても意味がないな………
ため息を軽く吐き。
「………詳しい事は知りませんが、退魔士が実在し………魔法使い達はその退魔士達に滅ぼされた。そう聞いています」
俺の返答に、統合生徒会長は少し驚いて、小首を傾げた。
「………確かに魔法使いは退魔士に滅ぼされていますが…………随分古い情報ですわね」
古い情報?
「魔法使いは、いえ、魔法技術は、三十年前に『ある人物』の手により、現代の解釈と技術によって復元されていますの」
はあ?復元された!?………おい、美魅、これはどう言う事だ?てかホントか?
(さあ?どうだか分からないだわよ)
なんだそりゃ?
(あの時も言っただわけど、あたいは町からあまり出た事がないだわよ。それに、大体あたいは普段どこかの物や人の心の中に入って寝てるだわよ?そんなあたいが情報通なわけないだわよ)
……お前は引き籠りか……
(引き猫だわね)
………なんか嫌なネーミングだな。
(そうだわね?)
などと心の中でやり取りをしていると、ふっと何かを感じ、その感じた方向に視線を向けると……そこには、逆鬼ごっこの時に見たゴスロリ女がいた。
………?………なんか、ぞわぞわするな………
妙な違和感を感じた時、
(夜衣斗!見られているだわよ!)
はあ?そりゃ見られているだろ?
(違うだわよ!あのゴスロリっ子に、心の中を見られているだわよ!)
っな!
★飛矢折★
話が魔法使いとか、退魔士とか………武霊よりとんでもない話になってる。
しかも、その話になった途端、急に統合生徒会長が黒樹君に近付いたので、思わず邪魔をしてしまって………余計な事をしたかと思って、統合生徒会長に注意を払いながら、黒樹君を見ていたら………不意に視線をたまに学校で見かけるゴスロリ同好会の人を見て………どこか焦った、困った雰囲気になった。
視線に気付いたゴスロリ同好会の人は、少し驚いた様子になって、
「沙羅お姉様。黒樹様は本当に魔法使いに会った事がないようですが、心の中に、武霊以外の何かがいます」
「優癒!?」
唐突な報告に驚きの声を上げる統合生徒会長。………と言うかお姉様?………どう見ても姉妹じゃなさそうだけど………あたしには分からない世界?
「お姉様。今更隠しても意味がありませんわ……それに、わたしの『心読み』はばれてしまっている様ですし」
心読み?
その優癒さんの言葉に、黒樹君はため息を吐き、
「………美魅。出てきてくれ」
そう言った後、少しして黒樹君の胸から………白い猫が現れ、黒樹君の腕に抱き抱えられた。
その現れた綺麗な白猫を見た統合生徒会長達が、一斉に驚き、ざわつく。
?……武霊なのかな?………さっき、統合生徒会長が二体目の武霊とかって言ってたし………三体目?
「心渡りの化け猫………まだ生き残っていたなんて」
そう茫然とつぶやく統合生徒会長。
心渡りの……化け猫?え?武霊じゃないの?
そう疑問に思った時、
「人の心を読むなんて、デリカシーの無い子だわね」
と猫が口を開いて、優癒さんを見た。
………猫が喋った!?あ!喋ったって事は、本当に武霊じゃないって事だよね!?………もしかして、曾お祖父ちゃんが言っていた魔物の一種?
「黒樹様………もしかして、この化け猫が情報源なんですか?」
「化け猫とは失礼だわね」
「え?」
統合生徒会長の問いに黒樹君が答えるより早く、猫が化け猫と言われた事に文句を言い、驚く統合生徒会長。
「あたいには美魅ってちゃんとした名前があるだわね」
「すいません。えっと……美魅さんが情報源なんですか?」
「そうだわね。あたいが退魔士の事と魔法使いの事を夜衣斗に言っただわね」
改めて言い直した問いを、美魅さんに答えられ、統合生徒会長は何とも言えない顔になった。
「………少なくとも」
勝手に喋る美魅さんを黙らせる為か、美魅さんの頭を撫でながら口を開く黒樹君。
「………俺は魔法使いを自称する人とは会った事はありません。そして、俺が特殊な武霊使いになっている理由は……心当たりはなくはないですが………それが何なのか、また、それが合っているのか、俺自身も分かってはいません……………ですが、琴野さん達はそれに何か心当たりがあるんじゃないんですか?」
その黒樹君の問いに、統合生徒会長が固まった。
………何だか冷や汗をかいている人もいる様な………でも、どう言う事?何で黒樹君は統合生徒会長側に心当たりがあるって思ったんだろう?しかも、この反応からして、本当に心当たりがありそうだし………
押し黙る周囲の様子に、黒樹君は深いため息を吐き、
「………話せないなら、それはそれで結構です。ですが、とりあえずこれは答えてください………あなた達は、退魔士の何なんですか?」
その問いに、統合生徒会長は迷う表情を見せ、一瞬だけ、視線を誰もいないトンネルの方へと向けた。
………いえ、誰か隠れてる………凄く気配の消し方が上手い誰かが………
「わたくし達は」
統合生徒会長が若干躊躇しながら黒樹君の問いの答えを口にした。
「わたくし達は、若手退魔士の集まり………『鯉の会』……ですわ」