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第四章『それぞれの裏、さまざまな真実』4

  ★夜衣斗★

 え~………起きて早々…………何と言うか………昨日と言い今日と言い………いや、携帯で時間を見たらまだ今日だが………今日はやけにキスされる日だ………しかもそれが、ファーストで……セカンドって…………まあ、相手が美人だからいいのか?………って、よくないだろうが、一人目は人間じゃないし………二人目はなんか幼児化しているし………

 (ショックを受けているのはいいだわけど、そろそろ手を話してあげないと、困ってるだわよ、巴が)

 困る?

 美魅の言葉に、自分の手を見ると、思いっきり飛矢折さんの手首を握っていた。

 「………っす、すいません。直ぐに離しま」

 慌てて離そうとして……何故か手がうまく動かない。

 それでより慌てる俺に、飛矢折さんは

 「大丈夫………ゆっくり外しましょう」

 そう言って、俺の手に手を添えて、指を一本一本ゆっくり外し始めてくれた。

 ………漫画とかドラマとかで、必死に握った手が硬直してうまく外せないシーンとか見た事があるけど………まさか自分でそれを体験する事になるなんて………思いもしなかったな…………と言うか、あの時どれだけ必死だったんだ俺は………

 恥ずかしいやら、申し訳ないやら、なんやら心がごにゃごにゃしていると、俺と飛矢折さんの様子を見ていたひよりさんが、飛矢折さんの手首を握ってない方の腕を掴んで揺らした。

 よく分からず視線を送ると、

 「あのねあのね。お母さんから聞いたの。夜衣斗お兄ちゃんが私を助けてくれたって。だからね。だから、夜衣斗お兄ちゃんは王子様で、お姫様なの」

 …………?………えっと………逆白雪姫?

 妙に幼い口調と表情で俺に話しかけてくるひよりさんに困惑する俺。

 「黒樹君………取れたよ」

 飛矢折さんにそう言われ、握っていた手の方を見ると、半握りの状態になって………何だか感覚が無い様な………握られていた飛矢折さんの手首を見ると、くっきりと握った後が付いている。

 「………その……本当にすいません」

 くっきりと付いた後を見て、俺は申し訳ない気持ちになり、心のままにそれを言葉にしていた。

 握られていた手の状態を確認していた飛矢折さんは、にっこりと笑って、俺の硬直した手を取ってマッサージをし始めた。

 「また助けられたから………ずっと腕を握られていた事なんて気にしないよ。だから、このマッサージも気にしなくていいからね」

 そう言いながらマッサージを続けてくれる飛矢折さん。

 ………気にしなくてもいいって言われてもな………それにしても………また助けられた……ね………そう言えば、今の飛矢折さんはあの時と違って、目に意志の光が戻っている………一体、彼女は何を………って、普通に考えれば、催眠術とかの武霊能力で操られてたんだろうが………そんな事を誰にされたんだ?……あの時の状況から考えて町内スピーカーから流れてきたあの笛の音が怪しんだが………俺には影響なかったよな………?………何でだ?……………まあ、今はとりあえず………

 上半身を起こし、周囲を見回す。

 まるで山の中をくり抜いたかの様な場所だった。

 補強もなにもされていないのに、綺麗な断面のままなのからすると、武霊能力で造られたトンネル………って考えるのが自然か………

 そして、光源が近くに置かれている電気ランタンである事も合わせて考えれば………ここは普段は使われていない場所で、意識を失った俺や飛矢折さん、西島を、統合学園長がここに連れてきたのは分かるが………ここ………どこなんだろう?………まあ、武霊の事を思い出せる事からして、星波町のどこかなのは分かるが………

 ………いや、今はそんな分からない事より、ひよりさんの事だな………

 「………に」

 西島さんに呼び掛けようとしたら、ひよりさんも反応しそうだったので、若干抵抗があるが、

 「………さゆりさん」

 「なぁに夜衣斗君?」

 名前で呼ぶとさゆりさんは、少し意外そうな顔をした。

 まあ、意外なのはわかるが………とにかく、

 「………ひよりさんは、起きた時からこうでしたか?」

 俺の問いにさゆりさんは、困ったような、心配そうな顔になり、ひよりさんを見て、頭を優しく撫でた。

 撫でられたひよりさんは、気持ち良さそうに撫でられるままになっている。

 「記憶喪失……みたいなの……夜衣斗君があの時、身体の損傷だけはって言ってたのは……こういうことだったのね」

 「………はい……その……こうなる事は予想はしていました……俺の武霊の能力は、ほとんどが科学的なものですので……まあ、子供の頃から創っているものですから、かなり曖昧なところあるんですが…………忘却剤の効果がどれくらいまであるのかは分かりませんが……もし、いえ、この場合は、ほぼ確定だと思いますが、脳細胞を、シナプスなどを死滅させるようなものであった場合、修復を出来ません。そうなると、非科的な武霊能力に頼る必要がありますが………」

 チラッとさっきからパシパシとデジカメを撮っている知らない女の子を見た。

 状況から考えて、彼女は統合生徒会長の仲間……なのだろう。そして、統合生徒会長に仲間がいるのなら、彼女一人だとは考え難い。だとすると、その中に治療系武霊使いがいる可能性が高い。何故なら、多分寸頸であろう飛矢折さんの攻撃を受けた胸に、全くの痛みを感じていないからだ。あんなPSサーバントを貫通する様な攻撃を受けて無事なはずはないから、誰かが治療をしてくれた………まあ、そう考えたんだが………

 「ん?」

 視線に気づいたデジカメの女の子は、一瞬首を傾げて、

 「…あ~……えっと……非科学的な方面も無理だったよ」

 ……少し妙な間があった気がするが………まあ、なんにせよ………

 「………非科学方面もだめだったとすると……魂レベルで傷を付けられている可能性があります。そうなると治る見込みは……………時間回帰ぐらいしか思いつきませんが………果たしてそんな強力な事が出来る武霊がいるかどうか………仮にいたとしても、望む結果が得られかどうか………まあ、仮定の話をしてもしょうがないですが………」

 「………そう……じゃあ、ひよりは………もう………」

 ひよりさんに自分の顔を見せない様にする為か、辛く悲しい顔になったさゆりさんは、後ろからひよりさんに抱き付いた。

 抱き付かれたひよりさんは、ん?という感じで、さゆりさんの腕を見ている。

 「…………本人を前にこんな事を言うのはなんですが…………考えようによっては、記憶が戻らない方がいいかもしれません………都合よく戻って欲しくない記憶だけが戻らないなんて事……起こる可能性も低いと思いますから………」

 俺がひよりさんの着ているぼろぼろのワンピースを見て言った言葉に、

 「………そう………かもね」

 辛く悲しい顔のままさゆりさん微笑んだ。

 その顔を見て、居た堪れなくなった俺は、視線をひよりさんへと向けた。

 母親に抱き付かれているのが嬉しいのか、ニコニコ顔のひよりさん。

 ふとある可能性が頭に浮かんだ。

 忘却剤は嫌な事を忘れる薬だと頂嬉武蔵は言っていた。

 それはつまり、武霊によって作られたものじゃないと言う事。

 そして、自分達の主力商品だとも言っていた。

 ………だとすると………リピーターがいなくてはいけないな……………試してみいるか………

 「………ひよりさん」

 「なぁに夜衣斗お兄ちゃん?」

 俺の問い掛けに、ひよりさんは純真無垢な笑顔を俺に向けてきた。

 ………この年齢でその笑顔は………色々な意味で勘弁してほしい………とにかく、

 「………君は今何歳?」

 俺のその問いに、ひよりさん以外の三人が唐突に何を言ってるんだと言う顔を俺に向けてきた。

 「んっとね………十六歳!」

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