第三章『奪われたオウキ』88
★???★
進行方向を邪魔する様に現れるサーバント達を、全身に目を生じさせ、そこからレーザー光線を出して破壊しようとするガチャポンマン。
だが、牽制のみに集中しているサーバント達は中々レーザー光線に当たらず、当たったとしても数機のみだった。
このままなら十分な時間稼ぎをする事が出来た。
しかし、ガチャポンマンは鬱陶しいサーバント達を破壊する為に、全身からオウキのサーバント達を射出。
オウキのサーバントにより次々と破壊されるキバのサーバント。
この場にキバがいない為、新たなサーバントが追加されないキバのサーバント達は、破壊されればされるほど不利な状況になり、終には戦場から離れた場所で遠巻きに戦況を夜衣斗に見せていたスカウトサーバント一機を残して、全て破壊されてしまった。
その残されたスカウトサーバントも機体の一部が破壊されており、飛んでいるのがやっとの状態。
邪魔ものがいなくなった事を確認したガチャポンマンは町に向けて飛行を再開。
そして、星波海岸を越えようとしたその瞬間、動きが唐突に止まり、何かを苦しむ様な仕草をし、動きと同様に唐突にガチャポンマンは霧散した。
★夜衣斗★
…………そう言えば…………さっき、奪われてから感じなかったオウキの感情を感じたよな…………って事は、オウキとの繋がりが復活しているって事になる………頂喜武蔵の精神世界と言う近い場所にいるからか?………まあ、何にせよ繋がりが復活していると言うなら!
「オウキ!」
強く、強くオウキを意識する。
「オウキ!応えろオウキ!」
俺の呼び掛けに応えるオウキの感情を感じる。
それと共に、何かが俺の中から大量に流れ出す感覚がした。
……もしかして、これが魔力か?
魔力の流失と共に、オウキの感情をより強く感じる様になる。
これなら!
「いい加減に帰ってこいオウキィーーーーーーーーーー」
若干今までのうっぷん晴らしも兼ねて俺が叫ぶと同時に、ガチャポンマンの腹部が唐突に砕け、そこからオウキのミニチュアが一個のガチャポンカプセルを掲げて飛び出してきた。
オウキのミニチュアが地面に着地すると共に、その大きさは通常の大きさに戻り、その手にあるカプセルは砕け、胴体まで消滅が進んでいる頂喜武蔵が現れる。
「ああああぁぁぁああああぁああ!!!」
頂喜武蔵を奪われたガチャポンマンが再び叫び、オウキによって開けられ穴から更にひび割れが悪化する。
「終わりだ!オウキ!キバ!」
俺の呼び掛けと共に、オウキはガチャポンマンに拳を振り上げ、キバはカラスへと突撃。
オウキの拳を防ぐガチャポンマンの両腕を破壊し、ガチャポンマンを両断するように地面まで拳は振り下ろされ、
キバのホーンブレードが下から上へと振り上げられ、巨大なカラスを真っ二つにした。
★???★
「………ありえません。私達武霊チルドレンの武霊でもないのに、あの武霊能力から逃れる事が出来るなんて………」
ガチャポンマンの支配から逃れ、ガチャポンマンを倒したオウキを目撃した呼衣は、やや茫然自失と言った感じにそうつぶやいた。
その様子を感じていた弥恵は、少し考えて、
「呼衣。もう黒樹君の武霊は『コピー』した?」
弥恵の問いに、呼衣はその意図が分からず困惑の表情を浮かべつつ、頷いた。
「じゃあ、今ここにコピー武霊を出してくれる?」
「はい。お母様」
弥恵の指示も、問いと同じようにその意図が呼衣には分からなかったが、素直に従い、無限万華鏡を再具現化した。
そして、具現化した無限万華鏡は高速回転をし始め、ほどなくして覗き込み口から何かを二つ射出する。
射出されたものは始め粘土の様な物だったが、ぐにゃぐにゃと動き次第に形を成し始めた。
呼衣の武霊『無限万華鏡』は、『端末である鏡が映した武霊を完全にコピーする能力』がある。
そして、一度コピーした武霊なら、呼衣の意志力が尽きるまで何体でも何度でも複製する事が出来た。
頂喜武蔵に貸した既に消滅したはずの手下達の武霊が、まさにその武霊能力で出したコピー武霊であり、同じ様に呼衣はオウキとキバのコピー武霊を出そうとしていた。
だが、オウキとキバの形になり始めていたコピー武霊が唐突に、弾けた。
「っな!」
目の前で起こった現象に固まる呼衣。
「………そう………そう言う事なのね………黒樹君。あなたは………」
固まる呼衣とは違い、起きた現象に何か心当たりでもあったのか、辛く悲しそうな表情になった。
★夜衣斗★
二分されたガチャポンマンと巨大なカラスの二体は、分断された場所からさらさらと崩れ落ち、ほどなく完全に消滅した。
同時に現実世界のごちゃまぜガチャポンマンが消滅し、自然落下し始める頂喜武蔵。
その身体の両腕両足一部の胴体は消滅したままで………って、自然落下!?まずい!
「オウキ、キバ戻れ!」
頂喜武蔵を地面にゆっくりと置いたオウキはキバと共に俺に飛び込み、俺の中に吸い込まれる様に消える。
大きな二体に迫られちょっと怖かったが、二体が無事に俺の中に戻った事を確認した俺はウィングブースターを最大出力にしてこの場から離れる。
現実世界の頂喜武蔵がどんどん海面へと近付く。
残っているサーバントの数を確認すると………今俺に現実世界の映像を送っているスカウトサーバント以外全て消滅していた。
しかも、そのスカウトサーバントも一部壊れている様で映像がかなり乱れ、安定していない。
これじゃあ落下している頂喜武蔵を受け止める事なんて出来そうにないな…………くそ!多分、このまま頂喜武蔵が海面に激突すれば………間違いなく死ぬだろうな………そうなったら、その中にいる俺はどうなるんだろう?………一緒に死ぬのか?………何にせよ。現実世界との接点が消える事は間違いない。って事は、このままだと間違いなく帰れなくなる!
飛べば飛ぶほど、地面の光景が切り替わり、その切り替わる光景が進めば進むほど新しい記憶の光景になる様に飛ぶ。
美魅曰く、心の世界で最も外に近いのは、最も新しい記憶で構成されている所だとか……まあ、納得だな。
そして、もっとも新しいであろう俺に銃撃される光景になると共に、現実世界の頂喜武蔵が海面に激突寸前になる。
「頼む美魅!」
間に合えぇぇえええぇ!