第三章『奪われたオウキ』87
★夜衣斗★
俺の言葉にキバは応え、ガチャポンマンを何度か踏み付けて走り出す。
PSサーバントの後部カメラで後ろを確認すると、ガチャポンマンが立ち上がり、猛然とこっちを追ってきていた。
まあ、あの速度ならこっちに追い付けそうになさそうだが………バイクと言い馬と言い、今日は初めての乗り物よく乗る日だな………まあ、武霊関連だから、町の外に出れば忘れる経験なんだが………ちょっと勿体無いよな………普段の俺からするとバイクとか、馬とか、自ら乗ろうとなんてしないだろうし…………
などと思っていると、前方に宙に浮く大穴が現れた。
だが、俺の中にある魔力孔と違い、こぶしぐらいの大きさの穴が無数にある状態だった。
しかも、よく見るとその穴は収縮していて、いくつかの穴は俺が見ている前で完全に穴が埋まり、消えていた。
意味が分からず周りを見回すと、少し離れた場所に巨大なカラスみたいな……のが?…………なんだありゃ!?
★???★
呼衣が後ろを振り返ると、そこには高木弥恵がおり、無限万華鏡に手を置いていた。
「待ってくださいお母様!」
呼衣の制止の言葉に弥恵は微笑んで、トンっと無限万華鏡を叩いた。
すると、その叩いた場所から霧散し始め、瞬く間に無限万華鏡の具現化が解けてしまう。
「お母様………どうして………」
呼衣が困惑した表情を弥恵に向けると、弥恵は呼衣に近付き優しく頭を撫でた。
「呼衣は実験データの収集係でしょ?実験対象を呼衣が消してしまったら………『彼』が呼衣に何をするか分かったものではないわ」
「でも………このままじゃ華衣お姉様がお父様に………」
「大丈夫。私が何とかします」
そう言って微笑む弥恵に、少し困った様な表情になる呼衣。
「………分かりました………華衣お姉様の件は、お母様を信じます……でも、このままあれを放置するわけには………」
視線を周囲に漂っている鏡の一つ・町に向かって飛ぶガチャポンマンを邪魔するサーバント達の戦いが映っている鏡を見た。
サーバント達はうまくガチャポンマンを邪魔している様だったが、その数を確実に減らしており、突破されるのも時間の問題だった。
呼衣がその事を口にしようとした時、弥恵は別の鏡を指差す。
その鏡に視線を向けると、そこには頂喜武蔵の人工魔力孔の前に辿り着いた夜衣斗の姿が映っていた。
「このまま呼衣が何もしなくてもきっとあの子が何とかしてくれるでしょう」
そう言う弥恵の言葉に、呼衣はどこかむっとした様な感じになった。
「確かに何とかなりそうではありますが………でも、もし、黒樹夜衣斗が間に合わなかったら?」
「もちろん、その時は私が」
少し躊躇して、辛く、悲しそうな表情になった弥恵は、それでも強い意志を込めて、
「殺します」
そう口にした。
★夜衣斗★
巨大なカラスは、俺が見ている前で、そのくちばしを何もない空間に突き出した。
そして、くちばしを引き戻したその空間には、大きな魔力孔が出来ており………少し移動して再びくちばしを突き出す。そんな事をやって魔力孔を増やしている様だった。
…………つまり、あれが武霊使い強化薬の精神世界バージョンって事か?
まあ、何にせよ。新しく出来た魔力孔も、直ぐに収縮が始まっている所からすると、やっぱり武霊使い強化薬は強引に魔力孔を開ける薬に様だ。じゃなきゃ、作っているそばから消える始めるなんて現象は起きやしないだろう。
……と言う事は、あのカラスを倒す事が出来れば!
「キバ!セレクト、ホーンブレード!」
俺の命令にキバがホーンブレードを展開した時、不意にキバが横に飛んだ。
その直後に空からガチャポンマンが降ってきた。
地響きを立てて着地するガチャポンマン。
俺はすぐさまキバから飛び降り、
「キバ!ガチャポンマンを抑えといてくれ!」
キバにガチャポンマンを任せ、俺はウィングブースターを展開し、両手に二丁拳銃を出して飛ぶ。
魔力孔を作り続ける巨大なカラスに向かって二丁拳銃を連射。
銃弾は全て命中したが………カラスは特に気にせず魔力孔を開ける作業を続ける。
………そもそも、あれは武霊使い強化薬の象徴みたいなものだから、こっちでいくらやっても無駄って事か?………いや、精神世界に影響を与えるものって事は、あの薬は、武霊と同じような精神的なものって事なんじゃないんだろうか?だとすると…………単純にパワー不足か?
チラッとキバを見ると、さっきは簡単に抑えられたのに……苦戦している様だった。
まあ、さっきは不意打ちめいていたからな………こっちを何とかする余力はなさそうだが………早くしないと………
脳内ディスプレイに表示されるサーバントの数は、物凄い早さで減っていた。
どうする?どうすれば………………くそ!せめてオウキが使えれば!……………ん?オウキ?………そう言えば………
★???★
「お母様。今、最後のサーバントが消えました」
呼衣の報告に、弥恵は、ぎゅっと杖を握り、片手で杖を空へと向ける。
「お母様。やっぱり私が」
どう見ても辛そうな弥恵に、呼衣はそう申し出るが、弥恵は首を横に振る。
「これは、私が背負わなくてはいけない罪よ。呼衣に、私なんかを母と呼んでくれる娘に背負わせていいものではないわ」
「……お母様。私達は既に」
「それでもよ」
弥恵の言葉に、呼衣は困惑と共にどこか嬉しそうな感情を見せた。
「…………ごめんなさい黒樹君」
そう小声で謝って、弥恵が何かをしようとした時、
「え!?………うそ!」
唐突に呼衣が驚きの声を上げた。
呼衣の見ているのは、頂喜武蔵の精神世界が映る鏡。
そして、そこには、