第一章『武霊のある町』13
★夜衣斗★
町中からサイレンと緊急放送が聞こえる。
どうやら、美羽さんとあの機械象の武霊が戦っているようだが……。
「赤井美羽なら心配はいらない。彼女は星波町でトップレベルの武霊使いだ。昨日の様に、よほど相性が悪くない限り、簡単にやられはしないだろう」
携帯から聞こえて来た声は、成人男性のものだった。
……だが、何か違和感があった。自然な感じの声だが、どこか機械的な感じがする様な……。
「君の考えている通り、この声は合成音声だ」
………?
「言っておくが、僕の正体を隠す為に合成音声を使っているわけではない。僕の喉は声を出せない状態になっていてね。人とコミュニケーションを取る為には、これを使うしかないんだ。気を悪くしないでほしい」
声を出せないね……。
「僕の様な正体不明の相手を警戒するのは、正しい。しかし、喉が潰れていると言う嘘に、メリットがあると、君は思うか?」
……まあ、ないんじゃないんだろうか?嘘か、真実か、どっちにしろ今の状況であまり意味をなさないよな……それにしても、さっきから俺、一言も喋ってないんだが………って事は、これは、間違いなく、『携帯を操れる以外』に、電話の相手は、こちらの『心が読める』って事なんだろう。
「そう警戒しなくても、深く読めるわけではない。せいぜい、表層を少し読める程度だ」
……一体あんたは誰で、俺に何の用だ?……こっちはこれでも忙しいんだが……。
「そっちらの状況は勿論、分かっている……単刀直入に言おう。このままいけば、『君は多くの犠牲を出して、高神麗華に殺される運命』にある」
たかがみれいか?あの女の名前か?
ふっと気付くと、携帯の画面が光っており、そこに高神麗華と出ていた。
……親切な事で。
それにしても……また、『運命』か……何なんだ?俺の運命ってやつは……。
「だが、僕はその君の運命を望んでいない」
………。
「だから、僕は君を助ける為に、今、君の携帯電話に少々反則な方法で電話を掛けている」
反則な方法ね……待てよ?そもそも、何でこの普通の携帯電話で、武霊の話が出来るんだ?確か、美羽さんの話だと、忘却現象の影響で、普通の携帯電話は使えないはずだが………つまり、電話の相手は、少なくとも星波町内にいて、俺の携帯電話を無線機の様にして電話をしている。と言う事か?
「その予想は、大体あってるよ」
……だったら、こんな面倒な事をせず、直接来ればいいんじゃないか?俺が携帯を取らない可能性だってあっただろうし……
「僕にも、僕の事情がある。今は、君に会いに行ける状態じゃなくてね・・・・だが、もし、君が今回の運命に撃つ勝つことが出来たのなら、僕は君に会いに行く事を約束しよう」
……別に、そんな約束をしなくてもいい。
「………」
………。
「や・く・そ・く・だ!」
………勝手にすればいい。
何とも言えない状況に、俺は深い溜め息を吐いた。
「……さて、後は、君が僕の話を信じるか、信じないかだが」
……一応、話は聞く。信じるか信じないかは、それから決めるさ。
「賢明な判断だ」
そりゃどうも。
「まず、高神麗華の武霊だが、『本体自体はそれほど強くはない』。だが、他の武霊にはない特殊な能力を持っている為、『最も危険で、最も会いたくない犯罪武霊使い』。と言われている」
あのスライム分裂体の事だろ?
「半分は正解だ」
半分?
「あれは元、別の武霊使いの武霊だ」
……それってつまり、
「そうだ。高神麗華の武霊は、他の武霊使いの武霊を奪う能力を持っている」
……なるほど、だから、あった時、オウキの事を私の武霊ちゃんって言ってたのか……。
「最も、『ただ奪うだけならもう一人、同じ様な能力を持つ武霊はいる』」
奪うだけなら?
「高神麗華の武霊は、奪う武霊の武霊使いを『喰らい、消化する事で奪う』」
………勘弁してくれ。
と言う事は、あの出てきた武霊は、全部、武霊使いを『殺して奪った』。って事か?
衝撃的な情報に、軽くクラと来た。
「高神麗華は、『武霊コレクター』とも呼ばれている異常者だ。当然、人を殺す事に一切のためらいはない。その上、異様なほど執念深い。今まで狙った獲物は、『必ず手に入れている』。対峙するなら、加減はしないことだ」
……それって、俺に『人殺しになれ』って事か?……冗談じゃない!
「それは、君の選択次第だ。君なら、殺す事も、撃退する事も、出来るだろう?」
………。
「さて、君と直接会う為にも、もう少し高神麗華の武霊について教えよう」